EUVリソグラフィとは?
EUVリソグラフィとは?

2026/10/28
EUVリソグラフィ
とは?
―半導体微細化を支える最重要技術と日本の挑戦―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
EUVリソグラフィとは?
EUVリソグラフィは、波長13.5 nmの極端紫外線を使って半導体回路を形成する露光技術です。従来の深紫外線(DUV)では難しかった数nm世代の微細加工を可能にし、AI向け半導体や次世代プロセッサーの製造を支える基盤技術となっています。最先端半導体の量産に欠かせない技術であり、経済安全保障の観点からも重要性が高まっています。
生成AIや自動運転、量子コンピューターなどの発展を支える高性能半導体。その性能向上のカギを握るのが、回路をより微細に形成する半導体製造技術です。現在、最先端半導体の量産に欠かせない技術として注目されているのが、波長13.5 nmの極端紫外線(EUV)を利用するEUVリソグラフィです。先端半導体の重要性が高まる中、なぜEUVが必要なのか。そして日本はどのような強みを持ち、今後どのような研究基盤を築こうとしているのか。先端半導体研究センターの井谷俊郎首席研究員に聞きました。
半導体の進化を止めない、EUVという突破口
最先端の人工知能(AI)を動かす巨大なデータセンターをはじめ、スマートフォンやパソコンなど、あらゆるデジタル機器の動作を支えているのが半導体です。半導体は、回路を細かく作り込むことで、個々のトランジスタの省電力化を進めるとともに、チップへのトランジスタ積載量を増やし高性能化を実現してきました。半導体に要求される性能を今後とも満たしていくためには、回路を微細化する技術が不可欠なのです。
半導体の微細化を実現するためには、回路パターンを描く線幅を細くする必要があります。従来の技術では数十nmまでの微細化は実現できても、今後は10 nm以下、シングルnmの加工も求められていきます。その実現を可能にした技術的なブレイクスルーが、EUVリソグラフィです。
EUVとは、Extreme Ultravioletの略で、日本語では極端紫外線と呼ばれます。従来の半導体製造で利用していたDUV(Deep Ultraviolet、深紫外線)よりも波長が短く、微細な回路パターンの描画が可能になります。
産総研では、最新鋭のEUVリソグラフィの露光施設の整備を始め、先端半導体の研究開発を推進しています。
半導体は露光に用いる光の波長を短くすることで微細化を進めてきた
半導体の微細化を支えるリソグラフィ
EUVリソグラフィの基本となるリソグラフィについて、簡単に説明します。多くの半導体は、回路パターンをシリコンウエハーに繰り返し形成することで製造しています。回路パターンをウエハーに描くときに、光を使って焼き付けるのがリソグラフィです。ウエハー上には光に反応するフォトレジストを塗布しておきます。その後、回路パターンを描いたフォトマスクに光をあてて、これを縮小してウエハー上のレジストに投影します。投影したパターンに従ってレジストを部分的に溶かし、露出した金属膜などに処理を施すことで、回路パターンを生成するのです。この一連のプロセスがリソグラフィと呼ばれるもので、半導体製造の「前工程」、シリコンウエハー上に回路を作り込む段階における中核的なプロセスとなります。
光を使って回路パターンを焼き付けるとき、光の性質の1つである波長が影響を及ぼします。短い波長の光ほど、細かいパターンの転写が可能です。従来の半導体リソグラフィでは、波長193 nmのDUVを照射できる、ArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーを光源に用いていました。DUVリソグラフィでも、ArF液浸マルチパターニングといった技術を用いることで、数十nmの線幅の回路の形成が可能です。しかし、さらなる微細化には、DUVの波長では限界があり、より波長の短いEUVの利用が不可欠です。EUVの露光波長は13.5 nmと、DUVのArFエキシマレーザーの10分の1以下で、それだけ微細な半導体の製造が可能になります。
EUVリソグラフィの必要性と実現の難易度
現状では、数nm世代の最先端半導体を量産する上で、EUVリソグラフィはなくてはならない唯一の技術です。AI利用が、安全保障にも関わる重要なファクターとなっているだけに、高性能な半導体の製造プロセスを確保することの重要性はさらに高まっています。日本としても、経済安全保障の観点を含め、産総研をはじめとして、EUVリソグラフィの技術の蓄積に力を入れています。
EUVリソグラフィの仕組みが提唱、実証されたのは1980年代。その後、国内外で研究が続けられてきました。しかし、実用化までには多くの課題があり、現時点で量産機の供給を実現できたのは、オランダの半導体製造機器メーカーのASML社だけです。2019年ごろから、半導体製造プロセスにEUV露光装置が導入されましたが、実用化までには30年以上の年月がかかっています。
