サーメットとは?
サーメットとは?

2026/09/09
サーメット
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
サーメットとは?
サーメットとは、単体では硬いが脆い炭窒化チタンなどのセラミックスを、靭性・延性のあるニッケルなどの金属と混合し、焼結して得られる複合材料です。セラミックス由来の高い硬度・耐摩耗性と、金属由来の靭性を併せ持つのが特徴で、主に切削工具や金型などに用いられます。その一方で、原料調達の制約や極度の高温環境下での強度低下が指摘されることもあります。
自動車や航空機、化学プラントなどの産業では、通常の素材よりも切削の難しいステンレス鋼やニッケル合金、チタン合金などの難削材の加工が増えています。これらの切削では摩擦熱により1000~1200 ℃近い高温まで上昇し、従来の工具では強度維持が課題となってきました。さらに、類似材料として広く用いられる超硬合金は希少金属(レアメタル)であるタングステンを90 %以上含み、特定地域に依存する資源リスクも抱えています。こうした背景から、産総研ではサーメットに着目し、従来の融点約1500 ℃の金属結合相を融点約3000 ℃の超高融点金属に置き換えることで、高温強度と資源制約の双方の克服を目指しています。こうした研究に取り組む製造基盤技術研究部門 表面機能・トライボロジー研究グループ 村上敬上級主任研究員に話を聞きました。
サーメットとは
サーメットの特長
サーメットとは、高硬度のセラミックスと靭性のある金属、2つの異素材を組み合わせた複合材料です。一般には、炭化チタン粒子をニッケルなどの金属で結合した材料を用います。製造工程では、融点約3000 ℃で高硬度の炭化チタンと、衝撃に強く融点約1500 ℃の金属の混合粉末を成形し、金属が液相となる温度域まで加熱して焼結します。溶融した金属が粒子間を満たすことで、セラミックスと金属が一体化した構造が形成されます。
サーメットの特長は、セラミックスの硬さ・耐摩耗性と、金属の靱性を兼ね備えている点にあります。セラミックスは硬い反面、衝撃で割れやすい性質がありますが、金属は靱性を持ち割れにくい一方で、強度や耐摩耗性ではセラミックスに劣ります。サーメットは両者の特性を組み合わせることで、耐摩耗性と靭性のバランスに優れた材料となっています。
用途と従来材料との違い
サーメットは主に機械部品のほか切削工具や冷間鍛造用の金型に用いられ、特に鋼系材料の加工で安定した性能を発揮します。被加工材との反応性が低く、摩耗や溶着が起こりにくいためです。
類似材料として広く使われているのが超硬合金です。超硬合金は炭化タングステンをコバルトで結合した材料で、組成の大部分をレアメタルのタングステンが占めます。
近年は、自動車、航空機、化学プラント産業などを中心にステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金などの難削材の加工が増加しています。これらの材料を切削する際には摩擦熱により工具先端の温度が大きく上昇してしまい、通常の加工が500 ℃程度であるのに対して難削材では1000~1200 ℃に達することもあります。こうした高温環境では従来工具の性能維持が難しくなります。
さらに、超硬合金で使用されるコバルトは特定化学物質に指定されており、環境負荷や取り扱いの観点でも課題が指摘されています。こうした背景から、高温耐性と資源・環境面の両面で優位性を持つ材料として、サーメットへの関心が高まっています。
耐熱・工具用材料の高温強度
産総研におけるサーメットの研究
超高融点サーメット開発の背景
産総研で研究が進められているサーメットは、従来のサーメットよりも融点を大幅に高めた材料です。研究の出発点は、セラミックスのみで切削工具を作ろうとした試みでした。しかし、セラミックスは硬度に優れる一方、工具用途では脆さが課題となりました。そこでタングステンなどの金属を添加したところ、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope, TEM)観察で、従来見られなかった超微細網目状構造の組織が確認されました。
結合材の置換による高融点化
産総研が開発する超高融点サーメットの最大の特徴は、結合材となる金属にあります。従来のサーメットで用いられるコバルト、ニッケル、鉄など融点約1500 ℃の素材に代わり、本研究ではこれらをタングステンやモリブデンといった融点2500~3500 ℃の超高融点金属に置き換えました。
現在は炭窒化チタンにタングステンを結合させる構成としており、融点は約3000 ℃に達します。これにより1500 ℃以上の高温環境でも工具として使用可能となり、従来のサーメットの耐熱限界であった約1000 ℃から大きく性能が向上しました。
高温強度を支える3つの技術的特徴
この高い耐熱性は、主に3つの技術的特徴によって実現されています。
1つ目は超微細な網目状構造です。この微細構造は2000 ℃まで温度を上げても崩れず、高温強度を向上させます*1。
2つ目は固溶強化です。炭窒化チタンの一部にタングステンが固溶することで、材料全体の強度が向上します。
3つ目は整合結合です。内部観察では、炭窒化チタンにタングステンが溶け込んだ領域と溶け込んでいない領域が共存しています。タングステンは拡散速度が遅いため完全には溶け込みきらず、その境界で両素材の原子レベルの強固な整合結合が形成されます。これがさらなる強度向上につながっています。
これらの相乗効果により、超高融点サーメットは高温環境下でも優れた強度を維持します。
応用効果と資源リスク低減
