産総研:\産総研第5期中長期目標期間における ダイバーシティの推進策 -本文-

Ⅰ.はじめに

  産総研は、多様な属性(性別、年齢、国籍、障がい等)を持つ人々が働くことで、研究活動が活発になり、より豊かな内容と高い成果をもたらし、結果として社会にとって有益なものになるという確信のもと、より一層、個人の持つ能力が十分に発揮できる環境の実現を目指している。
  産総研は第4期中長期目標期間において、世界最高水準の研究成果を創出しその成果の社会への「橋渡し」を達成するため、また、特定国立研究開発法人に指定されたことを受け(平成28年10月1日)、より一層研究開発等の実施体制を強化することを目的に、人材の多様性を確保し、個人の能力を十分に発揮できる環境の実現を目指してきた。
  第4期では、女性活躍推進法に基づく行動計画(平成28年4月1日~令和2年3月31日)及び次世代法に基づく行動計画(平成29年4月1日~令和2年3月31日)を策定した。女性活躍支援では、第4期累計女性研究職員採用比率を18%以上とする、管理職に占める女性比率を5%以上とし次世代の女性管理職を育成する、と行動計画目標を定めた。女性が活躍できる職場環境を実現するため、女性の大学院生・ポスドク向けイベントの定期的開催や産総研内外イベントへの参加、エンカレッジ研修の導入、在宅勤務制度の導入、研究補助員雇用支援制度の立ち上げおよび制度化を行った。これら活動の積み重ねにより、研究職採用者に占める女性の割合18.8%(第4期累積)、管理職に占める女性の割合6.1%となった(令和元年12月末時点)。次世代育成支援では、産前産後・育児休業からの職場復帰の支援、男性職員の育児休業取得促進、育児支援のための在宅勤務制度の導入、介護に関するセミナーの実施や、ランチ会の開催等を通じて、働きやすい環境の整備を進めた。外国人研究者の支援策(英語でのセミナー実施、情報発信、所内業務に係るマニュアル整備等)、障がいがあっても働きやすい環境の整備、外部機関との積極的な協力・活動を継続、公的研究機関として広くダイバーシティを推進した。
  第5期では、「世界に先駆けた社会課題の解決と経済成長・産業競争力の強化に貢献するイノベーションの創出」という産総研のミッションを遂行するため、多様なバックグラウンドをもつ全ての人々が、最大限に能力を発揮し活躍できる組織を目指し、次項に示す5つのアクションプランに基づいて、産総研におけるダイバーシティを推進する。


Ⅱ.第5期中長期目標期間のダイバーシティ推進に係るアクションプラン

  第5期中長期目標計画(資料2)、及び第4期中期目標期間のダイバーシティの推進策のまとめと課題解決のための視点(資料3)に基づき、第5期中長期目標期間のダイバーシティ推進に係るアクションプランを以下のように定める。なお、本推進策において、特に推進すべき取組を、次世代法及び女性活躍推進法に基づく行動計画(令和2年4月1日~令和7年3月31日)として策定する(本文中下線部分)(資料4)。本推進策及び行動計画は、進捗状況や環境の変化により、必要に応じて見直しを行うこととする。

