産総研マガジンは、企業、大学、研究機関などの皆さまと産総研をつなぎ、 時代を切り拓く先端情報を紹介するコミュニケーション・マガジンです。

話題の〇〇を解説

サーキュラーエコノミーとは?

2023/10/11

#話題の〇〇を解説

サーキュラーエコノミー

とは?

―社会経済システムの変革に科学技術ができること―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

サーキュラーエコノミーとは?

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、大量生産・大量消費・大量廃棄が一方向に進むリニアエコノミー(線形経済)に代わって、近年ヨーロッパを中心に提唱されている新しい経済のしくみです。あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を目指す社会経済システムを意味します。単なる環境規制ではなく、経済の仕組みを変える政策として各国が推進しており、ビジネス界もサーキュラーエコノミーを意識した活動に変化しています。

廃棄物を減らすリデュース、リユース、リサイクルの「3R」の取り組みは以前からありましたが、あらたに提唱されるようになった「サーキュラーエコノミー」は、そもそもの資源の投入量や消費量から抑えることや、新しい産業や雇用の創出までを含む経済システムを意味します。その概念は広く知られるようになりましたが実現は容易ではなく、まだ多くの技術開発が必要であることはあまり知られていません。多岐にわたるサーキュラーエコノミー関連の技術開発の取りまとめやプロジェクト推進を担う資源循環利用技術研究ラボの遠藤明ラボ長に、取り組みの現在地と展望を聞きました。

Contents

サーキュラーエコノミーとは、廃棄を最小限にする社会経済システムづくり

 サーキュラーエコノミーは、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値を最大化することを目指す社会経済システムです。ヨーロッパを中心にルールづくりが進み、それに対応するかたちで各国が転換を進めようとしています。日本では2020年に経済産業省が「循環経済ビジョン2020」をまとめました。資源産出国ではない日本では、外国からの資源供給が途絶えるリスクに備えるためにも、国内で資源を循環させていく必要があるとして、「成長志向型の資源自立経済」を提唱しています。

 サーキュラーエコノミーの概念を説明する際によく用いられるのが「バタフライ・ダイアグラム」です。左側に生物的サイクル、右側に技術的サイクルが描かれており、蝶のような形に見えることからそう呼ばれるもので、限りある資源をさまざまなやり方で循環させようという考え方を表しています。技術的サイクルにおいては「維持・長寿命化」「シェアリング」、「再利用・再配分」、「改修・再製造」、「リサイクル」というように、ループを何重にも構築し、資源の廃棄を最小限にします。

図
サーキュラーエコノミーを示す生物的サイクルと技術的サイクル
(エレン・マッカーサー財団作成の図を引用 ※産総研外のWEBサイトにリンクします)

広範囲にわたる要素技術の開発が必要

 サーキュラーエコノミーというテーマは大きく、複雑で多様な研究が関連しています。資源の効率的な循環と利用を実現するには、まだ多くの領域で新しい技術の開発が必要です。産総研でも関連する研究開発を数多く行っています。

 その研究テーマのひとつが「マテリアルリサイクル」です。代表的なものとして金属の資源循環に取り組んでいます。産総研では約10年前から、分野を超えてマテリアルリサイクルに取り組む研究者のコミュニティをつくり、また産業界との連携を進めるコンソーシアム「SUREコンソーシアム」を設立して効率的な金属資源循環のための技術開発を行っています。(産総研マガジン「都市鉱山とは?」

 マテリアルリサイクルと異なり、化学的な方法で資源を原料に分解することが「ケミカルリサイクル」です。ケミカルリサイクルの対象として代表的なものはプラスチックです。日本では、廃棄プラスチックの回収率は高いものの、エネルギー回収に用いられている割合が大きいのが現状です。ペットボトルの素材であるポリエチレンテレフタレート(PET)を最小単位のモノマーに分解して原料に戻し、もう一度PETをつくって再生する技術を研究しています。(産総研マガジン「実験化学で新たなリサイクル技術を開発」