開発したサーメットで切削工具を作製し、スーパーステンレス鋼相手に通常の4、5倍の切削速度(800 m/min)で切削試験を行ったところ、従来工具の2~10倍の寿命を示すことが確認されました*2*3。
また開発したサーメットを複数の材料を一体化させる摩擦撹拌点接合(Friction Stir Spot Welding , FSSW)工具に適用しました。その結果、低炭素鋼板同士の接合回数は、従来の超硬合金、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などでの工具では低炭素鋼板同士の接合が数十回程度、窒化ケイ素工具でも最大で1000回にとどまるのに対し、2000回以上可能であることが確認されました。従来金型では対応が難しかったインコネル718合金(ニッケル基超合金の一種)の恒温鍛造も、開発したサーメットの金型により真空中900~1100 ℃でできることも確認されています*4。
本サーメットに用いられる材料は、融点向上だけでなく資源面の利点も持ちます。超硬合金は材料の90 %以上がタングステンですが、本サーメットでは使用量を60~70 %程度に抑えています。レアメタルのタングステンは産出国が限られるため資源リスクが指摘されていますが、本材料はその低減にも寄与します。
製造プロセスと今後の展開
製造プロセスの改良も進められています。開発したサーメットの製造はもともと加圧焼結で行っており、1個ずつ型内で加圧しながら加熱するため生産数は1日あたり5、6個程度に限られていました。これに対し、最近は炉内で自然収縮させる常圧焼結でも本サーメットを製造できることが確認されており、1回の焼成で数十~数百個の製造が見込まれます。常圧焼結材は加圧焼結材とほぼ同じ室温強度・靭性・密度を示すことはすでに確認済みですが、工具としての特性は今後確認する予定です*5。
さらに開発しているサーメットについて、タングステン以外の超高融点金属への置換も検討されています。モリブデン、タンタル、ニオブが候補であり、特にモリブデンではタングステン添加材と同様の超微細網目状構造の形成が確認されています。一方で、タンタルは高コスト、ニオブは高粘性による微粉末化の難しさや流通量の少なさといった課題があります。
低炭素鋼板同士の摩擦撹拌点接合(FSSW)の外観(2000打点付近)
今後の展望
超高融点サーメットの実用化に向けては、いくつかの課題が残されています。
そのうち一つが、タングステン依存です。産総研のサーメットは、超硬合金に比べればタングステンの使用量を削減できていますが、それでも60~70 %を含んでいます。そのため、材料特性を維持しながら、タングステンをさらに別の高融点金属に置き換えることが求められています。
また、実用化のためには製造コスト削減も重要です。常圧焼結による量産化が実現すれば、製造効率は大きく向上するでしょう。また企業によって加工したい材料はさまざまであるため、ニーズに応じた材料バリエーションの開発も必要です。
超高融点サーメット実用化により、難加工材の高速切削加工が容易になります。これにより、これまで加工時間の長さがネックになっていた難加工材の利用が増加するでしょう。さらに2000 ℃近くまで使用できる特性を生かし、超高温環境での新たな用途の開拓が期待されます。
産総研では、企業との連携を深めながら、超高融点サーメットの実用化を目指しています。
*1:T. Murakami et al., High-temperature compression tests of Ti(C, N)–70 wt% W cermet and isothermal forging of Inconel 718 alloys using cermet molds, J. Mater. Res. Technol., 24 (2023) 6578-6587. [参照元へ戻る]
*2:T. Murakami et al., Microstructural, mechanical, and high-speed cutting properties of Ti(C, N)–(Ti, W, Re)(C, N)–(W–Re) cermets with core–rim microstructure, Mater. Des., 256 (2025) 114337 [参照元へ戻る]
*3:T. Murakami et al., High-speed cutting performance characteristics of Ti(C, N)–W cermet tools against S32750 super-duplex stainless steel round bars, J. Mater. Res. Technol., 32 (2024) 2528-2536. [参照元へ戻る]
*4:T Murakami et al., Friction stir spot welding of cold-rolled low carbon steel plates using TiC0.5N0.5–Xwt%W (X=70, 72, 75) cermet tool specimens, J. Mater. Res. Technol., 30 (2024) 7095-7103. [参照元へ戻る]
*5:T. Murakami, Microstructural and mechanical properties of TiC0.5N0.5–70 mass% W cermet specimens with core–rim structure prepared by pressureless sintering, J. Mater. Res. Technol., in press. [参照元へ戻る]