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光量子コンピューターとは?

光量子コンピューターとは?

2026/06/17

#話題の〇〇を解説

光量子コンピューター

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    光量子コンピューターとは?

    光量子コンピューターとは、光の量子状態に情報を載せ、量子もつれと測定を用いて計算を行う量子コンピューターです。OptQCが採用する連続変数を使った測定誘起型では、光の量子情報に連続的な値の情報を書き込み、ベル測定を用いた量子テレポーテーションを並列に行うことで計算を進めます。

    量子コンピューターには情報データを載せる媒体として、光のほかに電子、原子、イオンなどがあり、それぞれに開発が進められています。今回は光量子コンピューターの特徴について、OptQC株式会社の園山樹量子サイエンティスト、産総研 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) 金子晋久上級首席研究員と福田大治首席研究員に聞きました。

    Contents

    光量子コンピューターの特徴

    1. 常温で稼働できる

     情報データの媒体として超伝導素子、イオン、電子スピンなどを使う場合は低温・極低温・極めて高い真空度などの極端な環境が必要となります。一方、光や中性原子を用いる場合は常温*1で動作させることができるため、非常に低消費電力なシステムを実現できます。

    2. 超高速化の可能性があり、通信ネットワークとの親和性が高い

     OptQCでは、光通信で用いられている波長である1545ナノメートルを使用しています。この波長に対応する周波数は約194テラヘルツです。

     非常に高速な情報処理が原理的に可能であり、現在の約5ギガヘルツ(GHz)程度の高速な中央演算処理装置(CPU)と比べると、千倍近い速度も理論上は夢ではありません。ただし、その実現にはさまざまな技術開発が必要です。

     また、光通信の波長帯域を使っているため、将来的には量子通信ネットワークともスムーズにつながっていくと期待されています。

    3. コンパクトなハードウエア構成を保ったままで大規模化が可能

     ファイバーレーザーをはじめとする光源、光を導くミラー群、量子もつれの状態を読み取る測定器などは、すべて小型でシンプルです。そのため、ハードウエアはコンパクトな構成になります。

     OptQCでは、ミラーなどの部品をコンパクトに容器に収めて、そのまま空間に設置する自由空間(フリースペース)のハードウエア構成を採用しており、よりシンプルかつ省エネルギーなシステムとなっています。

     さらに空間的に装置を大きくして計算の多重化を図るというよりは、時間方向の工夫によって計算の大規模化を図る手法が用いられています。この手法では、光パルス化した多数の量子モード(光量子状態)を、時間遅延素子やビームスプリッターなどを用いて時間軸上で多重に干渉させることで、網目構造を持つ量子もつれ状態、すなわち、多体量子状態を生成します。

     このとき、光パルス同士の同期が非常に重要で、ちょうど山手線のように多数の光パルスを時間的にずらして走らせ、特定の地点で別の光と確実に同期させるイメージです。量子もつれは、計算を進めるための基盤となる計算資源であり、その数が増えるほど、より大規模な計算が可能になります。

     加えて、設備を増やさなくて大規模化できる、という意味のエネルギー消費量増大の抑制につながります。この方式を開発したのは、光量子コンピューターの先駆者である東京大学古澤明教授のグループで、古澤教授はOptQCの共同創業者の一人でもあります。

    4. アナログコンピューターにできる

     光量子コンピューターには、大きく分けて、離散変数型と連続変数(CV:Continuous Variable)型の二つがあります。

     前者では、例えば光子の偏光の向きや経路などで0と1を表し、その重ね合わせ状態を「量子モード」として扱います。

     一方、後者では、光の強さや位相のような「連続的な量」、つまりアナログ情報に基づき多数の光子を量子もつれで結び、その測定によって計算を行います(CV光量子コンピューター)。

     OptQCは、このCV光量子コンピューター研究開発のパイオニアとして世界をリードしています。

    CV光量子コンピューターのしくみ

     CV光量子コンピューターでは、光の振幅と位相という連続量を量子モードとして用い、量子もつれと測定を組み合わせて計算を行います。その中核となるのが、スクイーズド光の生成、量子もつれの構築、測定型量子計算、そして、非ガウス型状態の利用です。

    1. スクイーズド光をつくる

     まず「スクイーズド光」と呼ばれる量子光を生成します。これは、量子力学のルールを破ることなく、光の振幅と位相の揺らぎのうち、どちらか一方を小さくし、その分でもう一方の揺らぎを大きくすることを許容した光です。具体的には、ファイバーレーザーの光パルスを非線形光学結晶に入れて生成します。このスクイーズド光がすべての基盤となります。

    2. 量子もつれをつくる

     スクイーズド光のパルスと別のスクイーズド光のパルスをビームスプリッターの半透過ミラーを使って干渉させると、量子もつれが生成されます。

     量子もつれにある光パルス間には強い相関が生まれ、次のような性質を持ちます。

    ・どれだけ離れていても、一方を測定すると、その結果と強く結び付いた形で、もう一方の状態が定まる

    ・二つの光の振幅や位相には特別な相関があり、ある組み合わせでは、その揺らぎが通常の光で避けられない雑音よりも小さくなる

     この性質を利用して、量子もつれの片方を「測定」することで、そのもう片方を量子力学的に「制御する」というのが光量子コンピューターの基本的な計算方法になります。この「制御」に本質的な役割を果たすのが量子テレポーテーションです。

