「点群PNG」で、社会インフラに劇的な変革を
「点群PNG」で、社会インフラに劇的な変革を

2026/07/08
「点群PNG」で、社会インフラに劇的な変革を 産総研発、ウェブ時代の3D空間データ活用
現実の空間を、そのままデジタルに写し取ろうとする動きが加速している。ドローンやレーザースキャナーによって、都市や森林、インフラの現場は次々と「点群」による3Dデータとして記録され始め、現実世界とデジタル世界を結ぶ基盤データとして存在感を高めてきた。一方で、その可能性とは裏腹に、点群は長く「専門家のための重いデータ」にとどまってきた。サイズが大きすぎて、気軽には扱えない。ウェブ上では使えない。活用は一部の技術者に限られる──その前提を変えようと、産総研が正式公開したのが「点群PNG」というファイルフォーマットだ。空間データ活用の風景を塗り替える可能性を秘めた「点群PNG」の開発と今後について、地質調査総合センター 地質情報研究部門の西岡芳晴に聞いた。
点群データの課題は「データサイズの大きさ」
ドローンやレーザースキャナーが普及したことで、「点群データ」という言葉を目にする機会が増えている。地形や森林、建物などの構造物を3次元の点の集合で記録したデータのことだ。例えば国土地理院では、航空レーザー測量で得られた計測点のデータとして点群データを公開している。これは地表面のほか、建物や植生などを含んだ表層面の高さのデータであり、それぞれの計測点は、緯度・経度・高さ、そして色情報、レーザーの反射強度、地表、水部などの分類を含む情報を持っている。3次元空間に対応した多くの情報を持つため、精緻な分析や解析が可能になる。
点群データは、インフラや建設、防災、都市計画といった分野はもちろん、デジタルツインや自動運転、XRのような先端情報通信技術(ICT)の世界でも、現実空間をデジタル空間に写し取るための基盤データとして急速に存在感を増している。国や自治体も、3D都市モデルや地形の点群データをオープンデータとして公開・整備を進めている。
産総研地質情報研究部門の西岡芳晴は、「森林整備や建設などの分野では、国や県が点群データをオープンデータとして提供していて、活用に期待が持たれています。しかし、実際にはデータサイズが大きすぎて使い勝手が悪いという側面もあり、期待に応えられていないのが現状です」と語る。
点群データの保存で最も広く使われる業界標準のファイル形式として、LASがある。これはバイナリ形式でデータを保存するもので、数百万点の規模で数百MB、都市規模では数十GBから数百GBに達することもめずらしくない。
「例えば、富士山山頂の火口付近の1200×900 mのデータを考えた時、地表面の標高を数値データで表現するDEM(数値標高モデル)ならば6 MBほどで済みます。これが3Dの点群データになると、3 GBと膨大になります。公開された点群データを利用するため、パソコンにダウンロードするとしても、3 GBものデータは時間がかかり、処理も容易ではありません」と、西岡は指摘する。
こうした課題に対して、西岡は開発した新しいファイルフォーマット「点群PNG」で対応を目指す。富士山山頂の3GBのLASファイルのデータは、点群PNGならば600 MB弱に圧縮できる。データの欠損がない可逆圧縮であり、約6分の1のデータ量にすることでダウンロード時間の短縮などの使い勝手向上を目指す。その上、西岡は「点群PNGは、画像ファイルで用いられるPNG形式のファイルなので、ウェブブラウザーで扱いやすく、ウェブ上での3D表示にもつなげやすい」と、メリットをアピールする。
地質情報をウェブで届ける業務が発端の「点群PNG」
産総研が点群PNG ver.1.0を正式公開したのは、2025年10月1日のこと。LASファイルよりも軽量で、取り扱いが容易なファイル形式として、3Dデータの活用に向けて広く一般に利用してもらうことを想定する。西岡が、こうした3Dデータの活用のための研究に取り組むようになったのは、「地質情報を発信する業務での課題感」が、その根底にある。
