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話題の〇〇を解説

2023年ノーベル化学賞「量子ドット」とは?

2023/12/27

#話題の〇〇を解説

2023年ノーベル化学賞「量子ドット」

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    量子ドットとは?

    量子ドットとは、直径2~10ナノメートル(nm)程度のとても小さい半導体の結晶のことです。この非常に小さな半導体微粒子に紫外光を照射すると、発光します。さらにこの微粒子を大きくしたり小さくしたりすることで、発光する色を変えることができます。しかも発光が強く、色ごとに発光させることができるため、美しい画面が作れるという特徴があります。現在では液晶パネルに用いられ、テレビやパソコンのディスプレイなど表示装置に使用されています。

    2023年のノーベル化学賞は「量子ドット」の発見と合成方法の発明について、アメリカのマサチューセッツ工科大学のムンジ・バヴェンディ博士、コロンビア大学のルイス・ブルース博士、ナノクリスタルズ・テクノロジー社のアレクセイ・エキモフ博士の3人に贈られました。量子ドットは、ナノスケールの半導体微粒子のことです。3人の研究者らが、この半導体微粒子がサイズごとに違った波長の光を吸収することを発見し、サイズをきれいにそろえた微粒子の合成法を発明し、さらに表面を適切に処理して発光させることに成功したために、現在までに広い範囲で応用されるようになりました。今回のノーベル化学賞受賞とその功績や量子ドット発見の意義や応用などについて、長年量子ドットに関する研究開発をしてきた関西センターの村瀬至生に聞きました。

    Contents

    量子ドットとは

    (1)量子ドットとはなにか

     量子ドットは、直径2~10 nm程度の大きさの半導体微粒子です。半導体なので価電子帯と伝導帯を隔てるバンドギャップがあり、紫外線などのエネルギーを吸収した後で元の状態に戻るときに、表面の欠陥が取り除かれていればそのバンドギャップのエネルギーに相当する波長の光を放ちます。同じ材料でできていても、サイズによってバンドギャップの幅が変わるために異なる色で発光するのが特徴で、サイズを小さくすることで短波長の青い発光となり、逆にサイズを大きくすることで長波長の赤い発光となります。つまり粒子の大きさを変えていくことで、目的とする色を発光させることができるのです。下の図に示したのが、量子ドットから発光する様子です。同じ材料でも粒子の大きさによって色が異なります。

    量子ドット
    リン化インジウム系量子ドットの発光の様子とゼロ点エネルギーの大小の関係。量子力学の世界では、量子ドットに相当する「電子の入る箱」が小さいほどエネルギーが大きくなる。もっと専門的には、「不確定性原理」と言うもので電子の存在する範囲(箱のサイズ)と運動量を同時には小さくできないために起きる現象。赤色の光はエネルギーが小さく、青色側の光はエネルギーが大きいので、この原理に従って小さい粒子は緑色から青色の発光を示す。

     この発光色の違いは、量子力学で言う「ゼロ点エネルギー」が粒子の大きさによって変化することによるものです。言葉を換えると、大学に入って量子力学や量子化学を学んだ時に最初に出てくる「ゼロ点エネルギー」が目に見えるようになったものです。量子力学の世界が見える形で現れる小さな点であることから、量子ドットと呼ばれます。また「バンドギャップが広がる」という現象は、専門的な言葉では「量子サイズ効果」と言われます。

     蛍光体として用いると、発色がはっきりとした鮮やかで明るい画面が作れるので、ディスプレイとして実用化されました。さらに、植物工場の光源や太陽電池素子としての応用も期待されています。

    (2)量子ドット発光の活用と実用化

     量子ドットの発光の特徴は2つ。「量子サイズ効果」のために発光の波長分布が狭く一つの波長付近の光だけが出てくること、そしてその発光が強いことです。この2つの特徴を生かして、ディスプレイに応用した場合には、輝度が高くてきれいな画面を作ることができます。最近では4Kや8Kといったテレビの高精細化ニーズに対応して、量子ドットテレビが商品化されています。

