変革につながるアイデアは、きっと研究の最前線にある。日本最大級の公的研究機関・産総研の公式ウェブマガジン。

量子コンピューターで使用する高周波コンポーネントの評価技術を開発

量子コンピューターで使用する高周波コンポーネントの評価技術を開発

2026/03/13

量子コンピューターで使用する高周波コンポーネントの評価技術を開発

研究者の写真
    KeyPoint 量子コンピューターの大規模化には、量子ビット数だけでなく、極低温から実際に使用される低温環境下で動作する高周波部品の信頼性が不可欠です。量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 荒川智紀主任研究員らの研究チームは、4 Kから300 Kまでの広い温度範囲で、部品の反射・伝送特性を正確に評価できる測定系を世界で初めて体系化しました。独自開発の温調ステージと校正技術により、26.5 GHzまでの高周波測定を標準レベルで実現。これにより、量子ハードウェアの設計・試作の精度を評価し、科学的に支える“ものさし”が整備され、サプライチェーンの透明性向上や新規参入促進に直結します。

    研究の背景:100万量子ビット時代に必要なのは、“部品を確かに選べる”こと

     量子コンピューターのシステム全体を見渡すと、量子ビット数の増加に伴って、極低温の量子チップと室温機器の間で高周波信号を伝送・分配・整合するコンポーネントの数が膨大に増加します。これらは発熱・体積・伝送損失などの制約の中で動作し、たった1つの部品でも想定外の動作不良が発生すると、回路全体の歩留まりや拡張性を損ねます。ところが、現状使われている多くの部品では、実使用温度(4 Kから300 Kまで)の反射・伝送特性(Sパラメーター)を十分に測定できないのが実情でした。従来の測定は温度や接続法の制約が大きく、量子コンピューターのサプライチェーン構築に耐えうる評価手法が確立されていなかったのです。必要なのは、「実使用温度で、部品のSパラメーターを評価できる汎用性の高い測定基準」。この“ものさし”が整備されれば、温度条件をそろえた性能比較が可能になり、新規参入も促進され、市場は健全に拡大します。量子の大規模化に向けて、評価の標準化は産業生態系の起点となります。

    得られた成果:4–300 K、26.5 GHz、2ポート──低温で「正しく測る」を仕組み化した

     量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 荒川智紀主任研究員らの研究チームは、低温環境下で高周波コンポーネントを汎用的に評価できる測定系を新たに構築しました。中核となるのは、独自に開発したカスタム冷凍機と機械式の高周波スイッチを備えた温調ステージです。この温調ステージは、機械式ヒートスイッチにより4 Kから300 Kまで任意の温度に制御でき、高周波校正(SOLT:ショート・オープン・ロード・スルー)と測定を同一ステージ上で完結させる設計を採用しています。

     室温側のネットワークアナライザーの2ポートは、それぞれ温調ステージ上の高周波スイッチに接続され、スイッチの切り替えによって3種類の標準器(ショート/オープン/ロード)と伝送路を選択し、校正を実行します。校正後は、測定対象コンポーネントの各端子を直接スイッチに接続し、26.5 GHzまでの2ポートSパラメーター(反射・伝送特性)を任意の温度で評価できます。装置は、端子配置や形状が異なる部品にも対応可能な治具設計となっており、温調ステージ上に多様なデバイスをセットアップできるようになっています。

    今後の展望:測る→比較する→選べる──“ものさし”が市場を創る

     本手法は、設計—試作—評価のループに「低温で正しく測る」工程を組み込み、モデルと実機のギャップを縮めます。ビジネスの目線でいえば、温度プロファイル付きのSパラメーターがそろうことで、調達と品質保証の透明性が高まり、サプライヤ選定を科学的に行えるようになります。次のステップとして、量子ハードウェアテストベッドへの本格導入と測定サービスの運用を進めつつ、材料評価(比誘電率・誘電正接・導電率)やフラットケーブルなどのインターコネクトの低温特性など、周辺領域の“ものさし”づくりも並走します。最終的には、評価系のトレーサビリティーと手順の共通化による国際標準化を目指し、将来的には誰が測っても同じ結論に近づけます。これは新規参入の障壁を下げ、市場の拡大に貢献します。


    掲載誌:IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement
    論文タイトル:Calibrated Two-Port Microwave Measurement up to 26.5 GHz for Wide Temperature Range From 4 to 300 K
    著者:Tomonori Arakawa and Seitaro Kon
    DOI:10.1109/TIM.2023.3315393
    産総研:量子コンピューターで使用する高周波コンポーネントの評価技術を開発

    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    量子ハードウェアコンポーネント研究開発チーム
    主任研究員

    荒川 智紀

    Arakawa Tomonori

    荒川 智紀主任研究員の写真
    産総研
    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    • 〒305-8560 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央事業所つくば本部・情報技術共同研究棟
    • M-G-QuAT-plan-ml*aist.go.jp
      (*を@に変更して送信してください)
    • https://unit.aist.go.jp/g-quat/

    この記事へのリアクション

    •  

    •  

    •  

    この記事をシェア

    • Xでシェア
    • facebookでシェア
    • LINEでシェア

    掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果などにご興味をお持ちの方へ

    産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
    掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、
    お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
    (Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.