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日本発の光量子コンピューター、大きな花を咲かせよう

日本発の光量子コンピューター、大きな花を咲かせよう

2026/07/29

日本発の光量子コンピューター、大きな花を咲かせよう

研究者たちの写真
    KeyPoint OptQC株式会社は、光量子コンピューターの世界的な先駆者かつ第一人者の東京大学古澤明教授が共同創業者の一人となって2024年9月に設立された。AISolスタートアップにも認定されており、25年以上にわたる古澤研究室の成果を結集して、光量子コンピューターの商用実機の整備が進められている。一方、産総研は、量子技術の研究拠点となる量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)を2023年7月に設立し、量子コンピューターの社会実装や産業応用をはかっている。
     G-QuATにはOptQC製の光量子コンピューターも導入されており、2026年7月21日に稼働を開始した(2026/07/21お知らせ)。OptQCとG-QuATそれぞれの立場から、光量子コンピューター開発・設置の経緯、公開の意義、今後の展望などについて話を聞いた。
    Contents

    CV光量子コンピューターをG-QuATに置こう

     光量子コンピューターの前での3人の写真、今にも研究開発をめぐる生き生きとした議論が始まりそうだ。「研究が面白い、毎日が楽しい」と異口同音に語る3人のなれ初めからたどってみよう。

     G-QuATの金子晋久がまず口を開く。「G-QuATが設立されたのは2023年7月のことです。東京大学へ最初に問い合わせたのは、その年の11月でした。当時、東京大学発の会社が立ち上がるという話は耳にしていたものの、まだ法人としての形は整っていませんでした。一方のG-QuATも設立こそされていたものの、(現在取材を受けている)本部棟などの新しい施設はまだ建設中で、完成したのはそれから約1年半後です。当時は、さまざまな量子コンピューターの調査や導入検討を進めており、GPUスーパーコンピューターの設置も候補に挙がっていました。そうした状況の中で、『東京大学古澤研究室発の企業が開発した装置の活用可能性について意見交換したい』と、お声がけしたのが最初のきっかけです。最初のやり取りはオンライン会議でした」

     当時は、現在OptQCの代表取締役CEOを務める高瀬寛も東京大学古澤研究室の助教だったし、量子サイエンティストの園山樹も同研究室の博士課程にいた。

     「CV(Continuous Variable:連続変数)光量子コンピューターは、古澤教授を中心とした日本発の研究開発ですべての技術が成り立っています。ぜひともG-QuATに装置を置きたいと思っていました」と金子。

    G-QuATに設置されたOptQCの光量子コンピューター外観

    共同研究での地道な積み重ねが、一気呵成の商用機開発を支える

     次いで、G-QuATの福田大治が、古澤研究室とのそもそもの出会いについて語る。「科学技術振興機構(JST)のCRESTという研究プログラムに『次世代フォトニクス』という研究領域(2015年度~2020年度)がありました。研究総括は北川研一先生(大阪大学名誉教授)です。このプログラムに古澤先生たちの課題がまず2015年に採択され、私が研究代表となった課題が2017年に採択されました。そこでの交流が原点となりました。北川先生も、領域内での交流や連携の推進を一つの方針とされていました」

     当時、古澤教授たちは将来の大規模化と実装を見据え、光量子コンピューターで使う波長を860 nm帯から光通信で用いられる1545 nm帯へ移行させる検討を進めていた。一方、福田たちは、長らく超伝導を利用して光子1個1個を検出できる装置「TES(Transition Edge Sensor:超伝導転移端センサー)」の研究開発に取り組んでいた。

     「TESのような装置を使って生成した非ガウス型状態を利用すると、『誤り訂正可能な光量子コンピューターをつくれる』という理論枠組みは、その頃には既に量子情報分野では知られていました。しかし、それを具現化するのに必要な技術がまだそろっていなかった。例えば、大規模量子もつれ状態の生成や、これを資源とした量子テレポーテーションを基本原理とする測定型量子計算技術ですね」(福田)

     しかし、TESの持つ光子数識別性能を活用し、古澤研究室と連携して誤り訂正の研究をしてみたらどうか、という話が持ち上がり、共同研究が始まった。

     「TESは超伝導のセンサーなので、まずは古澤研究室への冷凍機導入から始めなければなりませんでした。そもそも光量子コンピューターは常温で動くので、古澤研究室のメンバーは極低温技術や超伝導デバイスを経験したことがなく、大きなギャップがあったと思います。そこで、どんな機能の、どんな実験装置が必要かなどを、長い時間をかけて議論しながら進め、非ガウス型状態の生成の実験などを行っていったのです。少しずつ積み上げていくという感じですね」(福田)

     カナダのD-Wave Systemsがアニーリング方式による世界初の商用量子コンピューターを発表したのが2011年。2016年にはIBMが5量子ビットの量子コンピューターをクラウド上で一般公開し、量子計算の利用環境が一気に広がった。2010年代後半以降はGoogleをはじめ多様な企業が参入し、量子技術の研究開発が加速した。福田は次のように語る。

