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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

都市鉱山とは?

2023/03/01

#話題の〇〇を解説

都市鉱山

とは?

―資源循環を実現するための重要技術―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

都市鉱山とは?

環境やエネルギーが地球規模の問題となるのに伴い、資源循環は非常に重要なテーマになりました。資源循環を実現する考え方のひとつに「都市鉱山」があります。都市鉱山とは、使用済みの家電、携帯電話、パソコンその他の製品から金属材料を回収し、再利用することです。都市の廃製品から資源を得るため、これを鉱山での採掘に例えてこのように呼んでいます。都市鉱山の発想は以前からありましたが、現在は、資源循環の機運が高まる中で、これまでより総合的な視点から新たな取り組みが進んでいます。

資源循環は、サプライチェーンの工夫と数多くの技術の組み合わせから成り立ちます。「都市鉱山」も、多様な技術を組み合わせて進められています。金属の特性によってリサイクル方法には違いがあり、廃製品の解体・選別、有用な金属の回収、同質の金属の集積、精錬、加工など、求められる技術も多彩です。産総研では、都市鉱山を含む資源循環分野で、研究・開発を進めています。今回は、環境創生研究部門の大木達也に話を聞きました。

Contents

都市鉱山の必要性とは

 1990年代ころから「エコ」や「リサイクル」といった環境にやさしいことを意味するする言葉が盛んに使われ始めました。「都市鉱山」は1980年代に提唱された言葉であり、都市で発生した廃製品から金属資源を回収し、再びこれらの製品に利用することを意味しています。今では、資源循環、カーボンニュートラルなど地球規模で取り組まなければならない課題を解決するための技術群のひとつ、と位置づけられます。

 日本は資源の大部分を輸入に頼っています。近年は、紛争、災害、感染症などによって生産や物流が滞ることも増えてきました。今後は、多様な材料資源を循環させていくことが、環境面だけでなく経済面からも求められていると言えるでしょう。

金属資源への考え方の変化

 日本で、「都市鉱山」という言葉が大きな注目を集めたのは、2010年に中国が尖閣諸島問題に関係してレアアース*¹の輸出を一時的に停止したときです。これが日本の産業界に与えたショックは大きく、精密機器などのハイテク製品に欠かせない素材の確保が議論の的になりました。

 日本はレアメタル*²も含めてほとんどの金属資源を輸入し、それを用いたハイテク製品を製造・輸出することで世界市場において収益を得ていました。それが前提から揺らいだのです。そこで、廃製品の再資源化にも力を入れ始めましたが、その後のレアメタルの価格急落などもあって長続きしませんでした。

 しかし、金属資源は限りあるもので将来的な供給不安は必至です。すでにリサイクルが実現できている貴金属(金、銀、白金、パラジウムなど)やベースメタル(鉄、アルミニウム、銅など)だけでなく、レアメタルも廃製品を経済的かつ安定的に回収し、リサイクルできる仕組みと技術を確立していかなければなりません。

金属によって異なる回収方法と価値

 金属資源については、さまざまな種類をリサイクルして一定量を備蓄しておく戦略が重要と考えています。いつどの資源が供給不安に陥るかもわかりません。国際情勢にも対応でき、市場価格の平準化ができるようにしておくことは必要だと思います。

 ただ、金属によって回収や再利用の方法は異なり、時代と共に金属の重要度も変化します。例えば、コバルトは、リチウムイオン電池に使われてきました。しかし、最近の中国では、EV(電気自動車)用は、リン酸鉄系リチウムイオン電池に転換しつつあり、また、コバルトが使用されるリチウムイオン電池もコバルトの割合が減り、資源回収に求められる役割も少しずつ変化してきています。

 アルミニウムは、一級品のアルミニウムはサッシなどにリサイクルし、少し品質の劣るものは自動車エンジンなどの材料であるダイカストにしてきました。ところが、これもEVの普及によるエンジン生産量の減少とともに、再生アルミニウムの行き場がなくなるという問題が懸念されています。

 また、タンタルは、パソコンなどの基板に搭載するコンデンサに利用されてきました。現在は、他のコンデンサへの置き換わりが進み、パソコン基板からはわずかのタンタルしか回収できません。そうなると、廃パソコンからタンタルを回収する動機が薄れ、タンタルなどのレアメタルは、従来通り、道路やコンクリートの下地材として利用されることになってしまいます。

 このように旧来は、特定の製品から特定の金属だけを回収することが主流でしたが、利用される金属の変化に伴ってリサイクルも変わってゆく必要があります。また、予測しにくい供給不安に対応するためにも、多くの金属・材料を定常的に循環するための戦略が重要となります。