1.ワーク・ライフ・バランスの実現

アクションプランのポイント:
  • 職員の柔軟な働き方に資する在宅勤務制度の拡充を検討する。
  • 仕事と家庭の両立のための支援制度として、配偶者同行休業制度の導入を検討する。
  • 男女問わず育児休業を取得しやすく、職場復帰しやすい環境の整備を促進する(行動計画:目標1)。
  • 夏季特別休暇と土日祝日に年次有給休暇を組み合わせた、9日間以上連続した長期休暇の取得者の比率が45%以上となるように、積極的に周知活動を行う(行動計画:目標2)。
  • 育児・介護等で時間制約がある研究職員への補助員雇用支援制度について、職員がより利用しやすい制度の運用に努める。
①柔軟な働き方の推進
  産総研では、仕事と家庭の両立のための支援制度の充実が図られ、個々の職員が状況に合わせて、必要な支援を選ぶことができるようになってきた。令和元年度に実施した「ダイバーシティ推進に関するアンケート」では、「あなたの職場では仕事と家庭の両立に理解があり配慮がある」という問いに対し、75.1%が「そう思う」と回答しており、仕事と家庭の両立を支援する職場環境が整ってきた。第4期では特に、国のテレワーク・デイズの取組を契機に、産総研の在宅勤務制度の拡充を検討するため、テレワーク・デイズを試行的に実施した。試行実施後のアンケートによると、時間的な余裕が生じ業務にメリハリが持て、仕事と生活の質が良くなるなど、職員の心身の健全化と生産性向上に繋がった。第5期においても、職員の柔軟な働き方に資する在宅勤務の拡充を検討する。
  また、職員の事情やニーズに応じて働き方の選択肢を拡充する制度として、平成26年2月には国家公務員において配偶者同行休業制度が施行された。配偶者同行休業制度とは、外国で勤務等をする配偶者と外国において生活を共にするための休業制度である。当該制度は有為な職員の継続的な勤務を促進するにも有効とされ導入している研究機関も多くある。産総研においても、仕事と家庭の両立支援として当該制度の導入を検討する。
②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
  男女問わず主体的に育児に関与できる職場環境等の整備を推進すると共に、ワーク・ライフ・バランス支援策を普及するため、以下の目標に対する取組を行う。
  男女問わず育児休業を取得しやすく、職場復帰しやすい環境の整備を促進する(行動計画:目標1)。このため、男性も主体的に育児に関与できるように、所内に向けて出産・育児についての意識啓発と所内制度の周知に努める。また、本人または配偶者が妊娠中の者、産前産後休業や育児休業から復帰した者に向けて、情報交換会・懇談会等を開催する。
  ワーク・ライフ・バランス支援を目的として、職員等に対し、働き方、休み方を変える第一歩として、夏季特別休暇と土日祝日に年次有給休暇を組み合わせた、9日間以上連続した長期休暇の取得者の比率が45%以上となるように、積極的に周知活動を行う(行動計画:目標2)。夏季特別休暇に年次有給休暇をプラスして、計画的に年次有給休暇が取得できるように、夏季の長期休暇取得促進等のキャンペーンを実施し、職員等に長期休暇取得を奨励する。また、業務生産性の向上を目的とした業務改革において、労働時間の削減への効果が期待できる取組を行う。
③育児・介護支援制度の柔軟な運用
  産総研では、仕事と育児・介護の両立のための支援制度の充実が図られ、個々の職員が状況に合わせて、必要な支援を選ぶことができるようになってきた。第4期においては、育児・介護等で研究実施に必要な時間の確保に苦労する状況にある研究職員を支援する補助員雇用支援策を試行の上、制度化し、支援の新たな選択肢を拡充してきた(「育児・介護等で時間制約がある研究職員への補助員雇用支援制度」産総研決定文書19-13)。第5期においては、本支援制度を運用しつつ、職員がより利用しやすい制度の運用に努める。特に介護については、個々の事情によりさまざまな状況が想定されるため、より柔軟な対応が求められる。引き続き、介護に係る情報収集を行うと共に、有効な介護支援の在り方等を検討する。
  託児施設等については、利用度の高い一時預かり保育等を継続する。