「地質調査総合センターの地質情報研究部門に所属し、岩石学の観点から地質調査をして地質図を書くような仕事が、私の本業です。また、シームレス地質情報研究グループで、地質情報を一般に公開する業務も行っています。例えば、つくばセンター近くの筑波山は、上部は斑れい岩、下部は花こう岩で構成されています。情報地質学会の視点から、そうした地質情報と地形の情報をウェブで発信する技術開発にも取り組んできました」と、西岡は説明する。そうした中で、データ量の多い点群データを活用しやすくするためのフォーマットについて相談があり、開発したのが点群PNGだった。
地質情報をウェブで届ける業務など、「現場の課題」を解決するために、「点群PNG」の研究・開発が進んだ
PNGは、Portable Network Graphicsの略で、ウェブで広く使われる可逆圧縮形式の画像ファイルフォーマットだ。西岡は、「数値を色に変換して画像として保存する」というアイデアを持っていた。色は、R(赤)G(緑)B(青)の3色がそれぞれどれだけの値を持っているかで特定の色を表現できる。いわゆるフルカラーは、各色の256段階を指定することで、1677万色を特定できる。それならば、あるデータの数値をRGBで表現した色に置き換えて、画像フォーマットを「数値の入れ物」に使おうというアイデアだ。
西岡は、「データをPNGで表現することから、このアイデアを『データPNG』という概念で提唱しました。1つの色で1つのデータの数値を表現できます」と説明する。
点群データの1つの例として、富士山山頂の3776.12 mは、「R=5、G=195、B=12」と、黄緑に近い、明るい緑色で示す方法がある。2次元の地図に、データPNGの考え方で標高に対応する色を指定していけば、cm単位まで標高を表現できるデータPNGファイルができる。PNGファイルは可逆の画像圧縮が可能なので、ファイルフォーマットにデータ圧縮の機能を付加することなくデータ量削減が可能だ。こうした考え方を3次元の点群データに適用したのが、正式公開した点群PNGというわけだ。
点群PNGのサンプル。座標値以外の属性情報も扱えることが特徴。
データを画像にして圧縮、ダウンロードも高速に
点群PNGでは、点のX・Y・Z座標や色、分類情報などを数値として保持し、それらを色に変換してPNGファイルに格納する。2次元の画像として構成する際に、X座標は最上部、Y座標はその下、Z座標は中央、その地点の色の情報はさらに下部、分類情報は最下部など、同種のデータを近くに配置するようにする。同種のデータは近い数値を取るため、似たような色が近傍に出現することになり、2次元の画像圧縮で高い圧縮効果が得られる。そうして作成した点群PNGは、「PNGの圧縮・展開はウェブブラウザーに機能が実装されているので、標準的に利用が可能です。ウェブブラウザーは画像表示の高速化に力を入れているので、表示側のソフトウエアを開発せずに高速表示できることも魅力です」と西岡が語るように、利用時のメリットも多い。
富士山山頂部分の点群データをファイルフォーマットごとに比較した結果からも、その効果はわかる。西岡は、「例えばLASファイルで1,529 MBだった点群データは、点群PNGにすることで7分の1以下の214 MBに圧縮できました。これをロードするために必要な時間は、71秒から12.3秒へと6分の1ほどに短縮できました。データ量が小さくなるので、サーバーから高速に転送できるわけです。点群PNGの仕様は無料で公開していて、サーバー側は画像ファイルを置くだけで特別な機能が不要なので余計なコストがかかりません。画像ファイルなので、GPUがあれば高速処理ができます。いわば『走・攻・守』の三拍子がそろったフォーマットだと自負しています」と、成果をアピールする。特に、ダウンロードに要する時間が短縮できるのは効果絶大と見ている。
「この例では、6分の1ほどへの短縮できました。1分以上も待たないとダウンロードできない状況から、12秒でダウンロードできるようになることで、点群データの使い方が変わります。データをいったんダウンロードしてから使う用途から、ウェブブラウザーやウェブアプリなどでダウンロードしながら使う用途への変化です。アプリケーション(以下、「アプリ」)の作り方や発想そのものが変わってくると考えています」と、西岡は目を輝かせる。
