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生成AIを用いた量子計算回路の自動設計

生成AIを用いた量子計算回路の自動設計

2026/08/19

生成AIを用いた量子計算回路の自動設計

研究者の写真
    KeyPoint 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) 南俊匠主任研究員らは、生成AIと量子計算を組み合わせ、問題の内容に応じて量子回路を自動的に作り出す新しい手法を開発しました。入力された問題の構造を情報として取り込み、人工知能(AI)が自動で量子計算の実行手順、すなわち量子回路を提案します。小規模な組合せ最適化問題を題材としてこの手法の有効性を検証した結果、正解に対応する出力が高い確率で得られる量子回路を安定して生成できることを確認しました。さらに、実際の量子コンピューター上でも動作を確認し、AIを活用した量子計算支援の新たな可能性を示しました。

    研究の背景:量子計算の設計を人からAIへ

     量子コンピューターは、従来のコンピューターでは扱いにくい複雑な問題を解く技術として期待されています。近年は、誤りに強い量子計算を実現するための研究も進み、より実用的な量子計算に向けた道筋が見え始めています。一方で、量子コンピューターを具体的な課題に活用するには、問題に応じて量子回路を設計し、実際の量子コンピューターで実行できる形に調整する必要があります。しかし、そのためには量子計算に関する高度な専門知識が求められます。量子計算をより多くの研究者や技術者が利用できるようにするには、量子回路の設計そのものを支援し、自動化する技術が重要になります。

     そこで、南らは、「量子コンピューターで実行する計算手順をAIに自動で作らせる」という新しい方法に挑みました。この方法では、まず解きたい問題の内容をAIで扱いやすい形に変換します。その情報をもとに、AIが必要な量子計算の手順(量子演算)を一つずつ組み立てて、量子回路を設計します。このAIを事前に訓練することで、多様な問題に対して適切な量子回路を設計する能力を獲得させます。訓練においては、AIに大量の正解データを覚えさせるのではなく、AIが作った手順をいくつか試し、「どれが良かったか」だけをフィードバックして学ばせる工夫を取り入れています。これにより、特別なデータ作成をしなくてもAIが自分で改良していけるようになります。さらに、問題の規模に応じてAIの働き方を切り替える仕組みや、簡単な問題から徐々に難しい問題へとステップアップして学ばせる方法も組み合わせています。これらの工夫により、限られた計算資源でも無理なく学習を進め、幅広い問題に対応できるようにすることを目指しています。

    得られた成果:GQCO(Generative Quantum Combinatorial Optimization)

     今回の方法を実際の最適化問題に運用するために構築した仕組みが、GQCOです。これは「いろいろな組合せの中から最適な答えを探す」タイプの問題に対して、AIが自動で量子コンピューター用の計算手順を作成する仕組みです。

     今回は、3〜10量子ビットという小規模な問題を対象に、量子回路を生成するAIを訓練しました。その結果、評価した範囲では約99 %程度の精度を安定して示し、問題規模が大きくなってもその精度を維持できることを確認しました。比較対象とした「量子近似最適化アルゴリズム」という量子・古典ハイブリッド手法では、問題ごとにパラメーター最適化が必要であり、問題が少し大きくなるだけでも精度が大きく低下してしまう傾向があります。これに対し、今回の方法ではAIは事前に訓練されているため、評価時に問題ごとのパラメーター探索を繰り返さずに量子回路を生成できます。

     さらに、実際の量子コンピューターでも動作を確認しています。10量子ビットの問題で実機での実験を行ったところ、GQCOが作った量子回路は正解に対応する状態が観測されやすく、少ない測定回数でも正解を得られる場合があることを確認しました。一方で、量子近似最適化アルゴリズムでは結果が複数の候補に分散しやすく、同じ問題で正解を得るにはより多くの測定回数が必要でした。また、GQCOが生成した量子回路は比較対象と比べて計算手順が短く、複数の量子ビットにまたがる操作も少ない傾向が見られました。量子コンピューターの実機では、計算手順が長く複雑になるほどノイズの影響が大きくなるため、よりシンプルな回路を生成できることは重要です。今回の結果は、ノイズの影響を受ける実機環境においても、正解候補が比較的観測されやすい量子回路をAIが生成できる可能性を示しています。今後、実機で扱いやすい操作や量子ビット同士のつながり方を考慮してモデルを訓練すれば、装置ごとの特徴に合わせた量子回路を生成できるようになる可能性もあります。

    今後の展望:「量子回路生成の基盤モデル」へ

     今回の仕組みの大きな特徴は、本来なら専門家が一つひとつ作らなければならなかった量子コンピューター向けの計算手順の設計を自動化できる点です。これにより、利用する側は量子回路の細かな設計そのものよりも「どんな問題を解きたいか」「よい答えの基準は何か」といった本質的な部分の設計に集中できるようになります。その結果、量子計算を活用する際の技術的なハードルが下がり、より幅広い分野で量子技術を利用しやすくなることが期待されます。

     この仕組みは組合せ最適化問題にとどまらず、量子コンピューターを用いて解や状態を探索するさまざまな計算へ応用できると考えています。今後は、創薬や材料開発、エネルギー関連の計算など、量子計算の活用が期待される分野への展開を目指します。

     一方で、扱う問題が大きくなるほどAIの訓練に必要な計算資源が増大します。これは、スケールアップに向けた大きな課題です。また、生成した量子回路の性能をより正確に評価するには、ノイズの少ない量子計算環境や誤りに強い量子計算技術を学習・評価の過程に取り入れることも重要になります。さらに、より少ない計算資源で有効な量子回路を生成・評価できるようにする工夫も求められます。

     将来的には、さまざまな問題に対して量子回路を自動設計できる基盤技術へと発展させ、「量子回路設計における共通の基盤モデル」の構築を目指します。これにより量子計算を専門家だけでなく、より多くの研究者や技術者が活用できる社会の実現につなげていきます。


    Shunya Minami, Kouhei Nakaji, Yohichi Suzuki, Alán Aspuru‑Guzik, Tadashi Kadowaki
    Generative quantum combinatorial optimization by means of a novel conditional generative quantum eigensolver
    Digital Discovery 4 (2025) 2229–2243
    https://doi.org/10.1039/d5dd00138b

    量子AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    主任研究員

    南 俊匠

    MINAMI Shunya

    南 俊匠主任研究員の写真
    産総研
    量子AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    • 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央事業所2群
    • M-G-QuAT-plan-ml*aist.go.jp
      (*を@に変更して送信してください)
    • https://unit.aist.go.jp/g-quat/

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