高度リサイクルの社会実装を加速する
高度リサイクルの社会実装を加速する

2026/06/24
高度リサイクルの社会実装を加速するSURE技術普及推進センターの挑戦
産総研では2025年12月、都市鉱山技術の社会実装とその普及を加速する拠点として、新たな研究棟「SURE技術普及推進センター(以下、「SURE PROST」)」を開所した(2025/11/26 プレスリリース)。SURE PROSTは、産総研がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトなどを通じて開発・運用してきた、廃製品の高度な選別技術・装置を集約した施設で、再生資源を元の製品と同等レベルの品質で再利用する「水平リサイクル」に向けた拠点だ。その推進母体となった「SUREコンソーシアム」を設立し、会長として率いる環境創生研究部門 大木達也首席研究員に、SURE PROST開所に込めた思いや挑戦の背景を聞いた。
選別技術の高度化と社会実装の深化で宝の山を築く「戦略的都市鉱山」
大量に廃棄される電子機器や家電製品など、廃製品の中に存在するレアメタルなどの有用資源は、鉱物を採掘する天然鉱山に見立てて「都市鉱山」と呼ばれている。その概念は1980年代には提唱されていたが、近年のレアメタル価格の暴騰などにより、廃パソコンや廃スマートフォンの部品から希少資源を回収する取り組みが、世界的に再注目されている。
「資源回収を担う都市鉱山開発には、選別技術の高度化が欠かせません。選別技術は食品や天然鉱山など多くの産業で利用されていますが、リサイクルに向けた活用では収集物の詳細な組成が不明なまま選別が行われる難しさがあります」
語るのは、SURE(Strategic Urban mining REsearch base:戦略的都市鉱山開発拠点)コンソーシアム会長・環境創生研究部門 首席研究員の大木達也だ。
「リサイクル工場に集められた廃製品は、解体・破砕・選別されて素材の種類ごとに分けられます。工場で高度な選別を行えば、素材ごとに高純度な再生原料が生成できて、再び製品の製造に利用できます。スマートフォンやゲーム機のような、貴金属やレアメタルを含む機器だけをまとめて回収すれば選別の効率は上がりますが、実際に集められるさまざまな廃製品には価値の低い金属しかないものも含まれています。そのため全体として資源価値が薄まり、貴金属やレアメタルを取り出すにはコストもかさんでしまいます」と、大木。
大木によれば、元の製品が持つ資源価値を減らさずに、同等の製品にリサイクルする高度な選別技術が検討されるようになったのは、ごく最近のこと。さらに、「この分野は学問的にもまだ十分に体系化されておらず、整理が追い付いていない部分も多い」と指摘する。
とはいえ、リサイクル工場における選別技術の高度化は、全産業にまたがる資源循環全体に影響する。廃製品を都市鉱山として有効に活用し、社会へ再び循環させていくためには、今後、選別技術の高度化が欠かせない。さらに言えば、理想的な資源循環の実現には、選別技術を高度化するだけでなく、初めから低コストで高度なリサイクルが可能な循環プロセスを設計しなければ、抜本的な課題解決にはつながらない。従来の「都市鉱山」は、単に都市に眠る資源という「存在」でしかなく、排出されてから対策を講じていた。これに対し、大木は必要な技術を適切に組み合わせ、計画的に高度なリサイクルを実現するという「開発」の視点を導入し、「戦略的都市鉱山」と名付けて提唱している。
資源が循環する流れを血液に例え、従来の製造業を「動脈産業」、リサイクルで廃製品を再び資源として利用できるようにする産業を「静脈産業」と呼ぶ。そして、大木は、この静脈産業こそが、資源循環社会を実現する新しい産業革命の原動力になると考えている。
そのためには、既存産業向けに開発された選別装置を転用するだけではなく、資源リサイクルに特化した装置開発やシステム開発を進める必要がある。
「廃棄物を大量に“カスケードリサイクル”する技術では欧州が先行していますが、特にレアメタルを製品と同等レベルの品質で再利用する“水平リサイクル”の技術に関しては、むしろ日本のほうが進んでいると言えます。高度選別技術の研究開発はまだ歴史が浅く、どの機能に重点を置くべきかといった設計思想も定まっていません。だからこそ、これから本格的な国際開発競争が始まる段階にあるのです」(大木)
