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うるう秒がなくなる?世界が議論する「時刻のずれ」問題

2026/10/23

COLUMN

うるう秒がなくなる?世界が議論する「時刻のずれ」問題

     地球の自転と現在の時刻の基準である原子時計。 実はこの2つは少しずつずれています。そのずれを修正するために導入されてきた「うるう秒」ですが、近年は廃止を求める声も強まっています。

    うるう秒とは何か

     ニュースなどで、「今年はうるう秒が挿入されます」という話題を耳にしたことがあるかもしれません。

     うるう秒とは、原子時計が刻む時間と地球の自転に基づく時間のずれを調整するために挿入される1秒のことです。実施されると、通常は「23時59分59秒」の次に「0時0分0秒」となるところが、「23時59分60秒」が追加されます。2016年12月31日(日本時間の2017年1月1日)が、直近のうるう秒実施日でした。

     そもそも現在の時間の基準は原子時計です。セシウム原子の振動を利用した原子時計は極めて安定しており、世界中の原子時計のデータを集めて「国際原子時(TAI)」が作られています。

     一方、私たちが暮らす地球はずっと同じように回転をしているわけではありません。地球の自転速度はわずかに変動し、季節や地球内部の現象などの影響を受けます。そのため、原子時計が刻む時間と地球の自転に基づく時間は少しずつずれていきます。

     このずれが0.9秒を超えないように調整する仕組みが、うるう秒です。つまり、うるう秒は「天体運動が教えてくれる時間」と「原子が刻む時間」をつなぐ橋渡し役だったのです。

    原子時計のイメージ図

    うるう秒は何のために必要だったのか

     もともと人類は、太陽や星の動きを基準に時間を決めていました。太陽が南中する時刻を正午としていたように、地球の自転が時間の基準だったのです。

     しかし、科学技術が進歩すると、地球の自転や公転は思ったほど一定ではないことが分かりました。そこで1967年、秒の定義はセシウム原子時計に基づくものへと変更されました。

     ただし、社会の時間は依然として地球の動きとも結び付いている必要があります。

     そこで1972年から採用されたのが、原子時計を基準としながら、必要に応じて1秒だけ補正するうるう秒でした。これにより、天文学的な時間と日常生活の時間のずれを小さく保てたのです。

    なぜ廃止が議論されているのか

     ところが、デジタル社会の到来によって状況は変わりました。

     現在のインターネット、通信、金融取引、交通システムは、すべてコンピューターによる正確な時刻同期の上に成り立っています。こうしたシステムにとって、不定期に1秒が追加される事態は想定外のイベントになり得ます。

     実際に2012年のうるう秒実施時には、一部のサーバーで中央演算処理装置(CPU)使用率が急上昇したほか、ウェブサービス障害や航空関連システムへの影響が報告されました。

     金融分野でも問題は深刻です。現在の高速取引ではマイクロ秒単位で売買が行われており、「どちらが先に取引したか」を正確に記録する必要があります。時刻の不連続性は、市場の信頼性にも影響を与えかねません。

     さらに厄介なのは、近年の地球の自転変動です。これまでは原子時計の方が先行するため、1秒を追加する「正のうるう秒」が行われてきました。しかし近年は地球の自転が速くなる傾向も観測されており、将来的には1秒を削除する「負のうるう秒」が必要になる可能性があります。

     「23時59分58秒」の次がいきなり「0時0分0秒」になるような運用は人類が経験したことがなく、多くのシステムで不具合を引き起こすリスクが懸念されています。

    左から通信、電力、金融、交通・運輸で使っているシステムを説明した図
    全システムが1秒の追加・削除を正しく扱えるとは限らない

    もしうるう秒がなくなったら?

     うるう秒が廃止されても、一般の人が腕時計やスマートフォンで違いを感じることはないでしょう。翌日から生活が変わるわけではありません。

     変わるのは、時間を支える仕組みの方です。

     2026年の決議により、現在0.9秒以内に抑えている地球の自転に基づく時刻とのずれを最大3600秒(1時間)まで許容することになりました。この結果、数百年から千年単位でみても調整が不要になります。

     もちろん、地球の自転観測そのものがなくなるわけではありません。天文学や測地学の分野では引き続き地球の回転を監視し、その情報は利用され続けます。

     今回の議論は、「天文学的な正しさ」と「デジタル社会の安定性」のどちらを優先するかではなく、両立させるための新しいルール作りといえるでしょう。国際的な標準化は、技術的な合理性だけでなく、その時代に求められる社会的な要請にも影響を受けます。うるう秒の見直しも、1972年に導入された当時とは異なるデジタル社会という時代の流れの中で進められている議論なのです。

    日本と世界の時間を支える研究者たち

     こうした国際的な議論を支えているのが、各国の計量標準機関です。産総研 計量標準総合センター(NMIJ)は時間の国家標準を開発、維持し、産業界などに標準を供給するとともに、国際的な議論にも深く関わってきました。NMIJの研究者たちは国際度量衡委員会(CIPM)や時間周波数諮問委員会(CCTF)などで世界各国の専門家と協力しながら、未来の時間標準のあり方を検討しています。

     うるう秒の見直しは、一見すると専門家だけの話のように思うかもしれません。しかしその背景には、金融市場、通信ネットワーク、衛星測位、クラウドサービスといった現代社会の基盤があります。

     私たちは普段、「いま何時か」を気にしながら生活しています。しかし研究者たちは、その「1秒」をどう定義し、どう世界中で共有するかを考え続けています。うるう秒を巡る議論は、デジタル社会をより安全で安定したものにするための、静かな挑戦なのです。

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