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炭酸ジメチルを促進剤とするポリエステル繊維の低温メタノリシス解重合法

炭酸ジメチルを促進剤とするポリエステル繊維の低温メタノリシス解重合法

2026/08/12

炭酸ジメチルを促進剤とするポリエステル繊維の低温メタノリシス解重合法

研究者の写真
    KeyPoint 私たちが日常的に着ているポリエステルの服は、他の素材と混ざっていたり色がついていたりして、原料に戻すリサイクルが難しいと言われてきました。サーキュラーテクノロジー実装研究センター(兼 化学プロセス研究部門) 田中真司上級主任研究員らは、 この課題を約50 ℃で解決できる新しい方法を開発し、服から高い精度で原料を取り出すことに成功しました。混紡や有色の布にも使え、混ざっている綿やポリウレタンは傷めずそのまま分けられるのがポイントです。

    研究の背景:衣料繊維の循環を阻んできた「混紡・着色・高結晶」

     世界では毎年およそ6,000万トン規模のポリエステル繊維が生産され、その多くが衣料用途として消費されています。一方で使用済み繊維の約6割が焼却や埋め立てに回っているとの報告もあり、サーキュラーエコノミーの観点から、繊維を低エネルギーで原料へ戻すケミカルリサイクルの必要性が高まっています。ところが、ボトルやフィルムと比べて繊維は結晶成分が多く、さらに綿やポリウレタンとの混紡、分散染料などの着色が分解を難しくし、従来は高温(200 ℃級)処理が前提となりがちでした。その結果、反応副生成物や染料由来の不純物が増え、モノマーの高純度回収や工程簡素化が進まないという課題が残っていました。田中らは、こうした技術的ボトルネックを外すために、反応機構そのものに踏み込み、温和な条件でも駆動する平衡制御型のアプローチに挑みました。

    得られた成果:DMCで平衡を制御し、50 ℃・短時間・高収率を両立

     本研究の特徴は、ポリエステルを分解するときに出てくる副成分を「うまく受け止める」分子を加えることで、反応全体を進みやすくしている点にあります。通常、PET(Polyethylene Terephthalate)を分解しようとすると、その途中でできる成分が反応を止めてしまい、温度を上げたり長時間処理したりしないとうまく進みません。そこで、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate, DMC)という物質を補助剤として使い、反応の妨げになる成分を先に固定してしまうという方法を採用しました。これにより反応が止まりにくくなり、50 ℃ほどの比較的低い温度でも、短時間でPETを原料の一種であるジメチルテレフタラート(dimethyl terephthalate, DMT)に戻せるようになりました。実験では無色のPET繊維(10 g)を用い、2時間で94 %という高い回収率を確認しています。

     この方法は、PET以外の成分が混ざっている布でも有効です。例えばPETとポリウレタンの混紡布では、PET部分だけがきれいに分解されて80 %のDMTが回収でき、ポリウレタンは布の形のまま残ります。PETと綿の混紡布でも同様に高い効率(94 %)でPET部分を回収でき、残った綿が元の構造を保っていることを分析で確かめています。 さらに、リサイクルが特に難しいとされる色つきの布でも、事前の脱色処理なしでPETを分解できることを実証しており、精製後のDMTは染料由来の不純物が4.4 ppmと非常に低いレベルまで抑えられました。部分的にしか分解されていない中間物質が残らない点も、再び樹脂として使う際の品質管理を考えると大きな利点です。

     結果として、この手法は低温・短時間・高収率・高純度というリサイクル技術に求められる条件を満たしており、しかも混紡や着色など実際の製品で避けられない要素にも対応できます。PET以外の成分をそのままの形で取り出せるため、将来的には布地を構成する複数の素材をそれぞれ資源として再利用する循環システムにもつながる可能性があります。

    今後の展望:セミパイロットへ、循環スキームを社会実装に接続

     本成果を出発点にセミパイロット設備の整備に向けた補助金の採択を得ており、スケールアップとプロセス統合(回収・分解・精製・再重合)の最適化に着手しています(2025/11/05 お知らせ)。溶媒の循環設計や副生成物であるエチレンカーボネート(ethylene carbonate, EC)の価値利用、精製工程の省エネ化といった単位操作の磨き込みに加え、エネルギー原単位やCO2削減、品位保証を指標とするLCA/標準化も並行して進めており、繊維-化学-製品のバリューチェーン全体での循環モデルを描き、再資源化まで一気通貫の実装を目指しています。


    Shinji Tanaka, Maito Koga, Takashi Kuragano, Atsuko Ogawa, Hibiki Ogiwara, Kazuhiko Sato, Yumiko Nakajima
    Depolymerization of Polyester Fibers with Dimethyl Carbonate-Aided Methanolysis
    ACS Materials Au(2024, 4, 335–345)
    https://doi.org/10.1021/acsmaterialsau.3c00091

    サーキュラーテクノロジー実装研究センター
    (兼 化学プロセス研究部門)
    上級主任研究員

    田中 真司

    Tanaka Shinji

    田中真司氏の写真
    産総研
    材料・化学領域
    化学プロセス研究部門

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