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木質流動成形とは?

木質流動成形とは?

2026/04/01

#話題の〇〇を解説

木質流動成形

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    木質流動成形とは?

    木質流動成形とは、木材の細胞と細胞の間に滑りを発生させることで、木材を立体的に成形できる技術です。金型を用いて加工できるため、従来の圧縮加工などに比べ、より自由度の高い成形が可能です。また、樹種による制約が比較的少なく、さまざまな木材を任意の形状に加工できるため、材料選定の幅が広がる点も特長です。こうしてつくられる成形体は、金属やプラスチックの代替材料としても注目されています。

    木質流動成形は、木材を細胞レベルで流動化し、再構築することで成形する技術です。従来のように良質な部位や熟練技術に頼ることなく、さまざまな種類や形状の木材を比較的均質な工業製品として成形することができます。成形体は、カーボンニュートラルへの適合性や意匠性の高さから、金属やプラスチックに代わる新たな素材としても注目されています。木質流動成形の技術開発について、マルチマテリアル研究部門 木質複合材料研究グループの関雅子研究グループ長に話を聞きました。

    Contents

    木質流動成形とは

     木材は、セルロース・ヘミセルロース・リグニンを主成分とする細胞から構成されており、細胞と細胞の境界である細胞間層は、リグニンが主体として細胞同士の接着を担っています。木材に特殊な前処理を行い、熱を加えると、細胞間層が局所的にやわらかくなります。さらにこの状態で圧力をかけると、細胞間層で滑りが発生し、木材を大きく変形させることができます。

     この現象を木材の「流動現象」と定義し、流動現象を利用した変形加工技術を「木質流動成形」と呼んでいます。

     従来、木材の加工では、切る、削る、曲げる、圧縮するなどの方法が一般的でした。これらの加工では、木材内部の細胞の配列や、細胞同士の位置関係に変化はありません。

     一方、木質流動成形では、流動現象によって細胞の位置が大きく変化し、まるで粘土のように金型内部で変形します。これにより、従来の圧縮加工などに比べ、より自由度の高い成形が可能になります。

    木質流動成形と流動現象の図
    木質流動成形と流動現象

     木質流動成形では、まず木材に樹脂溶液を注入します。これを養生して溶媒を揮発させた後の樹脂含浸木材を成形に使用します。樹脂含浸木材はヘミセルロースやリグニン間の水素結合があらかじめ切断されているので、その状態で加熱するとやわらかくなります。そのため、熱した金型に樹脂含浸木材を投入し、圧力を加えることで、金型内で自在に変形させて成形することができます。成形された木材は、樹脂の硬化や新たな結合形成により、再び固さを取り戻します。木質流動成形によって作られた製品の使用環境や目的に応じ、適した樹脂を含浸させることで、耐火性や耐水性など、従来の木材にはなかった性質を持たせることも可能です。

     木質流動成形は、音響部材などで実用化されています。現在、複数の企業との連携を通じて、日用品、建材、自動車内装部材などでの実用化を目指して研究を進めています。過去に企業との共同研究で開発した自動車内装部材では、自動車部品に求められる厳しい評価項目を全てクリアした実績もあります(2018/02/05 プレスリリース)。今後も、さらなる用途拡大に向けた研究の加速が期待されています。

    木質流動成形のメリット・デメリット

     木質流動成形には、従来の木材加工にはない多くのメリットがあります。最大の特長は、材料を選ばずに利用できる点です。従来は節の有無や木目の方向を考慮する必要がありましたが、木質流動成形では、これまで品質が低いとされていた木材も活用できます。木材を流動成形することで成形体の密度が均一化されるため、木材の生物由来のばらつきを軽減しつつ材料として使用できるようになります。

    端材利用による一体成形の図
    端材利用による一体成形(マルチマテリアル研究部門 ウェブサイトより引用)

