見えない未来を、見える未来へ。研究成果の社会実装を加速する産総研グループの挑戦
見えない未来を、見える未来へ。研究成果の社会実装を加速する産総研グループの挑戦

2026/10/09
見えない未来を、見える未来へ。研究成果の社会実装を加速する産総研グループの挑戦
世界を変える技術は研究室の中から生まれるが、優れた研究成果があるだけでは社会は変わらない。その技術を必要とする企業や社会課題と結び付け、価値として届ける仕組みがあって初めてイノベーションは実現する。
2023年に誕生したAIST Solutions(以下、「AISol」)は、産総研が培ってきた研究成果や研究資産を社会実装へつなぐための100 %出資のグループ会社だ。設立からの3年余りで、共同研究や知財活用に加え、データ基盤や人材育成、スタートアップ支援など、研究成果を社会へ届けるための機能を拡充してきた。現在は、産総研の内外をつなぐオープンイノベーションの中核として、その役割をさらに広げつつある。
代表取締役社長CEOの逢󠄀坂清治は、研究者と企業、そして社会をつなぐ役割の重要性を語る。
見えない未来を、どう「見える未来」に変えるのか
私たちが日常的に使っている製品やサービスの多くは、長い時間をかけて培われた研究や技術の上に成り立っている。しかし、その研究成果が社会に届くまでの道のりは決して単純ではない。
逢󠄀坂は、前職であるTDK時代を振り返りながら、数々の技術革新が異なる組織や人材との協働によって実現してきたことを語る。フィリップスが発明したカセットテープ、ソニーのWALKMAN、アップルのiPhone。こうした製品の背景には、それぞれを実現するための材料や電子部品、要素技術の進化があった。さらに、産総研が開発したトンネル磁気抵抗素子が企業の応用開発を通じてハードディスクドライブや各種センサーへ発展した事例も、その一つだ。
こうした経験を通じて逢󠄀坂が実感してきたのは、「イノベーションの主役は研究者や技術者である」ということだ。企業が新しい事業や製品を構想するとき、その実現を支えるのは最終的に技術であり、その技術を生み出すのは研究者たちにほかならない。
一方で、研究成果は生まれただけでは社会に届かない。産総研グループが目指しているのは、研究成果を創出するだけでなく、それを社会実装へつなげる仕組みを設計することだ。
産総研の研究成果や研究資産を、社会の課題と結び付けて「ソリューション」に変える
産総研には、合金、セラミックス、触媒、高分子といった材料技術をはじめ、スピントロニクス、バイオものづくり、デジタルプラットフォーム技術まで、極めて広範な研究資産が蓄積されている。逢󠄀坂は「これほど多様な研究資産を一つの研究機関が有しているのは世界的にもユニークだ」と語る。
逢󠄀坂は、「企業ニーズに応えることは重要だが、その起点は研究者や技術者が築いてきた研究成果や研究資産にある」と強調する。そして、その価値を正しく理解していなければ、企業や産業界との接続は実現できないとも語る。
しかし、研究成果が優れているだけでは社会実装にはつながらない。
重要なのは、その研究成果がどのような社会課題を解決できるのか、どの産業で価値を生み出せるのかを見いだすことだ。研究者が培ってきた研究成果や研究資産を理解し、企業や社会のニーズと結び付ける。その役割を担うのがAISolである。
AISolが目指してきたのは、研究成果と企業ニーズを結び付けることだけではない。企業との対話を通じて得られた課題やニーズを研究現場へ還流し、新たな研究や社会実装につなげる循環を生み出すことだ。
技術を探すのではなく、技術の価値を社会の文脈へ翻訳する。それがAISolの役割であり、産総研グループが目指す社会実装のかたちだ。
国研の壁を越え、イノベーション・エコシステムの中核へ
現在、日本では成長戦略の実現に向けてイノベーションへの期待が高まっている。逢󠄀坂は、多くの企業経営者との対話を通じて「産総研と連携したい」という声がこれまで以上に増えていると実感しているという。企業が求めているのは個別技術ではなく、新たな事業価値の創出であり、そのために必要な技術や人材を組み合わせる力だと逢󠄀坂は見ている。産総研グループは今、日本の成長戦略を支える重要な存在として期待を集めている。
その一方で、産総研だけで価値創出を完結させる時代ではない。
より大きなエコシステムを構築していくことが求められている中で、AISolは現在、産総研の研究成果を企業につなぐだけでなく、NIMSなど他の国研や大学との連携も進めている。社会課題を起点に必要な外部の技術や人材を組み合わせ、新たな価値創出につなげる役割も広がりつつある。逢󠄀坂は、産総研の研究資産に大学やアカデミアとの横断的な連携によるアセットが加わることで、日本の成長戦略を支えるイノベーション・エコシステムの早期の構築が可能になると語る。
その中核として産総研グループが果たす役割は、今後ますます大きくなっていくだろう。
社会実装へのExciting Journey、研究者とともに、新たな価値を社会へ
研究者にとって、研究成果を社会へ出すタイミングは悩ましい問題だ。
十分に完成してから世の中へ届けたい。その思いは自然なものだが、逢󠄀坂は「まだ完成していない段階だからこそ、新たな実装の機会と出会えることもある」と語る。世界のトップ企業が描く未来像に触れることは、研究者自身にとっても新たな可能性を開くきっかけになるという。
だからこそAISolは、研究者が社会実装へ踏み出す際の伴走者でありたいと考えている。研究成果を社会へ届けるためには、優れた研究者だけでなく、その価値を理解し社会へ橋渡しできる人材も必要になる。AISolは現在、その機能をさらに強化するため、人材の拡充や組織力の向上にも取り組んでいる。
見えない未来を、見える未来へ。その壮大な挑戦の旅路は、研究者、企業、そして社会を巻き込みながら、今前へ進み始めている。
株式会社AIST Solutions
代表取締役社長 CEO
逢󠄀坂 清治
OSAKA Seiji