「逆解析」の発想で、廃製品に含まれる金属資源を自律的に選別
SURE PROSTの1階には、各種選別試験を行える大空間ラボと複数の実験室を備える。
2階にはセミナーやイベントを開催できる「SUREホール」、研究成果を紹介する「都市鉱山ミュージアム」が設置されている。実験室には、産総研が開発・特許実用化した製品を中心に、デモ試験が可能な破砕・選別機が30台並ぶ。隣接する従来拠点の設置機と合わせると、国内外計67台の破砕・選別機を用いたデモ試験が可能だ。
SURE PROSTの2階には「都市鉱山ミュージアム」を設置。リサイクルにおける産総研を中心とした研究の歴史や研究成果を知ることができる
また、2階の「廃製品分析センター」には、NEDOプロジェクトの一環として開発中の分析装置群が導入されている。これらは、廃製品の構造データや破砕後の単体分離データを自動的に抽出できるもので、既に一部は実運用に近い形で利用が始まっている。将来的には、大空間ラボなどで実施される破砕・選別試験を高度に支援する分析拠点としての役割を担う予定だ。
廃製品分析センターには、NEDOプロジェクトで産総研が開発中の分析装置を3機設置
SURE PROSTは、隣接する既存の3拠点*1およびビジターセンターと連動して、「戦略的都市鉱山研究拠点」を構成する。大きな空間内に産総研の開発装置を集約し、国家プロジェクトによる新規技術開発から、開発技術の普及、技術者・研究者育成に至るまで、SUREコンソーシアムを核とした日本の都市鉱山の総合的な技術開発・普及拠点を目指して活動する。
なお、2018年に開設された分離技術開発センター「CEDEST(CEnter for DEveloping Sorting Technology)」は、廃製品に含まれる金属資源の自律選別システムの研究施設だ。従来の手作業による廃製品の解体・選別プロセスの10倍以上の処理速度と、廃部品を分離効率80 %以上で選別する性能を実現し、さらにこれらを無人で一貫制御する選別システムを確立しようとしている(2018/06/20 プレスリリース)。既に高品位な小型家電に限定した無人選別システムは、民間のリサイクル工場に実証導入を果たしている。(2025/09/25プレスリリース)
現在、SURE PROSTで取り組んでいるのは、多種多様な部品・素材を、機械学習などを駆使して自動認識・最適化する技術。その中心となるのが「逆解析」という手法だ。通常の「順解析」が成分を事前に把握した上で処理方法を考えるのに対し、逆解析は正体不明のものを例えば比重・磁性・電気伝導率などの物理特性で選別した結果から素材を推定する。「これによって、目の前の対象物の組成は不明でも、セラミックコンデンサーやタンタルコンデンサーといった複雑な部品も高純度で選別できます。また、推定と検証を繰り返すことで人工知能(AI)が学習を重ね、純度100 %近くにはならなくても、相応の純度に選別できれば市場価値が生まれます。網羅的な対象物に対し、いかに合理的なプロセスで純度を高めるかーー。その追及こそが、過去10年にわたる技術的進歩の核心でした」と、大木は高度選別技術が一朝一夕にできあがったものではないことを強調する。
大空間ラボ(大型実験室)および各実験室に、破砕・選別装置が30機設置されている(産総研開発13機、国内外の既存装置17機)
既存機は、産総研の開発機を補完・システム化する役割
冬の時代をくぐり抜けた、SUREコンソーシアムの実践が生きてくる
大木が会長を務めるSUREコンソーシアムは、2013年に産総研内に設立した戦略的都市鉱山研究拠点を軸に、2014年に設立した官民連携組織である。廃製品から金属資源を計画的・戦略的に回収する「戦略的都市鉱山」の実現を目指して、さまざまな形でリサイクルに関わる企業や業界団体などの会員(94機関、2026年6月現在)で構成される。その主な目標は、素材資源循環率(自給率)の向上、リサイクル産業の技術向上、リサイクル装置産業の成長によるプラントの国産化である。
