金属3Dプリンターとは?
金属3Dプリンターとは?

2026/03/11
金属3Dプリンター
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
金属3Dプリンターとは?
金属3Dプリンターは、3Dのデジタルデータをもとに、金属材料を用いて部品を造形する工作機械です。これは、金属の層を積み重ねて形をつくる「積層造形」という方法で実現しています。人の手をほとんど介さずに、今までの切削や鋳造といった加工技術ではできなかった複雑形状をつくったり、複数の部品を一体で造形できるようになったりと、多くのメリットがあります。樹脂材料では実現できない強度や耐熱性の高い部品を造形でき、航空宇宙、医療などの産業で活用が進みつつあります。
金属3Dプリンターは、金属加工の新たな手段として、デジタルデータを活用した次世代ものづくりや、資源を循環的に利用するサーキュラーエコノミーの実現に寄与するものとして期待されています。積層造形の材料、装置、加工、評価の工程を総合的に研究している製造基盤技術研究部門 リマニュファクチャリング研究グループの板垣宏知主任研究員と佐藤直子主任研究員に、研究開発の今と今後の可能性を聞きました。
金属3Dプリンターとは
金属3Dプリンターとは何か
従来の金属加工には、金属の塊から工具で削って形をつくる「切削加工」、溶かした金属を型に流し込んで形をつくる「鋳造」、固体の金属に力を加えて元に戻らない変形を生じさせて形をつくる「塑性加工」などがあります。これに対して、金属の薄い層を1枚ずつ積み重ねて形をつくるのが「付加加工(積層造形)」で、金属3Dプリンターの名称で知られています。デジタル技術の発展とレーザーなどで金属を溶かす高度な熱源制御技術により、従来のように人が工具や型を使わなくても、コンピューター上のデータから直接、形をつくれるようになります。
金属3Dプリンターは、はじめに3D CADと呼ばれる設計支援ツールを使用して形状データを作成します。作成した3Dモデルを層の厚さにしたがって輪切りにし、断面データに変換したうえで、これを3Dプリンターに読み込ませて造形(加工)します。樹脂材料を使う3Dプリンターと、金属を安全かつ高品質に造形するため、高出力レーザーなどの熱源や不活性ガス雰囲気の制御など、専用の装置構成を備えています。
3Dプリンターの造形方式とメリット・デメリット
3Dプリンターには下の表に示すような、7種類の造形方式があります。
| 造形プロセス |
方式内容 |
主な対応材料 |
材料押出法
Material Extrusion |
フィラメント状の材料を加熱・溶融して押し出して層を形成し、これを積み重ねて造形する方式 |
樹脂・複合材料 |
液相光重合法
Vat Polymerization |
液状の樹脂を光で硬化させて層を形成し、これを積み重ねて造形する方式 |
樹脂 |
材料噴射法
Material Jetting |
液状の材料をノズルから滴下して固めて層を形成し、これを積み重ねて造形する方式 |
金属・樹脂・ワックス |
結合剤噴射法
Binder Jetting |
粉末状の材料を薄く敷き、固めたい部分に結合剤を吹きつけて結合させて層を形成し、これを積み重ねて造形する方式。金属やセラミックスは、造形後に焼結して強度を高める |
金属・セラミックス・砂・樹脂 |
シート積層法
Sheet Lamination |
シート状の材料を積み重ねて接合し、必要な形状に切断しながら造形する方式 |
金属・樹脂・紙・複合材料 |
粉末床溶融結合法
Powder Bed Fusion |
粉末状の材料を薄く敷き、固めたい部分に熱源(レーザー、電子ビーム)を走査して溶融・凝固または焼結させて層を形成し、これを積み重ねて造形する方式 |
金属・セラミックス・樹脂 |
指向性エネルギー堆積法
Directed Energy Deposition |
粉末やワイヤー状の材料を熱源(レーザー、アークなど)の焦点位置に供給し、溶融させながら走査して層を形成し、層を積み重ねて造形する方式 |
金属 |
金属3Dプリンターのメリットとしては、複雑な形状の部品を一体成形することにより、耐久性の向上、部品数の減少、人件費の削減などが可能になる点があげられます。
これらのメリットが生かされているのが、金属3Dプリンターの活用が特に進んでいる航空宇宙産業です。従来、数百点の部品を溶接やネジ止めで組み立てていた航空機エンジン部品を一体成形できるようになると、弱い接合部がなくなることによる耐久性の向上、小型化・軽量化、材料を必要最小限まで抑制、組み立ての時間と人件費の削減といったこの技術の強みを生かせます。型をつくりやすい形状、組み立てやすい形状にするなどの配慮も必要なく、性能を高める形状を追求できます。
デメリットとしては、部品一点一点の製造時間は従来の金属加工よりも長くかかることです。従来の大量生産された製品や部材の製造工程の置き換えではコストメリットが生まれません。特性を生かせるところに導入することで、効率よく普及が進むと考えています。
金属3Dプリンターが導入されている分野
航空宇宙産業では、金属3Dプリンターで製造したエンジン部品の実機搭載がすでに進んでいます。アメリカのゼネラル・エレクトリックは2016年からジェットエンジン部品を製造、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)は2020年からロケットエンジン部品を製造しています。
