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材料診断とは?

材料診断とは?

2026/06/10

#話題の〇〇を解説

材料診断

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    材料診断とは?

    高分子材料(プラスチックやゴム)の化学構造を分析し、劣化や不具合の原因を突き止めるための技術です。人間が体調不良で病院を受診するように、材料の「症状」を観察し、原因を「診断」して、最善の対策という「処方箋」まで提示します。従来の材料分析からさらに一歩進んだこの技術を、産総研では「材料診断」と名づけ、企業が抱える課題を一緒に解決しようと連携を進めています。

    材料開発の現場では、川上から川下までさまざまな課題があります。課題の解決には、材料の組成や分子構造、複合材料の界面に加え、分散性や劣化の進行などを適切に評価することが重要です。また、欧州を中心に再生プラスチックの使用が義務化される予定で、これに伴い回収材や再生材の組成分析や品質評価のニーズも急増しています。
    産総研では、こうしたニーズに応える技術を「材料診断」と名づけ、材料開発におけるさまざまな課題解決に取り組んでいます。材料診断について、中国センター 水門潤治所長と、機能化学研究部門 有機材料診断研究グループ 藤田康彦研究グループ長に話を聞きました。

    Contents

    材料診断とは

     材料診断とは、産総研・機能化学研究部門が得意とするゴムやプラスチックなどの高分子材料の分析・評価を通じて、企業が直面する製品開発の悩みや課題を解決する取り組みです。

     材料診断のプロセスは、医療の診察に似ています。医療では、診察・問診により症状をヒアリングし、その症状にあった検査・診断を行い、治療していきます。それと同様に、材料診断では、製品の課題(例:品質、耐久性など)をヒアリングし、それに基づき適切な分析・評価を提案して根本原因を特定し、課題解決を図ります。

     たとえば、ゴムやプラスチックの「割れ」といっても、その原因は一つではありません。結晶化や添加剤ブリードアウト、ボイド形成といった材料起因の変化や、紫外線・熱・加水分解などの環境劣化、さらに歪みや疲労といった機械的な要因など、多岐にわたります。こうした多様なメカニズムが複合的に関与するため、最適な分析方法も一つに定まるわけではありません。

     産総研には、分子構造解析、高次構造解析、劣化解析、添加剤分析、動的構造解析、界面構造解析など、幅広い分析に対応できる装置群を備えた「材料診断プラットフォーム」が整備されており、これらを自在に使いこなす専門家が多数在籍しています。高度で多角的な分析技術と専門知識を組み合わせることで、材料の状態を総合的に把握し、企業が抱える課題に対して的確な診断と解決策の提示を可能にしています。

    材料診断の種類

     製品課題は多岐にわたるため、必要とされる分析項目も幅広く存在します。材料診断プラットフォームには、化学構造解析(分光分析装置、質量分析装置など)、形態観察(電子顕微鏡、プローブ顕微鏡など)、材料物性解析(熱特性、粘弾特性、機械特性など)などを分析できる多様な装置群が整備され、多角的かつ専門的に材料診断を進めることができます。最近では、材料診断にインフォマティクス技術を取り入れ、解析精度の向上やデータの見える化にも力を入れています。また、リサイクル材の迅速診断を見据えた簡易分析技術の開発も進めています。

     中でも、光を用いた化学構造解析技術が飛躍的に進化しており、産総研ではその最先端を切り開く研究開発を進めています。その代表例がAFM‑IR(ナノスケール赤外顕微鏡)の高性能化です。

    産総研における最先端技術の開発

     AFM-IRは、原子間力顕微鏡と赤外分光法(IR)を組み合わせることで、ナノスケールの超高空間分解能で材料の化学構造が解析できる最先端の装置です。赤外分光法は、赤外線を当てることで物質の化学構造を詳細に分析できる一方、空間分解能はおよそ5μmであり、ミクロン以下の細かな構造は見えません。AFM-IRでは、試料に赤外線を当てつつ、AFMの極めて細い針先でその場所ごとの赤外吸収を検出します。この画期的な原理により、約50 nmという、従来の赤外分光法に比べ、およそ100倍の空間分解能で化学構造を解析できるようになりました。これにより、たとえば複合材料中のナノスケールの分散状態など、これまで見えなかった化学構造が可視化できるようになっており、研究開発現場での活用が盛んに進められています。