SUREコンソーシアムが設立された背景には、2010年に中国がレアアースの対日禁輸が発端となる。日本への輸出が止まったレアアースが一時的に10倍近い価格に跳ね上がった。その結果、ネオジム磁石を中心とした、自動車や電子機器などの製造に不可欠な素材が調達できなくなり、日本の製造業全体に衝撃が走った。
しかし、官民が協力してレアアース使用量の削減や代替素材への移行、産地への投資拡大を急速に進めた結果、直後にレアアース価格は急落。その頃の状況を、大木は「都市鉱山冬の時代」とまで表現する。資源高騰から暴落へという大波を経験した大木は、あらためて経済安全保障に対する腰を据えた中長期的な政策を視野に入れた技術開発と、迅速な社会実装の必要性を痛感した。
「レアメタルショックのような事態がいつ発生するかわからない。それに備えて将来何が必要かを議論することに、これまでコンソーシアムは多くの時間を費やしてきました。2025年からは“状況分析から実践へ”というスローガンの下、SUREコンソーシアムをより実践的な組織・会員構成に再編し、高度な資源循環技術の社会実装を加速させる新フェーズに入っています」(大木)
会議の開催ばかりでなく、それぞれの企業で何ができるのかを実践的にサポートする体制も整いつつあった。そんな折にも、中国は再びレアアース関連の輸出規制を強める動きを見せている。
「私たちにはSUREコンソーシアムを中心として13年間にわたり、民間企業と連携した研究開発と実践の蓄積があります。これは世界でもトップクラスと自負しており、リサイクル技術の国際的な開発競争にも十分対応できます。また、資源の回収だけでなく、需給バランスが崩れた場合に備えた備蓄についても、視野に入れて検討しています」と、大木は言う。
ただ、コンソーシアムに集うリサイクル企業の多くは中小企業だ。十分な開発や設備導入をするための潤沢な資金や資材を用意するのは簡単なことではない。そこでコンソーシアム内に「SUREカウンシル」という部署を新設。SURE PROSTを活用して産総研が開発した破砕・選別装置のデモ試験を実施しながら、リサイクル企業の技術理解と適切な装置導入を促進する「エキスパート・チュートリアル」というイベントを始動した。それぞれの企業が抱える個別課題への解決策提示や、高純度再生資源を生み出す、都市鉱山技術の社会実装に向けた総合的な技術支援も担う。
技術開発・支援もするが、それだけではない。学問的に体系化されていない未知領域の技術を社会実装するためには、その指導者となる企業技術者や研究者・大学教員の育成も必要だ。コンソーシアム内に設置した「SUREアカデミー」では、「つくばトランソーティクス*2・カレッジ」を開講し、企業の技術者や大学・公的研究機関の研究者向けに、選別技術の教育カリキュラムを提供する。修了試験合格者には、講義レベルに応じた「マイスター」称号を付与する。
「新たな選別理論の開発・提唱を通じて、日本のリサイクル産業全体の基盤強化にも貢献していきたいと考えています。世界的にも、リサイクル選別学を体系的に学べる機関がまだ存在しません。そのため、まずは、企業・研究機関・大学の指導者を育成することが必要と考えています」(大木)
最後に大木は、日本のみならず世界に目を向けて、その展望を語る。
「日本の新たな産業を育てていくためにも、私たちは有用な“武器”となる技術を創り出し、それを社会に幅広く普及させていきたいと考えています。その技術が世界にとって欠かせないものとなれば、日本のリサイクル産業が、市場を国内に限定する必要もなくなります。資源回収に課題を抱える国があれば、日本の優れたリサイクルプラントを輸出し、連携して課題に取り組むことも十分に可能です。『戦略的都市鉱山』の未来は、今後さらに大きく広がっていくでしょう」
*1: CEDEST:個別装置開発を実施するNEDOプロジェクト集中研究施設(2025年現在), RECST:装置システム開発を実施するNEDOプロジェクト集中研究施設(2025年現在), LATEST:国内外37機の破砕・選別機を設置(SURE PROST別館として利用) [参照元へ戻る]
*2: 大木が提唱する「真・物理選別学」を軸とした、戦略的都市鉱山を実現するための新たな選別技術論。 [参照元へ戻る]
環境創生研究部門
首席研究員/SUREコンソーシアム会長
大木 達也
OKI Tatsuya