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劇的な省エネルギー技術で地球温暖化を解決!?

2008/10/01

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装置の大容量化・省エネ化を叶える新技術

パソコンや携帯電話など、現代生活に欠かせないIT機器を動かしている電子技術。私たちにとっても馴染みのある「エレクトロニクス(電子工学)」が、その大きな部分を担ってきましたが、今注目されているのが「スピントロニクス」と呼ばれる電子技術です。
そもそも、電子は電荷と磁気という2つの性質を持ち、その研究は電荷を扱う「電子工学」と磁気を扱う「磁気工学」の2つの分野に分かれて発展してきました。電荷の性質を利用するエレクトロニクスに対し、スピントロニクスは電荷と磁気の2つの性質を活用する、言わば「未来型エレクトロニクス」。HDD(ハードディスクドライブ)の大容量化や省電力化はもちろん、不揮発性(電源を常に入れておかなくてもデータを保持できる)メモリなどにも貢献できる、応用範囲の広さが特長の一つです。その成果を活用したHDD磁気ヘッド(データの書き込み/読み出しに必要な装置)は既に実用化されており、その世界シェアはなんと100%!現在、生産されている全てのHDDに搭載されているのです。

ナノスピントロニクス研究センターの湯浅 新治研究センター長

「眠っていた発見」が未来の装置の実現に

スピントロニクスの歴史は、1857年、ケルビン卿(英)による「磁気抵抗効果(外部の磁界によって電気抵抗が変化する現象)」の発見に遡ります。ただ、この発見は実用化するにはMR比(磁気抵抗効果の大きさを表す値)が低く、130年もの間、活用されぬままでした。その流れが変わったのが1988年。フェール(仏)、グリュンベルグ(独)による「GMR(巨大磁気抵抗)効果」の発見でした。各国でこの現象を利用したデバイス開発が進められ、1997年には「GMRヘッド」として製品化されました。また1995年、宮崎照宣教授(東北大学)とムーデラ博士(MIT)がそれぞれ「TMR(トンネル磁気)効果」を発見。「MTJ(磁気トンネル接合)素子」の絶縁体層に、酸化アルミニウムのアモルファス(結晶構造ではない物質の状態)を利用することで得られるTMR効果は、GMR効果のMR比が5〜15%なのに対し、TMR効果は20〜70%と格段に高く、この発見は2004年に超高記録密度の「TMRヘッド」として実用化され、また世界初の不揮発性メモリ(MRAM)の実現にも繋がりました。

スピントロニクス開発史年表図

世界シェア100%のHDD磁気ヘッドが誕生

こうして着実に発展してきたスピントロニクスですが、産総研ナノスピントロニクス研究センターのセンター長、湯浅新治氏の研究によって更なる飛躍を遂げます。2003年、酸化マグネシウムの結晶体を用いる方法で、MR比180%という当時の世界最高性能を実現したのです。ただ、これはあくまでも基礎研究の成功であり、小さな特殊基板に1日1枚程度作製するのがやっと。産業応用には量産技術の開発という大きな壁がありました。
そこで2004年、湯浅氏はHDD磁気ヘッドの部品製造装置メーカーのアネルバ(現・キヤノンアネルバ)と共同開発を始めます。この開発の過程では、いくつもの幸運が重なったこともあり、「常識外」とされた「MgO-MTJ(酸化マグネシウムの結晶を用いた)素子」の量産技術の開発に成功。2007年にはそれまでの倍以上の記録密度を持つHDD磁気ヘッドとして実用化されました。これが現在、世界シェア100%という「MgO-MTJヘッド」なのです。

MgO-MTJヘッドが用いられたHDDの写真

更なる期待を呼ぶスピントロニクス

HDD磁気ヘッドの飛躍的な高記録密度化を可能にしたスピントロニクスですが、一方で、より高性能な第2世代の不揮発性メモリ(MTT-MRAM)の開発も期待されています。例えばパソコンの場合、電源を切ってもデータを保持できるMTT-MRAMに置き換えれば、キーを押す一瞬だけ電源をオンにすればよいので、待機電力が不要になります。そんな「ノーマリーオフ・コンピュータ」が実用化されれば、約80%もの省電力化が期待できるのです。
2006年にはMTT-MRAMの実用化を目指し、産総研と東芝らによる「NEDOスピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」がスタート。双方の技術を融合させた「垂直磁化MTJ素子」を開発しました。これは「スピントルク磁化反転」という新たな書き込み技術を採用し、メモリへの書き込み効率を上げることで、MRAMの大容量化を実現したものです。2014年にはMTT-MRAMのサンプル出荷が始まり、ギガビット(Gbit、Gは10の9乗)級の大容量不揮発性メモリの実用化は、そう遠くない未来と言えるでしょう。

未来を語る湯浅研究センター長の写真

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