     このようにAFM-IRは複合材料等の微細な化学構造の解析ができる画期的な技術です。しかし、このAFM-IRをもってしても、材料物性に深く寄与するとされる界面を詳細に評価することには限界がありました。界面の化学構造を評価したくても、分解能が足りずにぼやけてしまい、詳細な分析ができないためです。

    AFM-IR概要図、樹脂複合材料のIRイメージング画像
    AFM-IRの概要図と樹脂複合材料のIRイメージング像(2026/05/08 プレスリリース

     そこで産総研では、このナノスケール赤外顕微鏡の分解能をさらに向上させた、超高分解能ナノスケール赤外顕微鏡を開発しています。

     分解能が制限される原因を探ったところ、AFM-IRで用いるプローブ(細い針の意)にあることがわかりました。市販のAFM-IRプローブは、ベースプローブに厚み数10 nmの金属膜を堆積させた構造を有しています。この厚いコート膜が針先まで全体に施されており、このために針先が丸まってしまい、空間分解能に限界が生じていたのです。

     そこで産総研では、これまでのプローブとは全く構造が異なる、針の先端に化学合成した金属ナノワイヤを取り付けた「ナノワイヤプローブ」を開発しました。金属ナノワイヤは硬くかつ細いため、従来を上回る空間分解能が達成できました。また、ナノワイヤを適切な長さに調整することで、ナノワイヤが赤外アンテナとして働き、感度が大幅に向上しました。我々は、このナノワイヤプローブを用いた超高分解能AFM-IR法を「ナノワイヤAFM-IR法」と呼んでいます。

     ナノワイヤAFM-IR法では、従来は見られなかった微細な構造が観察できるようになりました。たとえば、相分離ポリマー中の10 nmサイズの微小相の分析や、界面層と呼ばれる界面特有の構造の解析、ナノ材料表面における官能基分布の可視化が可能となりました。さらに、究極的にはDNA一分子の可視化も実現しています。これにより、これまで見えなかった「ナノスケール化学構造の世界」が見えるようになり、材料の物性や機能性を化学構造に基づいて理解できるようになってきています。

    ナノワイヤAFM-IR概念図、各種材料におけるIRイメージング画像
    ナノワイヤAFM-IRの概念図と各種材料におけるIRイメージング像(2026/05/08 プレスリリース

    今後の展望

     材料診断にはすでに多くの相談が寄せられており、扱う課題も年々広範かつ複雑化しています。こうした社会の要望に応えるためには、材料診断技術そのものも進化し続ける必要があります。

     その代表的な例がプラスチックリサイクル分野です。欧州では製品への再生プラスチックの利用が義務化される予定で、日本企業も輸出に際して対応が求められることになります。しかし、回収材は様々な場所から混在した状態で回収されるため、品質のばらつきが大きく、安定的な再利用に課題があります。そのため、迅速かつ簡易に組成や品質を評価できる診断技術が不可欠です。産総研では、インフォマティクス技術の活用を含め、5〜10分程度で分析可能な迅速診断技術の開発を進めており、企業との連携のもと実用化に向けた検討が始まっています。

     同時に、技術の未踏領域を切り開く先端計測技術の開発も推進しています。今回紹介したナノワイヤAFM‑IRはその象徴であり、超高分解能の化学構造解析を可能にし、この技術を社会実装することで、研究者の誰もがナノスケールの化学構造情報にアクセスできる未来を目指しています。さらに、この計測技術が社会に広く実装されれば、単なる分析技術の高度化にとどまらず、従来の配合調整を中心とした材料開発から分子構造に基づいて材料を設計するという、ものづくりの発想そのものを大きく転換しうる可能性を秘めていると考えています。

     このように材料診断は日々進化していますが、これらの取り組みは産総研だけでは成り立ちません。企業との密接な連携こそが、社会課題の解決と産業界の発展を支える原動力です。今後も企業の皆さまと協力しながら、より良い社会の実現に貢献していきたいと考えています。


    Yasuhiko Fujita, Mariko Takahashi, Farsai Taemaitree, Hiroshi Uji-i, Hirohmi Watanabe, Nanowire-based AFM-IR microscopy: Unveiling chemical structure at sub-10 nm resolution with silver nanowire functionalized AFM probes, Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)
    DOI:10.1073/pnas.252812212

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