フォーマット開発からツール提供など普及促進フェーズへ
メリットの多い点群PNGだが、まだ誰もが使える状況には至っていない。西岡は、「今のところ」という前置きをしながら、「標準規格ではないこと、知名度がないこと、扱えるツールが少ないこと」が、普及の阻害要因になっていると語る。そうした中、点群PNGを扱うためのツールを西岡たちのグループが提供することで、普及促進に力を入れる。ツールは、2026年1月時点で4種類を用意しており、試験公開もしている。「点群PNGヘルパー」「点群タイルメーカー」「点群タイルビューアー」「点群ダウンローダー」が、それだ。
点群PNGヘルパーは、業界標準のLASファイルなどを入力すると点群PNGに変換してくれるもので、点群PNGファイルの作成を支援する。点群タイルメーカーは、大量の地図データを点群PNGファイルにする際に、正方形に分割した点群PNGタイルセットとして出力するアプリだ。点群PNGタイルセットは、ウェブアプリとして提供する点群タイルビューアーで表示できる。また、点群PNGで圧縮したファイルをアーカイブしている時に、LASなどほかの標準的なフォーマットに展開して利用するための点群ダウンローダーも用意する。点群PNGを作成し、タイルに分割、表示し、標準的なファイル形式に再現するまでの一通りのツールを、産総研が提供するかたちだ。
「点群PNGの正式公開を終え、今後はツールの改良をすることと、ツール作成のために作成したプログラム類をオープンソースとして公開することに注力していきます。現時点では無料で公開して、点群PNGの普及促進につなげていきたいです」と、西岡は今後を見据える。点群PNGのフォーマットそのものはver.1.0で完成を見たことから、ツールの提供と普及促進に力を入れていく段階に移ったわけだ。
「点群PNGヘルパー」の一つ、「点群PNGの生成・閲覧を支援するウェブアプリ」のサンプル画面。LASファイルやテキストファイル、GeoJSONをドラッグ&ドロップすることで、容易に点群PNGに変換することが可能
用途の広がりに期待。産総研発の標準化も視野
点群PNGは、点群データが広く使われるための起爆剤になる可能性を持つ。西岡は、「例えば、大規模地震が起きた際、点群データを使って斜面災害の予測や分析をしようとしても、現状の重たいLASファイルでは、迅速な利用が困難です。ウェブブラウザーやウェブアプリで使えて、データ量が少ない点群PNGならば、短時間で分析が可能になる。適切な用途とマッチングさせることで、点群PNGを普及させられると考えています」と、意気込みを語る。
それだけに、点群PNGの広報活動にも力が入る。「国際規格ではないことが、普及にとっての足かせになっていると感じています。現在は、各県の森林担当者などに点群PNGを案内し、地質や地球物理学、気象などの研究者にも紹介して利用を促しています。日本でデファクトスタンダードになれば、国際規格にする望みが出てきます。点群PNGの国際規格化を考えた時、先端技術の社会実装を目指す産総研のポジションは有効だと感じています」と、西岡は点群PNGの将来に期待を寄せる。産総研の他分野の研究者の中でも、点群PNGの試験的な利用が始まっているというように、正式公開とツール提供から一歩ずつ地盤を固めていく段階にある。
3Dデータのハンドリングが容易になる点群PNGは、地質や測量の世界だけでなく、地理空間を扱う自動運転など多分野での応用可能性も高い。
「都道府県レベルでも、点群データは森林に限らず、都市部の防災や減災、都市計画などにも利用が可能です。それだけでなく、スケールを調整すれば歯型などを3Dデータとして記録することにも使えるでしょう。用途は非常に幅広いと考えています」と、西岡はさらなる点群PNGの応用への期待を語る。点群を専門家の道具から社会の素材へと変化させられる力を持つ点群PNG。3Dデータを幅広く活用して社会課題を解決するために、産総研発のフォーマットである、点群PNGが貢献する未来の第一歩が始まったところだ。
地質情報研究部門
シームレス地質情報研究グループ
キャリアリサーチャー
西岡 芳晴
NISHIOKA Yoshiharu