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COLUMN

極低温の物性『近藤効果』

~近藤博士を偲んで~

    在りし日の近藤博士

    極低温の物性『近藤効果』をご存知でしょうか?2022年3月、電気抵抗、磁性、超伝導などの物性を解明するための理論的基礎となった極低温の物性「近藤効果」を解明した近藤淳氏が逝去されました。この功績は、数多くある物理現象の解明に役立つ、根源的、金字塔的な業績といえます。特に、近年ますます重要度を増してきた量子力学やナノテクノロジーの研究開発などに生かされており、いまなお関連した研究成果が生み出されています。

     本コラムでは、近藤効果の簡単な紹介とともに製造技術研究部門の柳澤孝に近藤博士との思い出を振り返ってもらいました。

    近藤効果とは

     金属中では温度が低くなるほど伝導電子は流れやすく(電気抵抗は小さく)なるという一般原則に反し、純粋に近い金や銅などでは温度を下げていくと、ある温度以下で電気抵抗が増大する「電気抵抗の極小現象」が存在します。この現象は1930年代に初めて観測され、長い間、低温物理学上の謎でした。

     1964年、電気試験所(当時)の近藤淳は、金や銅などの磁性をもたない金属に磁性材料をごく少量添加した希薄磁性合金に局在する磁性不純物のスピンに着目して、伝導電子が磁性不純物のもつスピンによってスピン交換散乱を起こすために、特定の温度を境に電気抵抗が増大することを明らかにしました。これが「近藤効果」です。近藤効果は、長年の謎とされていた「電気抵抗の極小現象」を見事に解明し、それまで認識されていなかった金属電子の本性を描き出すものとなりました。

    近藤効果の式(近藤博士直筆)
    近藤効果の式(近藤博士直筆)

    近藤効果のインパクト

     近藤効果の理論は、金属内に存在する多数の電子と、不純物として存在する局在スピンとの相互作用を扱うものであり、電気抵抗、磁性、超伝導などの物性を解明するための理論的基礎となるものです。この理論は固体物性の分野だけでなく、物理学の多方面に影響を与えるものとなりました。特に絶対零度付近の電気抵抗に関して理論上非常に重要な問題を提起し「近藤問題」と呼ばれました。世界中の一流の理論家達がこの問題に競って挑み解決されていく過程で、物理学に大きな発展をもたらしました。

     量子力学の観点から理論的に解明したこの近藤効果は、多くの粒子が相互に作用しながら複雑な運動をする系を近似的に解く、いわゆる多体問題の解法としても関心を集め、同じ多体問題研究のフロンティアである素粒子物理学や理論化学等の研究分野にも大きなインパクトを与え、ナノ電子系や重い電子系などの学問発展の新しい一つの出発点となったのです。

    近藤博士と研究(製造技術研究部門 柳澤孝)

     近藤さんは穏やかな人柄で、常にゆっくりとした口調で話されていました。研究においては、物理現象の本質は何であるかを常に意識しておられました。研究における姿勢について、『ETLサーキュラー』に「一流の仕事をするには」という題で小文を書かれており、我々は熟読したものでした。独創性については独自の考えをお持ちであり、「独創性とは粘り強さにほかならない」というのが持論でした。自分が研究する課題が見つかったならば、それに全力を注ぐ以外に独創性を発揮する道はない、と言われていました。

     「一流の仕事をするには」の中にも、「研究をする上で最も大切なものは何といっても本人のやる気である。やってそんなにうまくゆく筈がないから、やる気を持続させるねばり強さである」とあります。日本物理学会が発行する欧文誌Journal of the Physical Society of Japanの近藤効果40周年記念号(2005年)に近藤さんが寄稿された論文のタイトルが、「Sticking to my bush」でした。my bush(自分が開拓する地、開拓した地)に対する愛着、こだわりを表しているように思います。

     近藤語録として次のようなものもあります:「偉大な作曲家の頭の中に楽想が自然とわくように、偉大な物理学者の頭脳からは自然界の法則にかなう理論がおのずとわき出るように見える」。偉大な物理学者とは誰のことであるのかを聞き忘れたのが残念です。 近藤さんが退官される前ごろは、電総研における研究はどうあるべきか、ということが盛んに議論されていました。「電気試験所の頃はマイナーな存在だったので自由に研究ができたが、電総研になって世に知られるようになってからは研究もやりにくくなってきた」、と言われていました。サッチャー首相やミッテラン大統領が来所し、材料開発としての超伝導研究に大きな予算がつくようになった頃でした。

     電総研を退官後も物理学会でよくお会いしました。近藤さんは前の方の席に座られていることが多く、オーラが出ているのかわかりませんが、近藤さんがおられるのがすぐにわかるという感じでした。80歳を過ぎてもなお元気に物理学会に参加されていました。70歳を超えてからも論文を書かれて専門欧文誌に発表されていました。近藤さんが80歳の頃に、近藤さんが書かれた『金属電子論』(裳華房)を我々のグループで英語に翻訳しましたが、その際に英文をチェックされ新たに一章を追加されました。

     近藤さんは毎年のハイキングを楽しみにされていて、一年に二回、春と秋に同じ部の皆さんを誘ってハイキングに行かれていました。毎年恒例となっており、他の部からも参加者がありました。普段会わない人達との交流の場ともなっていました。茨城県北部の花貫渓谷、横根山、竜神峡などのハイキングコースに行ってハイキングを楽しんでいました。一度、少し雨が降っていたのですが中止にならず、ハイキングが決行されたことがありました。その時近藤さんが、「このくらいの雨で中止と思うようでは電総研ではやっていけませんよ」、と笑いながら言われたのを覚えています。近藤さんが退官される際に退官記念の会を開きましたが、近藤さんのご希望により多くの参加者の皆さんと一緒にハイキングに行きました。研究者ではないときの近藤さんの一面がわかるエピソードかと思います。

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