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大腸菌が単一突然変異でカメムシの生存を支える必須共生細菌になる

大腸菌が単一突然変異でカメムシの生存を支える必須共生細菌になる

2026/07/29

大腸菌が単一突然変異でカメムシの生存を支える必須共生細菌になる

研究者の写真
    KeyPoint 生き物と微生物の「共生」は、生命を支える見えない仕組みです。モレキュラーバイオシステム研究部門の古賀隆一上級主任研究員らは、実験室で大腸菌を昆虫の必須共生細菌へと進化させることに成功しました。かぎは広域転写制御系に生じたたった一つの突然変異。数カ月から1年という短期間で、カメムシの生存を支える共生細菌へと進化し得ることを実証し、共生進化は想像以上に迅速で容易に起こり得ることを示しました。

    研究の背景:「共生はどのように始まるのか」を実証するために

     私たちの体内にも、昆虫の体内にも、微生物との共生が息づいています。ところが、共生がいつ、どのように始まり、高度に相利的な関係へ到達したのかという進化の起源は、化石に残りにくい現象であるため長らく推測の域を出ませんでした。そこで古賀らは、進化をリアルタイムに観察する「実験進化」の枠組みで、共生の出発点そのものを作り出すことに挑戦しました。宿主として選んだのはチャバネアオカメムシ。この昆虫は腸管後部に共生器官をもち、そこに腸内細菌科Pantoea属の共生細菌を抱えます。この共生細菌がいないと幼虫は育たず、多くが成虫になれません。また、共生細菌を卵表面に塗布して母から子へ受け渡す仕組みも知られています。 こうした精緻な共生システムを持つモデルを用い、共生細菌をあえて除去し、代わりに大腸菌を感染させて世代継代する実験系を構築しました。

    得られた成果:単一突然変異で「大腸菌が相利共生に化ける」

     始めは、無菌化した幼虫に大腸菌を与えても、羽化率は5~10 %ほどに低下し、小型で褐色の成虫がわずかに得られるだけでした。それでも体内の共生器官には大腸菌の局在が確認され、「居場所」は確保できることが分かりました。ここから感染→繁殖→次世代への受け渡しを繰り返す「選抜」をかけると、数カ月から1年のうちに広域転写制御系に生じた単一突然変異を獲得した大腸菌が現れ、宿主の羽化率を引き上げ、体色や体サイズも正常に近づけるなど、必須共生細菌として機能し始めることが実証されました。驚くべきは、その変化の速さと少なさです。高度な共生は長い時間を要する――という通念に対し、「たった一つの変化」でも共生の臨界点を越え得ることを、実験室で初めて示しました。変異の獲得前後で大腸菌自体の形態や宿主表現型が変わる様子も合わせて示され、共生に伴う宿主—微生物—遺伝子発現ネットワークの再編が示唆されました。

    今後の展望:共生エンジニアリングへ――基盤化・応用化・国際連携

     本研究で確立された「昆虫—大腸菌 実験共生進化系」は、共生進化の過程と機構を段階的に切り分けて検証できる実験基盤として機能します。今後は、遺伝子変異の多重導入や遺伝子発現制御ネットワークの改変による機能拡張、別宿主・別細菌への外挿可能性の評価を進め、共生を設計する(共生エンジニアリング)時代を切り開きます。今後、産学連携や国際共同研究を通じて、研究成果の社会還元を加速していきます。


    Single mutation makes Escherichia coli an insect mutualist
    Ryuichi Koga; Minoru Moriyama; Naoko Onodera‑Tanifuji; Yoshiko Ishii; Hiroki Takai; Masaki Mizutani; Kohei Oguchi; Reiko Okura; Shingo Suzuki; Yasuhiro Gotoh; Tetsuya Hayashi; Masahide Seki; Yutaka Suzuki; Yudai Nishide; Takahiro Hosokawa; Yuichi Wakamoto; Chikara Furusawa; Takema Fukatsu
    Nature Microbiology 7:1141–1150 (2022)
    大腸菌を昆虫共生細菌に進化させることに成功
    Tryptophanase disruption promotes insect–bacterium mutualism
    Yayun Wang, Minoru Moriyama, Ryuichi Koga, Kohei Oguchi, Takahiro Hosokawa, Hiroki Takai, Shuji Shigenobu, Naruo Nikoh & Takema Fukatsu
    Nature Microbiology volume 11, 759–769 (2026)
    共生進化の鍵となる細菌遺伝子を同定

    モレキュラーバイオシステム研究部門
    バイオシステム多様性研究グループ
    上級主任研究員

    古賀 隆一

    KOGA Ryuichi

    古賀上級主任研究員の写真
    産総研
    生命工学領域
    モレキュラーバイオシステム研究部門
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