AGIとは?
AGIとは?

2026/09/02
AGI
とは?
―AIが人間以上の汎用性を獲得―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
AGIとは?
AGIとは、「汎用人工知能(Artificial General Intelligence)」の略称です。従来の人工知能(AI)の多くが特定の用途に特化しているのに対し、さまざまな作業(タスク)を一つのAIで実行できる高い汎用性を備え、「人間と同等以上の能力を発揮するAI」といえます。ただし研究者の間では、明確な定義はなく、抽象的な概念を示す言葉として捉えられています。
数多くの知的作業を人より上手にこなせるAGIが、遠からず登場するかもしれません。欧米では、OpenAIのSam Altman氏やGoogle DeepMindのDemis Hassabis氏(産総研マガジン「2024年ノーベル化学賞「タンパク質設計と立体構造予測」とは?」)といった先進的なAI企業のCEOや、深層学習のゴッドファーザーと呼ばれるGeoffrey Hinton氏(産総研マガジン「2024年ノーベル物理学賞「人工ニューラルネットワークによる機械学習」とは?」)といった著名研究者が、早ければ今後5〜10年以内にもAGIが登場すると語っています。確かに、「ChatGPT」などの対話型AIの進歩の速さと応用範囲の広さは、人知を超えたAIの登場を予感させます。もっとも、何をAGIとみなすかによって、その実現したと判断される時期は大きく変わります。AGIを巡る研究の実像や、今後の展望と課題を、人工知能研究センターの片桐恭弘研究センター長に聞きました。
人の知能に肉薄するAGI
AGIとこれまでのAIの違いは、「ジェネラル(汎用的、一般的)」かどうかです。従来のAIの研究は、外国語の翻訳や顔の認識など、特定のタスクを人と同等以上の性能で実行する機械の実現を目指してきました。しかし、人間の知性は、タスクごとに明確に区切られたものではなく、一人で実に多くのタスクを手がけられます。人間と同様の、汎用的な知性の実現を目指すのが、AGIの研究といえます。
AGIが注目を集めるきっかけになったのは、AI研究の一分野である自然言語処理(産総研マガジン「自然言語処理とは?」)の技術として登場した大規模言語モデル(LLM)です。LLMを応用した対話型AIのサービスに見られるように、一般的な質疑応答はもちろん、文章の作成・要約・翻訳に加え、画像や動画の作成まで、多種多様なタスクを実行できます。その延長線上で、AGIが実現するとの期待が膨らんでいます。
そもそもLLMが扱う言語は、人の知性の根幹をなす要素の一つです。アラン・チューリングが提案した「チューリングテスト」も、書き言葉によるやり取りで人間と区別がつかなくなることを、「考える機械」の証しとしています。しかも、LLMには「スケーリング則」と呼ばれる経験則があり、より多くの学習データを使い、より大規模なモデルを学習させることで、性能が向上することがしられています。最近では学習に使えるデータの枯渇がささやかれる一方で、追加の学習方法や、生成した解答を吟味する手法の開発が相次いでおり、LLMの能力拡張はまだまだ続く見込みです。その先に、人と見まごう汎用性と高性能を兼ね備えたAIが登場しても不思議ではありません。
問題は、「どこまでの機能を実現すれば、AGIと呼べるのか」を判断する基準がないことです。欧米の経営者や研究者が「数年以内にもAGIが登場する」との意見を述べていますが、それぞれの発言者が具体的にどのようなAIを想定しているのか、はっきりしません。そもそも人の知性を明確に規定する統一見解が、専門の学会や研究者の間でも確立していないので、それを模したAGIの定義も人によってバラバラなのです。この結果、AGIに関する発言は「言ったもの勝ち」になりがちで、企業の技術力を宣伝するマーケティングに使われかねません。AGIに関連する発言を見聞きした場合は、具体的に何を意味するのかに目を光らせた方がよさそうです。
エージェントの能力も獲得
AIの能力自体が、今後も着実に広がっていくことは間違いありません。とりわけ、数学やソフトウエアのコーディングなど、知識の操作に基づく認知的なタスクの性能は順調に高まっていくと見られます。事実、数年前のLLMでは苦手とされた論理的な思考の能力が、最近では大幅に強化され、トップクラスの数学者が頭を悩ます難問を解ける水準に達しています。
ただしAGIに期待される知的な能力は、頭の中で考えるだけで答えが出る、認知的なタスクの処理に限りません。端的な例は、AIに目標を与えると、自律的に作業の手順を考案し、最後まで実行してくれるエージェント機能(産総研マガジン「AIエージェントとは?」)です。
エージェント機能を実現するためには、現在の状況の把握、実行計画の立案、適切なツールの選択と連携、失敗したときの修正など、さまざまな面でAIの能力を高める必要があります。加えて、他のエージェントやソフトウエアと連携するための通信手順(プロトコル)も重要です。既に基礎的なプロトコルである「モデル・コンテキスト・プロトコル(MCP)」などがありますが、具体的な用途で使う、上位のプロトコルの整備はこれからです。
AIエージェントが物理的な作業を実行するためには、AIにも「身体」が必要になります。いわゆる「フィジカルAI」と呼ばれる研究分野で検討されており、AIが制御するロボットの開発が進んでいます。最近では人間と似たヒューマノイド型のロボットが注目を集めていますが、必ずしも人型が最適とは限りません。また、モーターなどのハードウエアにも、まだまだ改善の余地があります。一朝一夕には解決できないハードルが数多く残っています。
