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1秒が変わる?世界が検討する「秒の再定義」とは

2026/10/16

COLUMN

1秒が変わる?世界が検討する「秒の再定義」とは

     私たちが当たり前に使う時間の単位「秒」。実はその長さは国際的なルールで決められており、現在も世界中の研究者によって、より正確な定義が検討されています。なぜ秒を再定義する必要があるのでしょうか。そして私たちの生活への影響はあるのでしょうか。

    そもそも「1秒」は何を基準に決まっているのか

     現在では「秒」は絶対的なもののように思えますが、その基準は時代とともに変化してきました。かつて人類は、地球の自転を基に時間を決めていました。太陽が昇り、沈む周期から1日を定め、その1日を細かく分割したものを1秒としていたのです。しかし研究が進むと、地球の自転速度は一定ではなく、わずかな揺らぎや変動があることが分かってきました。1960年には、より安定な地球の太陽周りの公転をもとに「秒」が定義されましたが、これも一定不変とは考えられません。何より安定度を評価するのに時間がかかり過ぎるという問題がありました。

     そこで1967年、秒はセシウム原子の振動を基準とする定義へと切り替わりました。原子は決まった周波数で極めて安定して振動するため、地球の自転よりもはるかに正確な時間を作り出せます。現在の国際単位系(SI)における秒は、このセシウム原子時計によって実現されています。

    原子時計の原理

    なぜ秒の再定義が議論されているのか

     セシウム原子時計は現在でも非常に高い精度を誇ります。しかし、時計の技術はさらに進歩しています。

     近年登場した光時計は、セシウム時計で使われるマイクロ波よりもはるかに高い周波数の光を利用します。周波数が高く、単位時間あたりの振動回数が多いほど時間を細かく測れるため、より高精度な時計を実現できるのです。特に注目されているのが「光格子時計」です。これは日本で発明された方式で、現在世界最高水準の精度を持つ時計の一つとして研究開発が進められています。

     その精度は驚異的です。セシウム原子時計が1億年に1秒程度の誤差であるのに対し、光格子時計は数百億年に1秒程度しかずれないレベルに達しています。

     光格子時計の役割は、「より正確な時間の標準を提供する」ことだけではありません。科学研究においては、高精度な時計そのものが新たな発見の道具になります。ダークマター探索や地球内部構造など、これまで見えなかった現象や事象を捉える可能性も期待されています。一般相対性理論によれば、重力ポテンシャルの高低によって時間の進み方はわずかに変化します。地球でいうと、標高の高いところほど時が速く流れ、時計は速く進みます。光格子時計は標高の差や高低差の変化を数cmレベルで検出できるほど高精度であり、地殻変動の観測や資源探査に役立つデータが得られると考えられています。

    光格子時計(産総研マガジン「次の1秒を書き換える光格子時計」)

    秒の長さは変わらない、それでも再定義する理由

     「秒の再定義」と聞くと、私たちが日常的に使っている時計が突然変わるように感じるかもしれません。しかし実際には、現在の1秒との連続性を保ったまま定義を見直すことが前提です。そのため、生活の中で秒の長さが変わったと感じることはないでしょう。それなのに、1秒の定義をより高精度なものにする意義はどこにあるのでしょう。

     時間は他のどの物理量に比べても高い測定精度が得られます。そのため、長さや電流、そして質量といったさまざまな物理量が時間を基準にしています。例えば、長さの単位「メートル」はある決まった時間に光が進む距離が基になっており、電流は単位時間あたりにある地点を通過する荷電粒子の数が基になっています。最近プランク定数を使った定義に変更された質量についても、時間と無縁ではありません。時間の測定精度はこれらの物理量の測定精度にも貢献しています。

     身近な例では、GPSなどの衛星測位システムも時間を利用しています。人工衛星に搭載された時計と観測者の時計との時刻差から両者の距離を求めるその仕組みから明らかなように、より正確な時計は高精度な位置情報サービスを支えているのです。

     このように、時間の計測は、多くの分野を支え牽引する重要な基盤となっています。秒の再定義は、この基盤をより確かなものにするとともに、科学全体の底上げを図り、新たな発見や発明の可能性を広げるための取り組みなのです。

    日本はどのように関わっているのか

     こうした議論の舞台となるのが、国際度量衡総会(CGPM)です。CGPMは各国が参加し、メートルやキログラム、秒といった国際単位系の将来を決定する国際会議です。2026年の総会では、秒の再定義に向けたロードマップの推進や、うるう秒の見直しなどが議論されました。

     日本としては、産総研 計量標準総合センター(NMIJ)が国家計量標準機関として重要な役割を担っています。臼田 孝計量標準総合センター長が国際度量衡委員会(CIPM)の委員となっており、今回のCGPMでは議長を補佐し、総会議事進行役を務めました。また、NMIJの研究者は国際的な専門委員会に参加し、光格子時計をはじめとする次世代時計の研究開発や国際比較を進めています。

    「より正確な1秒」を求める挑戦は続く

     時間は目に見えません。しかし正確な時間がなければ、通信、金融、交通、科学研究といった現代社会の基盤は成り立ちません。

     秒の再定義は、時計を作り直すための議論ではなく、「世界共通の時間」をさらに信頼できるものにするための挑戦です。私たちがスマートフォンで何気なく確認する時刻の裏側では、世界中の研究者が「より正確な1秒」を追い求めています。

     その挑戦は、未来の産業や新たな科学的発見を支える土台になるかもしれません。そしてその最前線に、日本発の光格子時計と産総研の研究があるのです。

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