    3. 多数の量子もつれからなる初期状態を用意し、量子テレポーテーションの原理に基づく測定によって計算

     量子もつれは、ファイバーループによる時間遅延とビームスプリッターによる干渉を用いて次々と生成されます。

     光ファイバーで構成したループ中に多数の光パルスを時間的にずらして投入すると、ループ内には量子もつれによって結び付けられた、網目状の多体量子状態が形成されます。この多体量子状態から、量子もつれを保った一対の光パルスを選び、その一方を入力の量子状態と干渉させてベル測定を行います。ベル測定とは、二つの量子状態をまとめて測定し、特定の量子もつれ状態にあるかどうかを判定する測定法です。この測定により、ベル測定を行わなかった量子もつれ相手側の量子状態が、量子テレポーテーションを通じて実質的に制御されます。これがCV光量子コンピューターの大きな特徴です。すなわち、「測定」という作業によって量子状態が制御されるため、このような計算方式を「測定型量子計算」と呼びます。

     網目状の多体量子状態を、量子もつれ状態からなる「計算資源」として用い、この資源に対して測定型量子計算を順次行うことで、最終的な出力、すなわち計算結果を測定によって得ます。どのような計算を行うかは、各段階で行うベル測定(線形光学素子+ホモダイン測定)における位相を調節することで決まります。

    4. 非ガウス型状態のスクイーズド光にする

     これまでに述べてきた、スクイーズド状態、量子もつれ、量子テレポーテーションといった量子操作を用いることで、CVに基づくアナログ量子コンピューターを実現できます。これらの量子操作はすべて「ガウス型状態」と呼ばれる枠組みに含まれますが、さらに「非ガウス型状態」を利用することで、

    ・線形計算*2にとどまらず、非線形演算を含む汎用的な量子計算が可能となる

    ・誤り耐性を備えたデジタル型量子計算機の実現につながる

     といったことが可能となります。

     しかし一方で、この非ガウス型状態を直接生成することは非常に困難です。そこでOptQCと産総研は、非ガウス型状態を測定によって誘起する手法の研究にも取り組んでいます。その方法の一つが、高品位スクイーズド光から光子を引き抜き、光子数測定に基づいて非ガウス型状態を生成する手法です。具体的には、TES(Transition Edge Sensor: 超伝導転移端センサー)*3を光子数識別器として用い、光子が検出された(すなわち光子が引き抜かれた)という情報を条件とすることで、引き抜き後の量子状態として、非常に量子性の高い非ガウス型状態が誘起されます。

    TESの写真
    光量子コンピューター研究で用いられる光学実験系の一例。非ガウス型状態生成などに用いられる検出器(TES)も、このシステムを構成する要素の一つ

     このような非ガウス型状態は、CV量子計算において非線形な量子操作を実現するための重要なリソースとなっており、誤り耐性を備えたCV量子計算の実現には不可欠な要素となります。

     非ガウス型状態化には、次のような重要な意味があります。

    ・強い量子もつれや高度な量子テレポーテーションが可能になる

    ・線形計算だけでなく、非線形計算が可能になる

    ・大きな変形を伴う構造解析や、最適化などの問題を扱えるようになる

    ・汎用量子コンピューターとして成立するために不可欠

    ・量子誤り訂正を行うために必要

     なお、量子モードは熱や電磁波などの外部ノイズ(光損失)によってエラーが生じます。外部ノイズは基本的にガウス型状態のため、CV光量子コンピューターを含む、誤り耐性を備えた汎用量子計算には、何らかの非ガウス型状態の導入が不可欠です。

    今後の課題

     きれいなスクイーズド光の作成は光量子コンピューター開発における重要な出発点です。そのためには、より高性能な非線形光学素子が不可欠であり、素子内部へレーザーパルスを効率よく導入し、損失を抑えつつスクイーズド光を高い効率で生成する必要があります。この実現のためには、平滑性の高い導波路など光学特性に優れたデバイス構造が求められます。こうした要求に応えるべく、G-QuATのQufab(超伝導量子回路試作施設)やQubed(評価テストベッド)の機能を最大限に生かして開発が進められています。

     また、演算処理速度の向上には、TESなどの検出器やベル測定を行うホモダイン測定器などの高速化が不可欠です。将来的に数百GHzを超える動作領域を実現するためには、入力から出力までを完全に光のみで処理する光回路の実装が必要になると考えられています。

     さらに、量子誤り訂正の実現は、量子コンピューター全体における最大の課題の一つです。

     従来の古典コンピューターでも、ビットは環境ノイズによって誤りが生じますが、その訂正は比較的容易でした。ところが、量子コンピューターでは方式を問わず誤り訂正が非常に難しく、根本的な課題となっています。光量子コンピューターでは、TESを用いた非ガウス型状態の生成などを通じて、量子誤り訂正への実現に向けた重要な第一歩が大きく踏み出されつつあります。しかしながら、実用化に向けては引き続き多くの技術開発が必要です。


    *1: 量子状態そのものは常温動作であり、ただし現時点では一部の高性能検出器に低温環境を要する。[参照元へ戻る]
    *2: 変数やベクトルの間に一次的(線形)な関係を前提として行う計算や解析。[参照元へ戻る]
    *3: 超伝導薄膜の温度を、超伝導状態から常伝導状態へ切り替わる「臨界温度」の直下に保った検出器。光子が入射するとわずかな熱が生じ、電気抵抗が大きく変化する。この変化量は入射した光子数に比例するため、光子数を正確に測定できる。[参照元へ戻る]

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