2.女性職員の活躍推進及び女性研究職員の採用拡大

アクションプランのポイント:
  • 女性管理職登用の支援を目的とした、職員のモチベーション向上と意識啓発、職場環境整備に資する取組を促進する(行動計画:目標3)。
  • 優秀な女性研究職員確保のための取組を推進し、研究職採用者に占める女性の割合は、期間累積18%の維持に努める(行動計画:目標4)。
①女性職員の活躍推進
  第4期では多様な属性を持つ人々が共に働くことで研究成果が豊かになるという確信のもと、ダイバーシティを推進してきた。行動計画策定にあたり、女性の活躍状況についての状況把握・課題分析を行った結果(平成30年度データ使用)(*1) 、産総研では、「管理職に占める女性労働者の割合」が課題であるとの判定が出た。女性職員の活躍を支援する取組の一つとして、女性管理職登用を特に推進する必要があると考えられる。第4期では、管理職(*2) に占める女性の割合は、平成26年度末時点では2.8%であったが、平成30年度末時点では、第4期の目標である5%以上を超える6.3%となった。現在、産総研では、研究職、事務職ともに、年代が低くなるほど職員に占める女性の割合が高くなる傾向があり、将来的には、各年代において、職員に占める女性の割合が高くなると見込まれる。これらの状況を踏まえ、第5期では以下の目標に対する取組を行う。
  女性管理職登用の支援を目的とした、職員のモチベーション向上と意識啓発、職場環境整備に資する取組を促進する(行動計画:目標3)。産総研の女性研究者ロードマップの作成・公開や、女性職員同士の情報交換の場を設け、女性職員が自らのキャリアのイメージを持つことを支援する取組を行う。女性職員とその上長のコミュニケーションの促進を目的として、女性のキャリアロス等の情報提供や女性職員のアンケート調査のフィードバックを行い、意識啓発を行う。女性管理職登用における状況把握・課題分析を行い、職場環境整備に努める。これらの取組の結果としての女性の活躍状況を適時把握し、関係部署で情報共有する。上記の取組を通じて、第4期から引き続き、女性管理職登用の拡大に努める。
②女性研究職員の採用拡大
  職員採用者に占める女性の割合は、事務職では35.7%、研究職では29.3%となった(令和元年12月末時点)。事務職においては、採用枠の半数を女性が占めており、女性の採用は進んでいるとみられる。研究職についても、第4期では、関係部署が積極的に採用活動に努めた結果、研究職採用者に占める女性の割合は、第4期累積目標値18%以上を超える18.8%となった(令和元年12月末時点)。これは、第3期終了時点(平成26年度末)で試算した、日本の理工系大学院の博士取得者で国内に留まると想定される女性研究者の比率(以下、「女性研究者供給率」という。)16.6%(第4期推進策、資料4)を超える実績である。なお、平成30年度末時点の女性研究者供給率は、16.0%となる。
  第5期では、多様な属性を持つ人々が共に働くことで産総研の研究開発成果の最大化に貢献するという確信のもと、第4期から引き続き、優秀な女性研究職員の確保のための取組を推進していく。女性研究者供給率に鑑み、第5期では以下の目標に対する取組を行う。
  優秀な女性研究職員確保のための取組を推進し、研究職採用者に占める女性の割合は、期間累積18%の維持に努める(行動計画:目標4)。このため、優秀な女性の大学院生・ポスドクの応募拡大を目的とし、産総研の女性研究職員との懇談会と見学ツアーの開催、人事採用担当者が就職関連イベントへ参加、産総研研究職員が女性研究職員の活躍に関する取組を学会企画行事で発表するなど、広報活動を展開する。また、将来を担う世代である女子中高生の理系選択促進のため、研究職が魅力ある職業であることを伝える機会を設ける

3.外国人研究者の採用・受入支援及び活躍支援

アクションプランのポイント:
  • 優秀な外国人研究者(*3) の採用や受入の支援を目的として、英語版の公式ホームページに外国人研究者に向けた情報を整備する等、外国人研究者へ産総研の認知度向上に資する広報活動を行う。
  • 外国人研究者の活躍に向け、全所的に英語での業務支援や情報提供を進めると共に、研究業務の円滑な実施のため、外国人研究者の日本語能力習得を支援する。
①外国人研究者の採用・受入支援
  平成30年度、外国人研究職員は141名であり、加えて、契約職員282名、外来研究員220名、技術研修員177名と、多くの外国人研究者が産総研において研究活動に従事した。第4期初年度(平成27年度)と比較して、職員ならびに契約職員は、1.4倍の伸びとなっている。グローバルな背景を持つ外国人研究者は、産総研に新しい研究手法を提案するなど、研究開発に大きく貢献することが期待される。
  第5期においても引き続き、優秀な外国人研究者の採用や受入の支援を目的として、英語版の公式ホームページに外国人研究者に向けた情報を整備する等、外国人研究者へ産総研の認知度向上に資する広報活動を行う。
  また、大型の国際共同研究拠点の本格稼働に向けて、外来研究員や技術研修員の受入れ等を円滑に行うことにより、短期滞在の外国人研究者へ産総研での研究活動の機会を提供し、外国人研究者の応募の増加に貢献する。
②外国人研究者の活躍支援
  外国人研究者の活躍に向け、産総研では第4期を通じ、全所的に英語での業務支援や情報提供を進めてきた。第5期においては、当該取組を一層推し進めるとともに、研究業務の円滑な実施のため、外国人研究者の日本語能力習得を支援する。
  AISTインターナショナルセンター(AIC)では、外国人研究者に対し、在留資格取得等の滞在・生活支援業務を継続する。また、地域センターにおける外国人研究者の活躍に資する、支援ニーズの把握に努める。外国人研究者と担当部署との橋渡し(窓口)機能を担う上では、担当部署との連携により、所内業務や手続き等に関する英語セミナーを引き続き開催する。

