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遠距離の微小変形をドローンで計測

遠距離の微小変形をドローンで計測

2026/07/29

遠距離の微小変形をドローンで計測老朽インフラ点検の新技術

研究者の写真
    KeyPoint 社会インフラの安全を守るには、構造物に生じる「わずかな変形」を正確に捉える計測技術が欠かせません。レジリエントインフラ実装研究センター(兼 分析計測標準研究部門)の李志遠上級主任研究員らは、ドローンで撮影した映像に映るマーカーの位相情報を活用して、100 m離れた橋梁のミリメートル級のたわみを高精度に計測できる新技術を開発しました。この技術では、人の平衡感覚の仕組みに着想を得た画像ぶれ補正と、サンプリングモアレ法による位相解析を組み合わせた独自のアルゴリズムにより、従来困難だった「固定カメラ不要・現場即応」の点検を実現します。

    研究の背景:老朽化インフラの「見えない変形」に、遠くから迫る

     日本をはじめとする先進諸国では、建設から50年以上が経過した橋梁の割合が4割を超え、インフラの点検・維持管理の効率化が喫緊の課題です。たわみや変位の常時計測は健全性評価の要ですが、従来の変位センサーや固定カメラ方式は設置場所の制約や手間・コストがネックでした。山間部や河川・海峡などアクセス困難な橋梁では、三脚設置もままならず、「測りたいのに測れない」場面が多かったのです。

     そこで李らは、ドローン空撮を用い、機体揺れによる画像ぶれという最大の壁を、周期模様の位相情報*を解析する「位相解析」と2つの基準マーカーに基づく「幾何学モデル」の2つの技術を使って乗り越える新手法に挑みました。橋梁から離れた上空からでも、ミリメートル級の微小変形を計測できれば、予防保全への転換と点検コストの最適化に大きく貢献できます。

    得られた成果:100分の1画素のぶれ補正と位相解析で、ミリメートル級の変形を測る

     まず、ドローン空撮に伴う機体揺れによる画像ぶれを抑えるために、橋梁側面の不動点に2つの基準マーカーを設置し、この2点を結ぶ基準線の位置が、揺れの前後でも常に一致するように補正する、高精度な四自由度の幾何学モデルを導入しました。これは、人の耳の奥にある三半規管や耳石器官による前庭系(平衡覚)が姿勢変化を検知して視線を安定化させる仕組みに着想を得たもので、回転・平行移動・スケール変化を同時に補正できます。そのため、ドローンが風で揺れても画像上の基準を「ぶれない軸」として固定できます。この結果、100分の1画素に達する高精度のぶれ補正が可能になり、空撮映像からミリメートル級の変位を計測するための前処理が整いました。

     次に、計測の際の位相のずれを利用して微小変位を検出するサンプリングモアレ法を適用しました。ぶれ補正後の、時系列ごとに取得した画像に対して位相解析を行うことで、画素未満のわずかな変位、すなわち一画素単位より細かいサブピクセルの精度でたわみの挙動を抽出できます。そうして100分の1画素精度での変位推定を実現し、固定カメラが設置できない現場でも、上空から撮影した映像だけで橋梁のたわみを定量できる点が、このアプローチの核心です。

     実橋での検証では、全長約110 mの橋梁を対象に、橋から約100 m離れた空域からドローン撮影を行い、8 tの試験車両(時速20 km)通過に伴う微小なたわみをミリメートルのオーダーで安定的に計測することに成功しています。さらに、福島ロボットテストフィールドの模擬橋による精度検証では、既知の1~5 mmの変位に対し、平均誤差0.2 mmという結果を得ています。これは、固定設置を前提とする従来手法に匹敵する実用精度を、固定装置なしで達成したことを意味し、アクセスが難しい橋梁や設置スペースが限られる現場での適用可能性を大きく広げます。

    今後の展望:「点検の当たり前」を刷新する――連続モニタリングと事業展開へ

     本手法は、固定カメラの設置を必要としないため、従来は計測が難しかったアクセス困難な橋梁や長大橋、海上・谷越えなどでも現場即応の点検が期待できます。今後は、自律飛行ドローンとの統合や、クラウド自動解析と連携した連続モニタリングへと拡張し、予防保全の意思決定(閾値超過の自動検知、補修の優先度付けなど)に資するダッシュボード化の構築も視野に入れています。すでに民間企業による点検サービスの事業化が進んでおり、全国展開に向けた適用拡大、トンネルやダムなど他のインフラ構造物への横展開も視野に入っています。予防保全を指向するインフラ点検の現場で、迅速・低コスト・高精度を同時に満たす実装技術として期待が高まっています。


    *:規則的な模様を波とみなすと、波の高さは振幅、波の位置ずれを位相という。その位相の変化(格子模様のわずかなずれ)の情報を利用することで、微小変形をカメラで測定することができる。[参照元へ戻る]

    Sampling moiré method for accurate small deformation distribution measurement
    S. Ri & M. Fujigaki & Y. Morimoto, Experimental Mechanics, 50, 501-508 (2010).
    DOI: 10.1007/s11340-009-9239-4
    Drone‑based displacement measurement of infrastructures utilizing phase information
    Shien Ri, Jiaxing Ye, Nobuyuki Toyama, Norihiko Ogura, Nature Communications, 15, 395 (2024).
    DOI: 10.1038/s41467-023-44649-2
    産総研:ドローン空撮で100メートル先の数ミリメートルの変形を計測

    レジリエントインフラ実装研究センター
    (兼 分析計測標準研究部門)
    上級主任研究員

    李 志遠

    Ri Shien

    李上級主任研究員の写真
    産総研
    計量標準総合センター
    分析計測標準研究部門
    • 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央事業所2群
    • M-rima.inquiry-ml*aist.go.jp
      (*を@に変更して送信してください)
    • https://unit.aist.go.jp/rima/

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