     今の量子ドットテレビは液晶テレビに分類され、「QLED」などの種類があります。通常、液晶パネルには色を再現するためにカラーフィルターなど各種の膜が付けられます。現在は、従来のLEDとカラーフィルターとしての量子ドット材料を組み合わせたものが使われています。量子ドットを使えば、現在テレビやスマホに使われている有機ELを上回る鮮明さを実現できます。その一方で、有機ELはそれ自体が発光するのでバックライトが不要で、かつ曲げられるといった特徴を備えています。どちらかが優れているということではなく、用途に応じてそれぞれの特徴を生かした製品開発が進んでいくと考えています。さらに、量子ドットの発光特性をうまく利用すれば、液晶パネルを使用する必要がなくなると期待されています。今後の技術開発によって、液晶パネルを使用しないタイプの量子ドットテレビが実現すれば、光が各種の膜で減衰することなく透過できるので、より明るく色の再現性の高い画面が得られるようになるでしょう。

    ノーベル化学賞受賞のポイント

    (1)発光する半導体微粒子の発見

     半導体の粒を小さくしていくとバンドギャップが広がり、吸収波長が短波長側に移る、ということを見つけて、数式を用いて定量的に示したのがブルース博士とエキモフ博士です。1980年代前半のことで、ブルース博士は水溶液中で、エキモフ博士はガラスマトリクス中で、それぞれ別のアプローチで半導体微粒子のこのような現象を発見しました。

     その後、90年代に入りバヴェンディ博士が、溶液中でサイズのそろった量子ドットを作る方法を発明し、一気に世間の注目を集めることになりました。ノーベル賞委員会の解説でも、量子ドットの実用化に道を開いたバヴェンディ博士の業績が高く評価されています。バヴェンディ博士の研究によって優れたアイデアの合成方法が確立されて、粒子サイズがそろって表面の欠陥がなくなり単色性の高い発光が効率よく得られるようにもなりました。

    (2)量子ドットは今後何に使われる?

     量子ドットの応用先は、ディスプレイを高輝度・高精細にするという目に見える分野だけではありません。人体を透過しやすい近赤外発光を利用することで、病気の診断や薬の効果の有無を調べるなど先端医療分野への貢献が期待されています。一例として、人間の体内に潜むがん細胞を検出する蛍光マーカーとして使うための研究開発が進んでいます。ほかにも、植物の生育を促進する近赤外領域の光を発光する量子ドットを用いて植物工場用の照明にしたり、太陽光パネルへの応用も期待される用途の一つです。量子ドットを太陽光パネルに用いることで、光吸収の範囲を紫外光から近赤外光まで広げられ、赤外域の太陽光を吸収できるようになり、現状の太陽光パネルよりも光電変換効率が上がることが期待されています。

    (3)量子ドットの課題と普及のカギは?

     量子ドットの課題は、毒性の回避と耐久性の向上だ、と私は思います。もともと量子ドットの発見・発展に貢献したのは、セレン化カドミウム(CdSe)や硫化カドミウム(CdS)といった中毒性の高いカドミウム類を使った量子ドットでした。最近になって、ペロブスカイト系量子ドット(CsPbBr3など)も知られるようになりましたが、鉛が含まれます。これら重金属は、EUの規制で環境負荷物質に指定されています。現在商用化されている量子ドットを使用したテレビでは、規制物質を使用する場合は制限の範囲内になるように工夫されています。また、環境負荷を避けるために、色彩の鮮やかさでは劣りますが毒性のないリン化インジウム(InP)を使った量子ドットが主流になっています。

     このように、使用する無機材料の安全性の問題に加え、量子ドットは耐久性にも課題があります。量子ドットの粒子はナノサイズなので、構成原子の大半は粒子の表面に並ぶように配置されます。この結晶表面に欠陥があると、発光特性に大きな影響を与えます。耐久性を上げるためには表面を保護する必要がありますが、量子ドットは結晶構造になっているので、同じような結晶構造の他の材料で保護しようとするとうまく行きません。現在は、量子ドットを非晶質である高分子材料に分散させたフィルムの外側を、ガラスを含む無機材料で被覆して使用されています。

     量子ドットのサイズによる色の違いは、古くから量子サイズ効果であるとは認識されずに使われてきました。その原理が確認され、自分たちでサイズのそろったものが作製できるようになり、発光させることができて、現在は商品化にまで至っています。私自身も、毒性回避と耐久性向上を主要なテーマとして長く研究に携わってきた技術を生かして、2021年に産総研技術移転ベンチャーを設立しました。

     量子ドットの発光特性をさらに向上させ、より耐久性や環境安全性に優れたものを作る技術開発は世界中で競争が続いています。量子ドットならではの特徴を生かせる新たな応用先も発見されています。量子ドットがどのように活用されていくのか、今後の展開に期待していきたいと思っています。

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