こうした事情を考えると、AGIの実現には相当時間がかかりそうなうえ、ある日突然登場するわけでもなさそうです。AIの応用範囲が一つひとつ広がっていくなかで、気がつけば人と同等以上の能力になっているのではないでしょうか。5〜10年後のAIは今と比べて格段に人に近づくでしょうが、それをAGIと呼ぶのかどうかは、現時点では何ともいえません。
人間中心のAI共存社会へ
AGIが社会に及ぼす影響は多岐にわたります。中でも多くの人の頭をよぎるのは、自分の仕事が奪われる懸念でしょう。実際、アメリカでは大手のIT企業やコンサルティング企業がAIの活用を見越して人員を削減しているとのニュースが飛び交っています。AIの能力が人間以上に高まれば、多くの職が失われる可能性はあります。
この問題は、AIの普及によって新しい仕事ができることで補われると考えられます。これまでも新しい技術ができるたびに同様な疑問が呈され、新たな仕事が誕生することで解消されてきました。それは、AGIの場合も変わらないでしょう。
例えば現状でも、アメリカの自動運転車のサービスでは想定外の状況が生じたときに遠隔操作で運転を代わる人が控えています。また、どんなにAIのコーディングの能力が高くなっても、人のチェックは必要だと思います。AIのリコメンデーション(推薦)がどれほど発達しても、最後に決断するのは人の仕事です。ただし、自ら経験を積んで専門性を身につけた仕事をAGIが置き換えることはあり得るので、人々は新しい仕事に素早く適応できるような柔軟な姿勢を求められます。
仮に、AGIが人と全く同じ仕事をできるようになっても、人の仕事のすべてを奪うわけではありません。著名な芸術家の仕事や一流シェフの料理をAIで再現することは、研究する意味はあっても、商業として成り立つとは思えません。工業製品があふれる中でも、人が手作りした作品がなくならないように、人間が担うことが重要な仕事や行為があるはずです。そもそもAIは人の役に立つことが大前提であり、どのようなAIを開発するかは人間中心の視点で進めるべきです。
今後は、「どこまでをAIに任せ、どこまでを人間が担うか」を、社会全体で考えていく必要があります。重要なのは、「AIがどこまで信頼できるのか」です。例えば医療画像の判断では、AIが人の医師の精度をしのぐほどになってきましたが、なかなか利用が広がっていません。人よりも運転が上手な自動運転車が現れても、自動車事故は完全にゼロにはならないでしょう。こうしたケースで、AIをどこまで信頼し、AIの間違いを人がどう補うのかといったコンセンサスが必要になってきます。具体的には、診断の際にAIと医師の役割分担をどうするのか、自動運転車が事故を起こしたときの責任の所在や保険の仕組みをどうするのかといった問題を解いていかなければなりません。
そのためには、社会全体で試行錯誤するだけでなく、研究面から貢献できることがあります。AIが診断の理由や事故の原因をきちんと説明できるようになれば、AIに対する信頼性を引き上げられます。AIに何ができて、どのような場合に危険なのかを明示するのも研究者の役割。産総研では、社会に受容されやすいAIの開発にも取り組んでいるところです。
喫緊の課題は悪用対策
AGIにまつわる不安には、その能力が高まりすぎると、人類や社会を破滅させるほどの脅威をもたらすという説もあります。「本質的にすべての認知タスクで、すべての人を大幅にしのぐことができる超知性(Superintelligence)」の開発には、「潜在的な人類絶滅の懸念さえ」あり、一定の条件下で禁止することを求める書面に、研究者が署名している例があるほどです。
確かに、AGIが人間にとって危険な行動をとる可能性がないとはいえません。実際、AIスタートアップ企業のAnthropicは、既存のLLMの多くが条件次第で人を脅迫するとした実験結果を示しています*。ただしこうした研究では、AIが誤った行動を起こしやすい条件を設定することが普通で、この論文も例外ではありません。それによって、問題を未然に防ぐ方法を探っているわけです。こうした研究が重要であることは論をまちませんが、「超知性」の能力を恐れるあまり、開発を規制するのは行き過ぎにも思えます。
それよりも、もっと緊急性の高い問題があります。人によるAIの悪用を防ぐことです。AIの兵器への応用や、システムへの不正なアクセスや改変への悪用は目前に迫った危険であり、AGIの登場で脅威はさらに大きくなります。
AIの悪用を防ぐには、国家や国際機関の対応はもちろん、研究者の立場からも何らかの制約を検討すべきかもしれません。「研究室の外部に漏らさないという条件で、有害性のあるAIの開発を許容すべきかどうか」といった論点があり得ます。日本国内では、こうした論点について十分な議論が進んでいるとはいえず、今後の課題といえます。
日本におけるAGI開発
現在のAIの開発は、アメリカや中国を中心に投資競争の様相を呈しています。いち早くAGIの水準に到達した企業が、将来のAI市場で競争を優位に進められるとの目論見が透けて見えます。日本の国や企業がこの動きに対抗していくためには、企業間の競争原理に依存するのみでなく、産学官が協力して知恵とリソースを集中することが不可欠でしょう。産総研でも「Swallowシリーズ」を東京科学大学と共同で開発しています(2023/12/19 プレスリリース、2024/10/08 プレスリリース)。日本でもAI関連のベンチャーは少なくありませんが、企業や資金の規模が違います。日本の強みは、ベンチャー企業も含め産官学が一体となったチームで、現場のデータを活用した開発にあります。産総研はその一翼を担い、産業に役立つ応用の面から、AGIにつながる研究を進めていきます。
*: A. Lynch et al., "Agentic Misalignment: How LLMs Could Be Insider Threats," arXiv preprint, Oct. 2025.[参照元へ戻る]