     金型を用いた工業的な塑性加工が可能である点も大きな利点です。また、熟練者か初心者かを問わず、同じ形状・同じ品質の製品を安定して製造できます。さらに、デッキ材などで実用化されているウッドプラスチックとは異なり、木材繊維を破壊せずに成形可能なため、繊維強化プラスチックに近い高い強度を実現できます。バインダーとなる樹脂も少量で済むので、本物の木に近い質感を保てる点も特長です。

     加えて、カーボンニュートラルへの貢献も重要なメリットです。プラスチックが石油由来であるのに対し、木材は成長過程でCO2を吸収し、炭素として内部に固定しています。木材製品として使用されている間、その炭素は大気中に放出されません。金属やプラスチックの代替材料として木材を用いることで、CO2排出の抑制につながります。また、廃材となった木材を燃焼処理せず、木質流動成形によって再利用すれば、燃焼によるCO2排出を回避しつつ資源の有効活用にも貢献します。

     一方、デメリットとしては技術的・経済的な課題があります。従来の木材加工に比べて、加工に加熱が必須であるために多くのエネルギーを要します。また、樹脂の成形と比べると高い成形圧力も必要です。さらに、天然素材由来のばらつきが成形性や成形体の品質に影響を及ぼす点も問題です。

     こうした特徴を踏まえた上で、さらなる社会実装を進めるための課題は主に次の点に集約されます。

     ・目標とする製品の要求性能に応じた耐久性の付与と、品質安定性の確保
     ・加工時間の短縮と加工エネルギーの低減
     ・木質流動成形のバリューチェーン構築
     ・木質素材の安定供給体制の確立

     これらの課題が解決されれば、木質流動成形は環境負荷低減と高付加価値化を両立する加工技術として、より幅広い分野での活用が期待されます。

    産総研の木質流動成形への取り組み

     木質流動成形おいて最も重要な技術の一つは、成形性向上や成形体の耐久性改善を実現するための分子レベルでの構造制御です。そのため産総研では、木材に含浸させる樹脂の開発や、木材の新たな化学処理法の開発などを進めています。それらの処理による木材の構造変化をマルチスケールで評価・解析する技術も産総研の強みです。

    分子レベルの構造制御の例の図
    分子レベルの構造制御の例

     木質流動成形による成形体は、木本来の見た目や質感由来の独特な風合いが特徴です。一方で、工業製品として展開を目指す上では、一定程度以上の見た目の均質性確保が必要となります。産総研では、木材ならではの見た目や質感の「良さ」の見える化や、見た目の品質管理に関する研究も開始しており、工業材料として新たな付加価値を持つ素材として木質流動成形を広めたいと考えています。それ以外にも、金属や樹脂との一体成形によるマルチマテリアル化技術などの研究も並行して行っています。

    木質流動成形の今後の展望

     近年、カーボンニュートラルへの社会的関心の高まりを背景に、木質流動成形に対する企業からの問い合わせが増えています。単に石油由来素材の代替候補というだけでなく、視覚的に伝わるユニークなデザインや、高い強度特性などの優位性が評価されるようになってきたことも、その理由の一つです。

     木質流動成形を社会実装していくためには、技術開発そのものに加え、関連産業との連携が欠かせません。木材を流動成形に適した状態に調整する素材調整プロセス、金型やプレスなどを用いた成形プロセスをはじめ、単独の企業だけでは対応しにくい技術領域も多いためです。そのため、より多くの企業がこの分野に関わることで、技術の向上と供給体制の広がりが期待されています。金型やプレスメーカーにとっては金属加工などで培われた既存技術を応用しやすく、また樹脂などの素材メーカーにとっては、流動成形用木材の調整用樹脂の開発といった新たな事業機会につながる可能性があります。

     産総研では、木材を金属や樹脂に並ぶ第3の工業材料として確立し、建築・建材、モビリティ、家具・家電、日用品など幅広い分野で材料選択の一つとして木材が選ばれる社会の実現を目指しています。

    木材の流動現象を利用した木質流動成形

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