なぜこのように研究開発に長期間を要し、1社しか実用化にこぎつけられていないのか。それは、EUVリソグラフィの実現には複数の技術的課題があり、これらをクリアすることが難しかったからです。
総合技術としてのEUVを日本の材料・部材も支える
EUVは通常のレンズを透過しないため、高精度な反射ミラーで光を制御しています。光学系の設計・製造も、EUV実現の大きな技術課題でした。中でも最大の懸念事項は、光源のパワーの問題でした。光源出力が不足すると、半導体を大量生産するために必要な処理能力が得られず、コスト面で採算が取れなくなってしまいます。米国の光源メーカーなどの長年にわたる開発によって光源性能が向上し、ようやく量産に耐えられるレベルへと到達しました。
次いで、光学系の汚染や劣化の問題もあります。DUVまでの露光装置は、大気中で露光処理を行っていました。ところが、EUVは空気中を進むことができないため、露光環境を真空にする必要があります。真空中では、レジストや装置部材から発生する微量なガスがミラー性能を低下させるため、その対策も不可欠です。こうした課題をクリアしたことで、ASML社がEUVリソグラフィに用いる量産用露光装置を実用化させたのです。
しかし、露光装置があるだけでは、EUVリソグラフィの実用化にはたどり着けません。例えば、レジストの材料についても、感度・解像度・パターンのラフネスの3つの間にトレードオフ関係があり、EUVリソグラフィに対応する最適値を探るための研究が続けられています。すなわち、EUV露光装置だけでなく、レジストやマスク、塗布現像装置の高度化や、これらを支える各種計測装置の性能向上など、多様な技術の合わせ技で、EUVリソグラフィの実用化がかなったのです。関連する装置、材料、プロセス技術などの全てを合わせて、今後も技術開発を継続していく必要があります。さらには、それらを実現する人材やインフラ整備も重要な課題です。
量産用EUV露光装置を供給できるのは、現状、ASML社のみであることは前述のとおりです。日本のメーカーも開発に名乗りを上げていたものの、実用化には至っていません。では、日本がEUVリソグラフィや微細半導体の製造で存在感を失ってしまったのかというと、そうではありません。EUVリソグラフィのサプライチェーンにおいては、日本企業はレジスト材料やマスク基板などの分野で高いシェアを持っています。これらは、EUV露光装置に加えて、最先端半導体製造においても同様に欠かせない重要な部材です。日本が高いシェアを持つ部材の研究開発を推進していくことは、今後の最先端半導体の製造を支えることにつながります。
北海道から始まるEUV研究拠点
産総研でも、EUVリソグラフィの研究を続けています。装置を作る技術の研究開発ではなく、最先端半導体製造プロセスの研究としての位置づけです。レジストやマスク、プロセス技術など、要素技術の研究を通じて国内の装置メーカーや材料メーカーに有効な技術を提供していく考えです。この研究基盤として、産総研は最先端半導体オープン開発拠点となる新たな施設を北海道千歳市に設置予定。2029年度の稼働を目指しています。このEUV露光施設には、最先端のEUV露光装置であるASML社のHigh-NA型の装置を導入する予定です。High-NAとは、開口数(NA)を高めた露光装置で、従来のNormal-NAに比べて解像度が高く、より微細な加工が可能です。
最先端のEUV露光装置と、産総研が持つスーパークリーンルーム(SCR)、EUVリソグラフィ前後の工程のプロセス技術を組み合わせることで、装置メーカーや材料メーカーとの共同研究を促進させていく計画です。
なぜ産総研がEUV露光装置を導入するのかというと、EUV露光装置は極めて高価であり、運用コストも莫大だからです。DUV露光装置までは、各企業が単独で保有できましたが、EUV露光装置を個社が保有することは現実的ではありません。実際、欧州にはIMEC、米国にはNY CREATESなどの研究拠点があり、企業や研究機関が共同で利用できる環境が整備されています。しかし、日本国内では、そうした研究基盤が整備されていませんでした。産総研のEUV露光施設が完成することで、日本にも研究開発の環境が整備されることになります。
現実問題として、IMECやNY CREATESでは、2026年にHigh-NAのEUV露光装置が稼働します。しかし産総研の装置は2029年の稼働予定であり、3年の差があります。そうした中でわたしたちは、どのような研究に取り組んでいくかを、まさに検討している最中です。社会に貢献できる研究を探るため、「産総研先端リソグラフィ将来ビジョン協議会」を、2026年4月に設置しました。先端リソグラフィの将来ビジョンや、産総研が整備・保有する先端リソグラフィ施設の在り方について、施設を利用する予定の企業などと連携して検討することを目的としています。プロセスの研究開発や、産総研が得意なレジスト材料の研究開発などを、民間企業と協力しながら成果につなげていきたいと考えています。
半導体製造の国際競争力のカギとなる、日本発のEUV露光施設が2029年度から稼働予定