MEMSとは?
MEMSとは?

2026/06/03
MEMS
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
MEMSとは?
「Micro Electro Mechanical Systems」の略。可動する機械的な構造を持つ微小デバイスの総称です。外界の物理現象を電気信号に変換する「加速度センサー」や「ジャイロセンサー」、電波を選別する「BAWフィルター」、プリンターの「インクジェットヘッド」などのMEMSがあります。スマートフォン1台に何十個ものMEMSが搭載されているなど、現代の生活に欠かせない技術になっています。
半導体が「産業のコメ」と言われるのに対して、「産業の豆」とも言われるMEMS。半導体と並んで現代の社会になくてはならない微小デバイスです。製造技術の共通点も多く、多くの半導体メーカーがMEMSの生産も行っています。産総研でもMEMS技術と半導体技術の融合が始まっています。その最前線を担うハイブリッド機能集積研究部門 小林健副研究部門長に、MEMS技術の今と今後のビジョンを聞きました。
MEMSとは
MEMSの基本概念
MEMS(メムス)とは、「Micro Electro Mechanical Systems」を略した呼称です。その名前のとおり、微小なチップの内部に機械的な構造を持っているデバイスのことをそう呼びます。
半導体と同じものと認識されることが多いMEMSですが、両者には本質的な違いがあります。半導体が電子の流れを制御する静的な構造であるのに対し、MEMSは機械的な可動部を持ち物理現象と電気信号を相互変換する機能を備えています。このために、MEMSでは、ウエハ上に微細な立体構造を形成します。例えば加速度センサーでは、くし状の構造が力の加わり方によって変形し、その重なり面積の変化を電気容量の変化として検出します。こうした物理的構造は、動きや音を検知する「加速度センサー」「ジャイロセンサー」「マイクロホン」、電気信号を機械的な動きに変える「インクジェットヘッド」「スピーカー」「ハプティクスデバイス」、電波の選別に使われる「BAWフィルター」など、多様なデバイスの基盤となっています。
製造方法は半導体と基本的に同じで、レジスト塗布、露光、現像、エッチングといったプロセスを繰り返し、ウエハ上に立体的で複雑な構造を形成します。3ナノ、10ナノといったレベルの半導体よりも大きく、数マイクロメートル以上のスケールです。半導体はほぼ表面の領域に機能を集積する一方で、加工スケールはシリコンを垂直方向に深く掘るTSV(Through Silicon Via)などMEMS製造発祥の技術があります。製造方法が似ていることや、TSVなどMEMS由来の技術が半導体製造にも応用されていることから、多くの半導体メーカーがMEMSも製造しています。
MEMSは、機械的な構造を内部に持つ微小デバイス
NEDOウェブサイト("動く"半導体で、さまざまな機器の小型・軽量・高性能化を実現)の図を産総研が改変
「加速度センサー」内にはくし歯状の電極があり、加速度によって可動部が動くと静電容量の変化を発生。それにより加速度の大きさを検出する
MEMSの活用分野
MEMS技術の最初の牽引役は自動車でした。1990年代から「圧力センサー」「加速度センサー」「ジャイロセンサー」などのMEMSが自動車に搭載されるようになります。2000年頃には、MEMS技術を応用し、インクジェットプリンターでインクを細かく吐出する「インクジェットヘッド」がつくられるようになりました。
2010年代からは、スマートフォン、家庭用ゲーム機、ドローン用のMEMSが爆発的に普及。市場が大きく拡大します。スマートフォン1台の中には何十個ものMEMSが搭載されるようになり、私たちの生活には欠かせないものとなりました。「加速度センサー」「ジャイロセンサー」「圧力センサー」は欧州企業、「BAWフィルター」は米国企業、「インクジェットヘッド」は日本企業が強い傾向にあります。
今後は自動運転の発展により、レーザー光を使うセンサー「LiDAR(ライダー)」に使われる「光MEMS」の需要が伸びると見込まれています。また、さまざまな場面で使われている「赤外線センサー」、超音波エコーや潜水艦などで使われる「超音波センサー」、電子機器の中でクロック信号を発生させている「タイミングデバイス」、電気信号を音に変換する「スピーカー」をMEMSに置き換える動きや、「ハプティクスデバイス」でのMEMS活用が注目されています。
1台のスマートフォンにさまざまなMEMSが使われている
MEMSのハプティクスデバイス活用に向けた研究開発が進められている
MEMS技術の現状と最新トレンド
イノベーションの動向
「BAWフィルター」「インクジェットヘッド」「光MEMS」などに欠かせない材料として、加えた力を電気に変換したり、逆に電気を力に変換したりする「圧電材料」があります。MEMS内部に薄膜として集積されるもので、さらなる性能向上が期待されています。窒化アルミニウム(AlN)にスカンジウム(Sc)を添加したScAlNの圧電性能を向上させる技術開発などが注目されています。
MEMSと集積回路(IC)を集積化する技術にもまだ改善の余地があり、半導体分野で進むチップレット技術の導入などが注目されています。MEMSは外界の物理現象とのインターフェースになるため、半導体のように小さく薄くという方向だけを追求するものではありませんが、設計は半導体設計よりも解が多く、各社が設計力を競っています。
「光MEMS」は自動運転向けのLiDARと呼ばれるものに利用される
産総研の挑戦
産総研における研究開発
産総研には圧電材料の開発や、圧電材料を使った各種MEMS開発で多くの実績があり、強みとなっています。過去には企業との共同研究で「インクジェットヘッド」開発を行った経験があり、現在は極薄圧電MEMSをアクチュエーターとして活用する「ハプティクスMEMS」、成長領域である「光MEMS」「超音波センサー」の開発などが進められています。
さらに、ハイブリッド機能集積研究部門では、MEMSにとどまらず、MEMSと半導体の技術を融合する研究開発に取り組み始めています。産総研つくばセンター中央事業所東地区のMEMS試作ラインをベースに、国内の民間企業や大学も施設を利用できる異種要素を集積化するハイブリッドパッケージ向けの半導体設備を整備した「新世代ハイブリッドパッケージ開発拠点(APARCHE)」を開設したのも、それが狙いです。
次世代デバイスへの挑戦
新世代ハイブリッドパッケージ開発拠点(APARCHE)が目指しているのは、新たな応用デバイスの開発・社会実装です。より周波数の高い6G向けの「BAWフィルター」開発、「パワーエレクトロニクスモジュール」「光電融合デバイス」へのMEMS技術活用、そのための基盤技術開発を推進しています。将来的には「脳計測デバイス」「量子デバイス」への応用も見据えています。
産総研は、多くのMEMS試作サービスを提供してきましたが、新世代ハイブリッドパッケージ開発拠点(APARCHE)を中心に、ハイブリッドパッケージングに関するサービスも提供していく予定です。これらにより、産総研は日本のMEMS・半導体産業の発展を支援していきたいと考えています。
新世代ハイブリッドパッケージ開発拠点(APARCHE)の注力領域