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G-QuATが描く量子コンピュータ産業のエコシステム

G-QuATが描く量子コンピュータ産業のエコシステム

2024/11/08

G-QuATが描く量子コンピュータ産業のエコシステム 戦略的グローバル連携で唯一無二の研究拠点を目指す

益 センター長の写真
    次世代の情報処理技術として、量子コンピューティング技術と従来型の古典コンピューティング技術を相互補完的に利用する融合計算技術が注目されている。国際的に開発競争が激化する中、産総研は「量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)」を設立。世界に先駆けたビジネス開発を見据え、量子コンピュータの社会実装とグローバルビジネスエコシステム構築を推進する。
    2024年10月、新たに益 一哉がG-QuATのセンター長に就任した。G-QuATの目指す姿と今後の抱負を聞く。

    ──これまでのG-QuATとの関わりについて教えてください。

    経済産業省が「産業技術ビジョン2020年」の中で次世代コンピューティングの普及と活用に取り組む拠点の必要性を示し、産総研は2021年に「次世代コンピューティング基盤開発拠点」を発足しました。次世代コンピュータに関わる産業・学術分野で日本が重要な位置を占めていくための戦略会議が置かれ、私は金山敏彦さん(産総研特別顧問)と共同で座長を務めました。私はもともと半導体の研究者であり、半導体の出口としての次世代コンピューティングの議論を進めていました。その間にも世界的に量子技術の応用が進み、計算エンジンとしての量子コンピュータの重要性が一気に高まったと認識しています。この戦略会議で策定した「次世代コンピューティング基盤戦略」に基づき、前身の量子デバイス開発拠点を発展する形で設立されたのがG-QuATです。私は2023年7月の設立当初から特別顧問として携わっており、このたびセンター長を拝命する運びとなりました。

     産総研は優秀な研究者が集う研究機関であり、かつ研究成果を社会実装するまでの道筋をリアルに描き、実現している組織です。今まさに生まれつつある量子コンピュータ産業を活性化し、日本の国力に貢献するミッションに直接関わることができ、ワクワクしているというのが率直な気持ちです。

    ──G-QuATの特徴とは。

    ビジネスを念頭に置いた量子コンピュータの研究拠点として、G-QuATは世界の先駆けといえる存在です。ハードウェア開発からサービス提供まで幅広く産業界と連携し、サプライチェーンとエコシステムの形成を目指します。そのためには、日本国内で閉じないグローバルな協調によって量子コンピュータの開発と利用を促進し、市場の競争と新たなニーズの開拓につなげていくことが重要です。G-QuATはこの「戦略的なグローバル展開」によって世界とWin-Winの関係を築きながら、日本の量子コンピュータ産業の足固めをしていきます。

    ──どのような取り組みが進んでいますか。

    量子コンピュータというと、白いタンクのような装置を思い浮かべる方もいるかもしれません。実はこれは、超伝導方式の量子コンピュータの冷却装置です。超伝導方式の他に、中性原子方式や光量子方式など、量子コンピュータには方式の異なる5種類があります。いずれも、従来型のスーパーコンピュータと組み合わせて計算エンジンとして使うことが想定されますが、まだ方式を絞るには時期尚早です。量子コンピュータの研究開発は急激に進展しており、ここでお話ししていることも明日には覆されているかもしれません。G-QuATでは複数の方式の量子コンピュータを誘致して、どの方式にも対応した研究開発ができる設備を整えています。

     現時点で研究が一歩リードしており、研究者やサプライヤーの数が多いのは超伝導方式の量子コンピュータです。G-QuATが運営する超伝導量子回路試作施設(Qufab)では、超伝導方式の量子コンピュータを作ろうとしている企業や研究者に向けて、部品を共同試作するためのサービスを提供しています。試作した部品をすぐに装置に組み入れて、量子コンピュータを動かすことができる、国際的にも類を見ない施設です。

     また、産業界を中心に運営されている「一般社団法人 量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」に、産総研も会員として参加しています。2024年7月には共同シンポジウム「量子未来の舞台 ~社会実装とビジネス機会~」を開催させていただきました。今後も産学官のハブとして連携していきます。

    ──G-QuATが目指す姿とは。

    第一に、日本の強みであるモノづくりの分野で、標準化を通じてハードウェア製造の競争力を持つことは、量子コンピュータ産業のサプライチェーン・エコシステムを形成する上で欠かせないと考えています。同時に、力を入れなければならないのが量子コンピュータをどのように使うか、つまりユースケースの創出です。あえて強調させていただくと、この数十年間で世界のGDPは大きく伸びていますが、製造業が占める割合はそれほど多くない。伸びているのはバイオ関連やITサービスです。モノづくりは重要ではあるものの、それだけではインパクトが小さいと言わざるを得ません。事実、量子コンピュータの市場の8割はユーザー市場であるとも予想されており、ユーザー市場の心臓部を握ることが産業化においては重要です。

     記憶に新しいところでは、ChatGPTが登場して人工知能の活用が一気に広がりました。このように量子コンピュータも一般ユーザーに使われるようになって初めて社会を変える存在になるはずです。量子コンピュータのユースケースが蓄積することでハード面、ソフト面で次の課題が見つかり、新たな技術開発、社会実装につながるというエコシステムの確立に、G-QuAT一丸となって取り組んでまいります。

    インタビューに答える益センター長の写真

    ──今後の抱負をお聞かせください。

    現在、量子コンピューティングに関わる企業やアカデミアのステークホルダーが集う共創の場として、産総研つくばセンター内にG-QuATの新棟を建設中です。新棟が完成する2025年は、偶然にも量子力学の発見100周年のメモリアルイヤーでもあります。国連が国際量子科学技術年(IYO)を宣言しており、国内外での量子技術の研究開発・交流活動は一層活発になるでしょう。私が半導体研究を始めた20世紀は、相対性理論や量子論が登場してニュートンの古典力学を作り変えた、エキサイティングな時代でした。続く21世紀は、量子力学が計算のあり方を変えようとしている。この時代に生まれたことは掛値なしに嬉しく、歴史の節目にG-QuATのセンター長を務めることに大きな使命感を感じます。

     G-QuATに集う素晴らしい研究者たち、国内外の産業界とともにグローバル産業エコシステムの構築を実現する「世界で唯一無二の研究センター」を目指します。

    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) センター長
    益 一哉 Masu Kazuya

    工学博士(東京工業大学)。東北大学助手、助教授を経て、東京工業大学教授。2018年 同大学 学長。2024年10月より現職。 専門は電子デバイス、集積回路工学。趣味は、B級グルメ的料理、クラシック音楽鑑賞、SNS発信。

    益センター長の写真

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