     「量子コンピューターへの期待感が大いに高まり、光量子コンピューターにも注目が集まりました。こつこつ丁寧に共同研究を積み上げてきた私たちには、『どういう技術が足りないのか』『何を開発すれば実用化に近づくのか』という共通認識が具体的なイメージとしてありました。そこに、G-QuATやOptQCの設立の話が出て、『今まで開発した技術を結集して、実際に役立つ量子コンピューターをつくろう』という流れになったのです」

     金子も「会社の設立時は一部のトップ量子コンピューターメーカーに遅れているイメージがありましたが、その後のスピード感はすごかった。園山さんは、最初からずっと現場に張り付いて、ブレずに製作指揮をとっていました」と感心する。

    「モジュールベース」と「アライメントフリー」が今回の特徴

     OptQCの園山に今回の商用機の特徴を聞いたところ、即座に「大きな特徴が二つあります。『モジュールベース』と『アライメントフリー』です」と答えが返ってきた。

    OptQC商用1号機のプロジェクトを任されている園山量子サイエンティスト

     OptQCが採用している自由空間の光学系、光ファイバーなどを導波路として使わないシステムでは、光を導くために多数のミラーを使い、畳5枚くらいのスペースになる。

     「高さがないので、全体としては大きくありませんが、将来、世界中に100台置こうとなったときには、各場所で一からつくるのは大変です。そこで、装置をいくつかのモジュールに分けて、小さなユニットごとにつくり、設置場所で組み合わせていくという方式を考えました」(園山)

     今回のG-QuATの場合は14のパーツに分け、東京・池袋にあるオフィスで各ユニットをケースの中につくり込み、これをつくばのG-QuATに運んで組み立てていったという。

     「初めての取り組みだったので、手こずった場面もありましたが、今後は改良を重ねて、スムーズにいくようにしたいと思っています」(園山)

     運用しているうちに、ケースの中の部品がズレたりしないのだろうか。

     「そういうときに活躍するのが、二つ目の特徴『アライメントフリー』です」と園山。

     光がきちんと干渉するように、測定した信号を基に多数のミラーの方向や角度などを調整するのがアライメント、そのアライメントを自動で実施するのがアライメントフリーだ。今までは、ミラーについているノブを人間が測定結果を見ながら1つ1つ調整していた。

     「手動で調整する場合は人が手を入れなければならず、時間がかかります。一方、アライメントフリーならボタン一つできれいな状態に戻せます。製作が簡便で、かつ、つくった装置が長期に安定して稼働することが、商用では非常に重要と考えています。今回はそのテストケースですね」(園山)

    OptQCと産総研との連携でさらなる高みを目指す

     産総研との連携にも園山は期待を寄せている。「G-QuATには、Qufab(超伝導量子回路試作施設)、Qubed(評価テストベッド)という量子コンピューターの重要な要素技術・部品をつくって評価するという施設があります。これは製作サイドとしては非常にありがたい」

     これらの施設を活用して開発が進められているのが高品質スクイーズド光だ。スクイーズド光の発生技術については、日本ではNTTのグループが世界に先駆けて研究開発を進めてきた。その基盤を踏まえつつ、現在はより量子計算への応用を強く意識した新しい生成技術が登場している。先に福田が触れたように、このスクイーズド光は量子もつれや非ガウス状態の生成に重要な役割を果たす。「光量子コンピューターでは、きれいなスクイーズド光の生成が最初のポイントです。実は近年その生成方法に大きな変革がありました」と、新しい生成方法について金子は語る。

     スクイーズド光はレーザー光をポンプとして非線形光学結晶に入れてつくる。これにより、光の振幅と位相の量子揺らぎのうち、どちらか一方が小さく、その代わりにもう一方の揺らぎが大きくなった特殊な量子状態が実現される。

    「従来は結晶を光ファイバーなどのような導波路をつくって、レーザー光を入れていたのですが、現在はその非線形光学結晶を薄膜にして、電子デバイスをつくるナノプロセシング技術を使って、より強い非線形性がある導波路をつくれるようになったのです。Qufabは本来、超伝導量子コンピューターなどに使う超伝導回路を作る施設ですが、その機能を拡張して、光デバイスにも対応できるよう整備し、高品質なスクイーズド光源の開発を進めています」(金子)

     ニオブ酸リチウム(リチウムナイオベート)という非線形光学結晶の薄膜にナノプロセシング技術で導波路をつくっていくのだが、「リチウムナイオベートそのものの品質向上にも取り組んでいます。高品質な結晶を使い、高精度の微細加工技術で、世界最高精度のスクイーズド光生成を目指しています。そして、それをOptQCと連携して活用していく予定です」と金子は語る。