 炭素や窒素といった主要元素ごとの「分離・回収・変換技術」の研究も進めています。

 「炭素」については排ガスからCO2を分離・回収し、資源として利用したり、地中へ貯留・固定化したりするための技術開発が進んでいます。(産総研マガジン「CCS/CCUS とは?」「大気中の二酸化炭素から資源を生み出す」

 「窒素」については、排ガスや廃水からアンモニアを分離・回収し、有用化学品へ変換して再利用できるようにする研究があります。(産総研マガジン「有害な廃棄物を資源に変える新しい窒素循環システムに挑む」

 「リン」については、未利用のリン資源を回収してリン化成品へ変換する技術開発を進めています。日本が100 %輸入に頼っているリンを、国内で循環させていくことを目指しています。

資源循環社会が成立するためのシステム設計と指標づくりが重要課題

 要素技術の開発に加えて重要なのが、「システム設計・評価技術」です。資源を単純に廃棄するのが一番安く簡単な方法です。それを超える経済性を示すことが、社会に受け入れてもらうために必要です。しかしこれまでは、個別の要素技術について研究開発を進めていたため、経済的であることや社会全体で開発した技術を総合的に組み合わせる取り組みが不十分でした。

図
資源循環利用技術研究ラボが提案する、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、分離・回収・変換、循環システム設計の一連の流れ

 サーキュラーエコノミーを実現する必要性は社会全体で認識されてきたものの、まだ全体のガイドラインや指標がありません。たとえば、ある資源のリサイクル率を高めるために、たくさんのエネルギーとお金をかけて何が何でもリサイクルするのが良いわけではありません。全体を見て正しく評価する必要があります。このサーキュラーエコノミーに対する指標づくりを、産総研のなかでも重要視してプロジェクトを進めています。

具体的な指標や戦略をきっかけに連携し、産業全体で仕組みを変える

 産総研では、サーキュラーエコノミーの実現に向けた「資源循環技術のスペックロードマップ」を2022年に策定しました(2021/11/21プレスリリース)。これは2025年~2050年に、各技術でどのようなスペックが求められるかを整理して提示しているものです。製品を作り社会に送り出す企業や、製品を回収しリサイクルを行っていく企業など、関係するすべての企業と具体的な目標を共有し、限られた人のためではなく日本全体でサーキュラーエコノミーを実現するための原動力にしたいと考えています。

 また、関連する分野の研究者が集まって、サーキュラーエコノミーに関する現状認識や技術の分析、将来の展望、研究戦略のブラッシュアップを行っています。

 戦略をまとめるだけでなく、関連技術のプロトタイプ作製、検証、スケールアップのための実証実験も進めています。研究成果の社会実装をより強力に推し進めるため、2023年4月に事業共創を行う産総研の100 %出資会社:株式会社AIST Solutionsを設立しましたが、そこでもサーキュラーエコノミーは注力テーマです。

 すでに、多くの企業からサーキュラーエコノミー関連の相談があり、個別の技術だけでなく、評価基準や指標づくりに対しても大きな期待をいただいています。産総研がハブとなることで、複数企業での連携や業界単位での取り組みを生みだしていく一助になりたいと考えています。世界の動向にも目を向けながら、国やいろいろな企業と連携し、日本におけるサーキュラーエコノミーの形成をさらに加速させていきます。

この記事へのリアクション

  •  

  •  

  •  

この記事をシェア

  • Xでシェア
  • facebookでシェア
  • LINEでシェア

掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果など にご興味をお持ちの方へ

産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、下記の連絡先へお気軽にご連絡ください。

産総研マガジン総合問い合わせ窓口

メール:M-aist_magazine-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信してください)

※すべてのメッセージには返信できない場合があります。ご了承ください。

国立研究開発法人産業技術総合研究所

Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
(Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.