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シリコンフォトニクス回路でのバクテリア採餌を模倣した学習によるプロジェクション機能を備えた非線形分類

シリコンフォトニクス回路でのバクテリア採餌を模倣した学習によるプロジェクション機能を備えた非線形分類

2026/08/05

シリコンフォトニクス回路でのバクテリア採餌を模倣した学習によるプロジェクション機能を備えた非線形分類

研究者の写真
    KeyPoint人工知能(AI)の計算がどんどん重くなる一方で、今の半導体の小型化だけでは限界が見えてきています。そこで注目されているのが、光の回路を使ってAIの「学習」と「推論」をこなす新しいやり方です。光電融合研究センターのCong Guangwei研究チーム長らは、シリコン上の光回路だけで「機械学習そのもの」をチップの中で実行し、高い精度・少ない電力・短い待ち時間を同時に実証しました。

    研究の背景:AI計算の電力・遅延をどう減らすか

     生成AIや高度な機械学習が普及するにつれ、データセンターの電力は増え、レイテンシ(待ち時間)も課題になっています。電子回路の高性能化だけに頼る道筋は、微細化の壁や発熱の制約から長期的な伸びしろが限られます。そこで、光で計算する「フォトニクス」が改めて注目されています。光の伝搬は本質的に並列で、ベクトル・行列演算など機械学習で頻出の処理を低電力・超高速に実装できる可能性があります。

     しかし、光で「推論」だけを行う例は多い一方、「学習」をチップ上で行うのは難題でした。従来は、ソフトウエアで学習(重み最適化)を済ませ、その結果を光回路に書き込む方式が主流で、リアルタイムな再学習や再構成には向きませんでした。光を用いた非線形性の実現も困難であるため、光での推論は線形演算にとどまっています。光電融合研究センターのCong Guangwei研究チーム長らはこの二つの課題に新機軸を打ち立て、シリコン光集積回路でのオンチップ学習と非線形写像式演算を理論・デバイス・実験の三段構えで実証しました。

    得られた成果:光だけで演算を完結

     本研究は、シリコンの上に作った光の回路だけで賢く学び、判断できることを示したものです。仕組みを一言でいうと、問題のデータをいったん見通しのよい形に広げ、その上で単純な境目で分けるというやり方を、光の回路上で直接行っています。このとき、回路の動作条件をチップ上で実際に試しながら、チップの中だけで学習から判定までを完結させました。外部のコンピューターであらかじめ事前学習して結果を流し込む必要はありません。

     この方法を、教科書的な分類問題として知られるIrisデータセットで試したところ、最大で約98.3 %の精度を実測しました。また、XOR/AND/OR/NANDといった基本的な論理の組み合わせも、1枚のチップの上で同時に動かすことに成功しています。さらに、円・三日月・渦巻きのように境目が曲がりくねる難しいデータでも、一般的なニューラルネットに匹敵する精度を示しました。

     省エネ性と速さも強みです。計算の心臓部は光であるため、信号が回路を通り抜けるまでの待ち時間は数十ピコ秒程度と極めて短く、消費電力も1 W未満クラスに抑えられました。一般的な電子プロセッサーと比べ、用途によっては大幅な電力削減が見込めることを、具体的な実験結果で示しています。装置を大きくすると電力は増えますが、より省エネ型の素子に置き換えることで、さらに低い電力で動かせる見通しです。

     また、造りや調整の誤差にどの程度耐えられるかも調べました。光の回路にわずかなズレやバラつきがあっても、数%以内の精度低下で収まることを示しており、量産プロセスでの再現性にも手応えがあります。これは12インチクラスのシリコンフォトニクス製造基盤を持つ産総研の強みと合致し、実用規模への拡張に向けた見込みを裏付けています。

    今後の展望:現場課題に「光の分類器」を届ける

     ロボットの動きを滑らかに制御したいときや、検査ラインで製品の良否を一瞬で判断したいときなど、ほんのわずかな遅れが性能に響く現場では、反応の早さが非常に重要になります。今回の光の回路は、信号が流れるスピードが非常に速く、特に即時性が求められる場面に向いています。また、データセンターのように大量の計算を扱う環境でも、重い処理の一部を光の回路に任せることで電力を大きく減らせる可能性があります。

     今後は、データの入出力をもっと速くするための工夫や、信号を送る回路と受け取る部分を一つのチップにまとめる取り組みが進むことで、非常に高い周波数帯でデータのやり取りがが可能になる見込みがあります。一方で、この技術をさらに広げていくためにはいくつかの課題があります。まず、もっと少ない電力で動く素子を採用する必要があり、次に温度変化などがあっても動作がずれにくい仕組みが求められます。また、製造時のわずかな誤差をあらかじめ見込んだ設計を行うことも重要になります。加えて、入力された情報をどう整理してから計算に回すかといった処理の流れそのものをより効率的にする工夫も必要です。そして、こうした光回路を設計するための専用ツールを充実させることで、開発のスピードと精度を高めることも欠かせません。

     産総研では、大規模な光回路を実際に作って評価するノウハウを持つ拠点と人材を集め、オンチップでの実機学習からタスク検証までを一つの流れとして実行できる環境を産学連携のもとに整えています。これにより、研究成果を実際の現場に届けるまでのスピードをさらに高め、光を使った新しい計算技術をより早く実用化していくことを目指しています。


    Guangwei Cong, Noritsugu Yamamoto, Takashi Inoue, Yuriko Maegami, Morifumi Ohno, Shota Kita, Shu Namiki, Koji Yamada
    On-chip bacterial foraging training in silicon photonic circuits for projection-enabled nonlinear classification
    Nature Communications, 2022
    DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-022-30906-3
    産総研:シリコン光集積回路のみで作動するニューラルネットワーク演算技術を開発

    光電融合研究センター
    光演算研究チーム
    研究チーム長

    Cong Guangwei

    Cong Guangwei研究チーム長の写真
    産総研
    エレクトロニクス・製造領域
    光電融合研究センター

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