    G-QuAT金子上級首席研究員と評価テストベッドQubed

     スクイーズド光から生成される非ガウス型状態の品質は、福田が開発するTESの性能にも大きく左右される。特に、非ガウス型状態の生成やその評価において、TESの応答速度は重要な要素の一つだ。1545 nm帯の光を用いる光量子コンピューターでは、処理速度が現在のコンピューターのギガヘルツ域から原理的には1000倍高速なテラヘルツの領域にまで拡張できる可能性がある。そのポテンシャルを引き出すためには、TESのような検出器の高速化が不可欠だ。

    「TESでは、超伝導から常伝導に変わる『臨界温度』のより高い物質をセンサーとして用いたほうが応答は速くなりますが、一方で、安定した検出が難しくなります。TESの研究開発に取り組み始めた当時、最先端を走っていた米国国立標準技術研究所(NIST)ではタングステンを使っていました。ただ、同じ材料を使うのではなく、より可能性の高い選択肢を探りたいと考え、チタンを研究対象にしたのです」(福田)

    G-QuAT福田首席研究員と量子技術の実験環境

     チタンの臨界温度は約0.4 K(-272.75 ℃)で、タングステンの0.011 Kに比べて高い。この違いは、センサーの応答速度に大きく影響し、チタンを用いたTESは従来のタングステン型に比べて大幅な高速化を実現してきた。とはいえ、現在産総研で開発されているTESは、光子数を識別できる検出器としては世界最高クラスの応答速度に達しているものの、それでもなお目標とするギガヘルツ帯には届いていない。「夢はテラヘルツですが、当面の目標は100倍の速さ、ギガヘルツ領域です。長らくそれは難しいと思っていましたが、最近は『尻尾をつかみつつある……』という感覚がありますね。努力次第で1年後には何とかなるのではないかと」、と福田は言う。

     それを受けて園山は、「コンピューターとしての処理能力についても、ギガヘルツレベルの実現は1、2年先の話であると期待していますが、テラヘルツにするのは相当難しい。電気回路が入っていると限界があるので、入力から出力まですべて光で処理することも考えています。そのためには、いろいろな技術開発が必要で、相当な時間がかかると思います」と語る。

    G-QuATの計算基盤「ABCI-Q」で最適な処理を行う

     光量子コンピューターを利用できるようにするには、ハードの完備だけでなくソフトの整備も必要だ。この点について園山は、「協力関係のある方々や外部企業と一緒に開発しています。ソフトによる司令は、究極的にはベル測定で振幅と位相のどちらを測るか、つまり測定基底の切り替え操作につながります。しかしユーザーにとってはあずかり知らぬところで、関係ありません。ユーザーの関わるアプリケーションソフトがスムーズに書けたらいいのです。そのためにはユーザーフレンドリーで、いわばブラックボックス化したシステムとして提供することが大事だと思っています」と語り、続けて「G-QuATのいろいろな種類の量子コンピューターをユーザーが使って、成果を比べてもらえれば、面白いですね」と話す。

     G-QuATには4種のコンピューターが設置されている。量子コンピューターは3種で、光量子コンピューター(システムO)の他に、超伝導量子コンピューター(システムF)、中性原子方式量子コンピューター(システムQ)がある。これに、GPUスーパーコンピューター(システムH)が加わり、量子・古典融合計算基盤「ABCI-Q」を構成している。

     これについて金子は、「4種のコンピューターをつなぐインターフェースの部分は産総研側がつくっています。重要なのは、ユーザーの行いたい計算を、各量子コンピューターが得意な部分、スパコンに任せたほうが良い部分などに分けることです」と説明する。

     AWS(Amazon Web Service)のように、クラウド上で複数の種類の量子コンピューターを公開している例はあるが、同じ建物内に存在し、物理的にも近いという環境は、今のところG-QuATだけのものだ。「ですから、互いの通信遅延が無視できます。最近はGPUスーパーコンピューターと量子コンピューターの連携についての研究開発が非常に進んでいます。これが、ユーザーの計算、問題解決にいかほど効果があるのかを、目の当たりにできると思うので、楽しみです」と金子。うなずきながら聞いていた福田が「ここでは、最先端の研究の中で、いろいろな背景を持つ人たちが互いの技術の長所を組み合わせて、これまでにない新しいものをつくっています。その過程で胸が高鳴るような、思わずワクワクするような成果に出会えることもあります。そこがとても面白いんです」と結んだ。

    OptQC株式会社
    量子サイエンティスト

    園山 樹

    SONOYAMA Tatsuki

    園山 樹量子サイエンティストの写真

    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    首席研究員

    福田 大治

    FUKUDA Daiji

    福田 大治首席研究員の写真

    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    上級首席研究員

    金子 晋久

    KANEKO Nobu-Hisa

    金子 晋久上級首席研究員の写真
    OptQC株式会社 産総研
    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)
    • 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央事業所2群
    • M-G-QuAT-plan-ml*aist.go.jp
      (*を@に変更して送信してください)
    • https://unit.aist.go.jp/g-quat/

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