「水平リサイクル」と「カスケードリサイクル」とは

 ここで大切なのが「水平リサイクル」と「カスケードリサイクル」というとらえ方です。後者のカスケードリサイクルとは、元の製品よりも価値の低い製品へのリサイクルです。アルミニウムをダイカストに、タンタルを道路の下地材に使うのもカスケードリサイクルです。何回か循環できるものもありますが、基本的には何かに使って「社会吸収」することで、廃棄物にしないというものです。一方で、水平リサイクルとは、使われていた元の製品と同等の製品にリサイクルすることです。これができれば何回も「資源循環」させて利用できます。金属の水平リサイクルは、収集制度や技術を駆使して、天然の鉱山と同等の資源を生み出すことだとも言えるでしょう。

リサイクル・グレードの概要図(産総研が提唱する概念)
リサイクル・グレードの概要図(産総研が提唱する概念)

 壊れやすい「分子構造」に価値があるプラスチックと違い、金属は壊れることが無い「元素自体」に価値があるので、本来は水平リサイクルされることが望ましいです。しかし、現在、水平リサイクルされているのは、銅や一部の貴金属に限られます。これはリサイクルするとき、金属の濃度が比較的低くても製錬の採算が取れるからです。金なら10 ppm、銅は数 %、タンタルなら20 %から30 %くらいまでリサイクル工場で濃縮すれば、あとは製錬所で地金などを製造し水平リサイクルすることができます。

 その他多くの金属はこれらより高い濃縮度にしないと水平リサイクルにできないため、多くはカスケードリサイクルされています。カスケードリサイクルにも段階があり、高価なタンタルなどを路盤材に使うようなやり方は、廃棄物(埋め立て処分量)の削減には役立つものの、有効なリサイクルとは言えません。

 そこで、産総研では戦略的に金属の水平リサイクルを広げることをめざし、これを「戦略的都市鉱山」と呼んで研究を進めています。

資源循環の実現に向けた取り組み

 産総研では2013年に、資源循環に関係する研究者を部門横断的に集結した、戦略的都市鉱山研究拠点SURE(Strategic Urban mining REsearch base)を設立、リサイクル技術の向上、金属再資源化のための製錬技術、資源循環を促進する製品設計、廃製品量の予測などの技術に取り組んでいます。

 資源循環には企業の連携が必要です。そこで民間企業、業界団体、地方自治体、政府機関などを会員としたSUREコンソーシアムを2014年に設立し、金属資源循環率の向上、都市鉱山の市場拡大、日本のリサイクル装置産業やリサイクルプラントの国産化などをめざしています。

 SUREの取り組みのひとつとして2018年に設立したのが分離技術開発センター(CEDEST)です。国家プロジェクトの研究開発拠点として利用し、世界初となる自動・自律型リサイクルプラントに向けた装置を開発中です。個々の装置を参画企業と独自開発するとともに、システム全体を統合した無人選別システムを開発しています。廃製品の解体や選別を従来の手作業と比べて10倍以上の速度で行い、廃部品を分離効率80 %以上で選別することをめざしています。

プラント内の様子の写真
プラント内の様子

 ここでは、現在2,000機種以上のスマートフォン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、タブレットなどのどれに対しても1台ずつ認識して解体、電池を安全に取り外し、基板からレアメタルを取り出すシステムを開発中で、2023年度には実証プラントを設置する予定です。

 資源循環の実現に向けては、リサイクル装置の市場形成も必要です。日本の資源リサイクル企業は中小企業がほとんどなので、装置への投資にも限界があります。装置だけでなく、装置の仕組みに対する知識などももっと広げていく必要があると思います。

 また、まずは国内資源循環の高度化を優先したいと思いますが、将来的には、日本のリサイクル装置の世界展開も視野に入れるべきです。リサイクルプラントもアジア諸国などに輸出できるようになると良いと思います。高度なリサイクル技術を導入することで、現地利用できる高品位な再生資源が増えれば、日本の現地工場で利用が可能になったり、導入国にもメリットがあったりすることを示すことが大切なのではないでしょうか。

 欧州などの技術の後追いではなく、日本の産業に根付くような資源循環のための技術や仕組みを創出していく必要があります。大きな視点で、将来の資源循環社会の構築に向け、日本の産業や社会がどうあるべきか、それにはどのような技術が必要なのかということを描いていきたいと思っています。
 

*¹レアアース(希土類):スカンジウム、イットリウムとランタノイド族に属する17元素の総称。ネオジムが永久磁石の製造に使われるなど、工業製品に欠かせないものも多い。特に、ジスプロシウム、テルビウムなど、重レアアースと呼ばれる元素が希少。[参照元へ戻る]

*²レアメタル:ニッケル、コバルト、白金、レアアースなど、比較的流通量の少ない金属の総称で、かつては47元素(レアアース17元素を1鉱種として31鉱種とも)が選定されていたが、現在は55元素に拡張されている。レアアースは世界共通の学術的用語であるが、レアメタルは日本独自の分類で、国によって呼び名や種類が異なる政策的な用語。[参照元へ戻る]

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