4.キャリア形成

アクションプランのポイント:
  • 専門家によるキャリアカウンセリングやセミナー、メンター制度を継続して実施する。
①個々に寄り添ったキャリア形成支援
  産総研で働く一人ひとりが活き活きと働き続けられるように、個々の状況に対応できる専門家によるキャリアカウンセリングやセミナー等を第5期も継続して実施する。
  また新規採用事務職員を対象に、日常業務から少し離れた立ち位置から仕事や生活に対する相談が可能な先輩職員によるメンター制度を継続する。なお、研究職員(修士卒)については、必要に応じてメンター制度を活用する。これらの支援の周知と利用者が必要とする時に利用しやすい運用整備に努め、支援の拡充を図る。
  さらに、新規採用者研修等の所内研修を通して、ダイバーシティ推進に配慮したキャリア形成支援に取り組む。

5.ダイバーシティの総合推進

アクションプランのポイント:
  • 障がい者が働きやすい職場環境を整備すると共に、法定雇用率を 遵守した雇用を促進することで、障がい者が社会の一員として活躍できるようより一層支援する。
  • 性別、年齢、国籍、障がい等の多様な属性をもつ人々を認め、理解するための全所的なダイバーシティ推進の意識を醸成する。
  • ダイバーシティ推進委員会において、ダイバーシティ推進に必要な事項を審議し、全所的な取組を展開する。
  • 国、自治体及び他の研究教育機関等と連携し、社会のダイバーシティ推進に貢献する。
①障がい者が働きやすい環境の整備
  産総研は、障がいのある者の積極的な雇用を促進している。第4期においては、法定雇用率2.5%を遵守してきたが、令和3年4月までに0.1%引き上げられ2.6%になる予定である。引き続き、法定雇用率達成及び雇用拡大を進めるため、ハローワーク等が開催する就業面接会など機会あるごとに参加し、採用できるように尽力する。また、障害者差別解消法の趣旨に基づき、e-ラーニング等を通じた情報発信を継続することで、所内の理解促進に努める。第5期においても、法定雇用率を遵守すると共に、障がい者が働きやすい環境の整備を図り、障がい者が社会の一員として活躍できるように支援する。
②ダイバーシティを推進するための意識の醸成
  「社会全体が多様性を受け入れる環境づくりを進める」ことは、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)にも明記されており、産総研が研究活動を実施するにおいても、重要な指針となる。ダイバーシティ推進に関しては、産総研で働く一人ひとりの理解が不可欠であり、所の方針決定のもと、全所的な取組が必要である。第5期においても、性別、年齢、国籍、障がい等の多様な属性をもつ人々を認め、理解するための全所的なダイバーシティ推進の意識を醸成する。具体的には、食や性の多様性についての理解を深める活動を行う。
  本推進策公表後は、その考え方を広く所に浸透させる活動を、関係部署の連携により、総務本部ダイバーシティ推進室が中心となって推し進める。また、ダイバーシティ推進に関するアンケートを適時実施する。
③ダイバーシティを推進する体制
  ダイバーシティ推進に関しては、組織全体の理解が不可欠であり、所の方針決定のもと全所的な取組が必要である。産総研ではダイバーシティの総合的な推進のために必要な事項について審議するダイバーシティ推進委員会が設置されている。本委員会において、ダイバーシティの推進策のPDCA サイクルを回し必要な施策の検討を行い、全所的にダイバーシティを推進する。実施においては、総務本部ダイバーシティ推進室が委員会事務局として、進捗把握や関係部署との調整を行う。本推進策公表後は、毎年、各年度の主要なアクションプラン進捗状況や特筆される成果を取りまとめ所内外に公表すると共に、必要に応じて見直しを行う。
④国、自治体及び他の研究教育機関等との連携
  ダイバーシティ推進の取組は全国的な拡がりを見せている。第4期では、産総研は、ダイバーシティ・サポート・オフィス(DSO)(*4) の会長機関を務める等、主要な参加メンバーとして、ダイバーシティの推進を牽引してきた。第5期も引き続き、DSO をはじめ、国、自治体及び他の研究教育機関等との連携体制を継続し、所内のダイバーシティ推進の取組に活用すると共に、産総研の取組や成果の紹介を地域社会に向けて広く行う。これらの取組を通して、社会のダイバーシティ推進に貢献していく。



(*1) 状況把握を行うべき他の3つの基礎項目(「採用した労働者に占める女性労働者の割合」、「男女の平均勤続勤務年数の差異」、「労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況」)については判定基準をクリアした。
(*2) 管理監督者及び機密情報取扱者
(*3) 本推進策では国籍によらず、外国にバックグラウンドをもつ研究者を「外国人研究者」とする。なお、研究者は、職員、契約職員、外来研究員、技術研修員を含む。
(*4) 平成19 年発足。ダイバーシティ推進に取り組む研究教育機関等の相互のイベント等の機会 提供、情報交換をするネットワーク。20 機関参加(令和2年3月時点)