自動車産業では、生産台数の少ない高級車の部品や、交換用部品の製造で実用化されています。ドイツのメルセデス・ベンツではトラック用のスペアパーツを2017年から製造、ポルシェではエンジンに金属3Dプリンター製のピストンを2020年から採用しています。日本の日産自動車では、エンジン部品の試作に金属3Dプリンターを採用し、試作期間を短縮する効果を上げています。
ヘルスケア産業では患者に合わせたインプラントの製作も行われています。複数メーカーの金属3Dプリンターを保有して、造形を受託するサービスビューローもできており、ノウハウが蓄積されています。(2018/07/19 プレスリリース)
産総研の研究
産総研が注力している研究開発
産総研では、
製造基盤技術研究部門および次世代ものづくり実装研究センター、北陸デジタルものづくりセンターを中心に、金属3Dプリンターを取り扱い、基盤的なテーマから実装・評価技術まで幅広く金属3Dプリンターに関わる研究を行っています。
特に製造基盤技術研究部門では、その一環として、金属の溶融凝固現象のさらなる解明やインプロセス評価技術に取り組むことで、欲しい特性から最適なプロセスをすぐに導き出せる「データ駆動型AM(Additive Manufacturing)プロセス」の実現を目指しています。
また、資源の廃棄を最小限にするサーキュラーエコノミー実現に欠かせない「リマニュファクチャリングプロセス(略称:リマンプロセス)」の確立にも、金属3Dプリンターによる積層造形を生かす研究を進めています。ある部材が使用によって欠けた場合などに、部材をすべて廃棄して交換するのではなく、使える部分は残し、その上に粉末床溶融(Powder Bed Fusion、PBF)結合方式・指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition、DED)方式で元の形に補修する技術や、母材の微細組織との整合性を担保する積層組織の微細構造制御に係る技術の開発を行っています。さらに、これらの研究開発の一環として、DED 補修プロセスの信頼性評価を目的としたリマンの模擬試験 にも取り組み、補修部の健全性や再現性を検証するための基礎データ取得を進めています。
PBF補修の工程
また、複数の金属材料を組み合わせて精緻に積層造形を行うマルチマテリアル技術の研究開発も始まっています。面内でのマルチマテリアル化は、積層方向のマルチマテリアル化と比べて高度な粉末制御や熱源制御が求められます。また、複数種の材料が混ざり合った粉末をいかに分離・回収するかも資源循環性を高めていくうえで非常に重要です。これらの課題を解決し、精緻なマルチマテリアル積層技術を実現することで、従来にない機能性の高い部品が形成できるようになるため、実用化が期待されています。
加えて、北陸デジタルものづくりセンターでは国内ではまだ活用事例の少ないバインダージェット方式の金属3Dプリンターを公的機関として初めて導入しました。バインダージェット方式では積層造形後に焼結する必要があり、熱収縮後の形状を精度良く予測・制御するためのデータの蓄積や高い造形能力を活用するためのデザイン創出の研究に取り組んでいます。
一気通貫の研究分野とコンソーシアムを通した連携
材料、装置、加工、評価という積層造形のすべての工程を総合的に研究していることが産総研の強みです。加工においては熱源、造形方式を幅広くカバーしており、それぞれを研究者が深く追求しているため、企業の抱える課題に一気通貫で応えることができます。さらに、企業と個別に連携した研究開発だけでなく、コンソーシアムを設立し、多くの企業や研究機関と協力したチームをつくって業界を先導することにも力を入れています。2024年10月には「リマニュファクチャリング推進コンソーシアム」を、2024年12月には「北陸デジタルものづくり研究会」を、2025年3月には「ものづくり創造コンソーシアム」を設立し、積層造形の応用についても発信しています。
普及の可能性と技術の確立がもたらす未来
樹脂材料の3Dプリンターは企業だけでなく個人にも広がり、装置も購入しやすい価格になってきました。金属3Dプリンターは装置自体の価格が高く、材料の保管や搬送などのハンドリングに係る安全性の課題もあり、BtoBでの活用が中心となります。そのなかで、従来生産方法の置き換えではなく、3次元設計やリマニュファクチャリングに向けた易解体設計などの付加価値をもった部材をいかに製造、そして実機に導入していくかが普及に向けた1つのかぎとなります。
そのためには、金属3Dプリンターのユーザーニーズを満足するための課題解決、例えば、装置自体の機能向上(造形精度や造形速度など)、材料の低コスト化や利用可能な材料の拡充などに取り組む必要があります。他方でシーズの創出による新たな応用範囲の拡大も重要と考えています。金属3Dプリンターに新たな機能を付加するシーズ技術を開発すると共に、そのユースケースを産総研が示していくことで、ユーザー企業が広がっていく可能性があります。具体的には、軽量化が課題となっている電気自動車において、金属3Dプリンターによる部品の一体成形が活用されることも考えられます。(産総研マガジン「ギガキャストとは?」)
金属3Dプリンターを活用したものづくりについて課題をお持ちの方や、産総研の取り組みに興味のある方はぜひお問い合わせください。
* JIS B 9441: 2020, 付加製造(AM)-用語及び基本概念.日本規格協会(2020)[参照元へ戻る]