藻類とは?
藻類とは?

2026/04/28
藻類
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
藻類とは?
藻類とは、「光合成を行う真核生物のうち、陸上植物を除いたもの」のことです。ワカメやコンブといった身近な食品や、理科の授業で習ったミカヅキモやボルボックスのような微生物などをまとめて藻類と呼んでいます。藻類の中でも肉眼では見えないほど小さなものは微細藻類と呼ばれ、有用物質を産生する微細藻類は産業応用に向けた研究が進んでいます。産総研では特にミドリムシに注目し、ミドリムシ成分を原料にしたプラスチックや接着剤などの開発を行っています。
藻類は光合成を行う葉緑体を持ち、二酸化炭素を吸収して成長します。そのため、藻類を活用した食品や材料は環境負荷の軽減につながるとして近年さらに注目が集まっています。藻類の産業応用では食品やバイオ燃料の研究が多いですが、産総研ではミドリムシが産生する「パラミロン」という多糖に注目し、パラミロン由来のプラスチックや接着剤などを開発してきました。こうした研究に取り組んでいるモレキュラーバイオシステム研究部門の芝上基成招へい研究員、氷見山幹基主任研究員、秋山健太郎研究員に話を聞きました。
藻類とは——海藻から微生物まで
藻類と聞いて、ワカメのような海藻を思い浮かべたり、緑色の小さな生き物を想像したりするかもしれません。実は、藻類は形態学や分類学に基づいた用語ではなく、幅広い生物種を総称したものです。現在は、「光合成を行う真核生物のうち、地上で生息する植物(コケ植物、シダ植物、種子植物)を除いたもの」を藻類と位置付けています。
いくつか、具体的に紹介しましょう。食べ物としてなじみのあるワカメやコンブ、ヒジキは「褐藻」に分類される藻類。ところてんや寒天の原料になるテングサは「紅藻」、青のりの原料になるアオサは「緑藻」に分類される藻類です。これらは海に生息する藻類であり、一般的に海藻と呼ばれています。
海藻は多細胞生物ですが、単細胞生物の藻類も多くいます。吸水性の高い素材として知られている珪藻土は、珪藻という藻類の細胞を覆っているガラス質の殻の化石が堆積したものです。
生息範囲も広く、海水に生息している藻類もいれば、湖や川など淡水に生息する藻類もいます。水中に浮遊して生活する比較的小型の藻類やシアノバクテリア(酸素発生型光合成を行う原核生物)などは、まとめて「植物プランクトン」と呼ばれ、水生動物の重要な食料となります。水中だけでなく、湿った土壌や岩場で、雨などのわずかな水を供給源として生息する藻類もいます。このように、藻類と一口に言っても幅広い生物が含まれています。
ものづくりへの活用
ワカメやコンブなど、大型藻類は食品として長く親しまれています。これに対して、目に見えないほど小さい藻類は「微細藻類」と呼ばれており、近年では産業応用を目的に多様な研究開発が行われています。
微細藻類はさまざまな物質をつくることができ、いわゆるバイオ燃料や機能性物質など、人間社会に有用な物質を産生する藻類もいます。藻類を利用したバイオものづくり、いわば「藻類ものづくり」というわけです。
例えば、ボツリオコッカスという緑藻の一種である微細藻類は長い炭素鎖が特徴の炭化水素をつくることができ、これが石油を代替すると期待されています。藻類に近縁な真核微生物であるラビリンチュラ綱に分類されるオーランチオキトリウムも、DHAのような多価不飽和脂肪酸や、石油に近い物質を産生します。
微細藻類の中には、大規模培養に適した種として知られているものがいます。例えばミドリムシは増殖が速く、条件を整えれば約8時間で細胞分裂を行って2倍に増えます。将来的には大量培養、そして有用物質の大量生産のために、巨大な開放系プールで培養するオープンポンド方式も検討されています。光合成で生育させれば、二酸化炭素(CO2)の発生量は石油由来製品の製造よりも抑えられると考えられ、環境負荷を軽減して循環型社会の実現にも貢献できると期待されています。
産総研における研究
ミドリムシの多糖パラミロン
現在の微細藻類の研究の多くがバイオ燃料や食品志向であるのに対して、産総研では材料開発の視点で研究を続けています。材料化学と藻類学を融合し、新規材料の開発やカーボンニュートラルという文脈の中で価値の創出を目指しており、これらはアカデミアとしても意義のある活動と考えています。
産総研では微細藻類の中でも「ミドリムシ」に注目し、ミドリムシが産生するパラミロンという多糖を出発原料とした材料開発を行っています。パラミロンはミドリムシの細胞内に大量に蓄積しており、乾燥細胞重量の70 %以上を占めることもあります。細胞から抽出、精製したパラミロン粒子中のパラミロン純度はほぼ100 %であることも、素材として魅力的な点の一つです。パラミロンにさまざまな化学修飾を行うことで、これまでに多くの材料素材を生み出してきました。(2024/12/03プレスリリース)
ミドリムシとパラミロン
易解体接着剤
産総研では過去に、パラミロンの水酸基をアセチル基と長鎖アシル基で置換したパラミロン混合エステルを熱成形することでプラスチックをつくってきました。この研究をさらに発展させたのが接着剤の開発です。
接着の強さの指標である引張せん断強度は、一般的なエポキシ系構造材用接着剤の強度が20〜30 MPa、文献報告されているバイオベース接着剤の中でも高い値が18 MPa程度であるのに対して、私たちの開発したパラミロン接着剤は30 MPaと、市販品に匹敵することがわかりました。
パラミロン接着剤は天然由来であることに加え、再加熱によって容易に解体できる易解体性も大きな特徴であり、リサイクルに適しています。
引張せん断強度の評価に用いる試験片
ミドリムシ培養のための廃液利用
ミドリムシを効率よく培養するための方法として、工場から排出される廃液を利用する研究にも取り組んでいます。ミドリムシは光合成を行いますが、同時に動物として糖などを取り入れることもできます。そこで、例えば食品工場の廃水のように糖分に富んだ食品系廃液を使った従属栄養培養方式を検討しています。廃液を有効活用できれば、バイオマス製品の価格が下がり、製品バリエーションの拡大にもつながります。
廃液を処理して清浄な水をつくる現在の方法として、好気性微生物を利用する活性汚泥法があります。しかし、活性汚泥法では廃液に空気(酸素)を送り込む必要があり、そのために大量の電力を消費します。生活廃水も含め、活性汚泥法などによる廃水処理で使う電力は国内総電力消費量の1 %を超えるといわれています。ライフサイクルアセスメントの面からも、廃液をミドリムシ培養に利用することでCO2排出や電力消費を抑制できると期待されています。
パラミロンの「ナフサ化」を目指して
上で紹介したもの以外にも、ナノファイバーやサブマイクロファイバー、生分解性繊維、光学フィルム、超吸水性フィルムなども開発してきました。ナフサが多くの石油化学製品に活用されているように、パラミロンも幅広い用途に活用されてほしいという願いを込めて、パラミロンの「ナフサ化」を目指しています。
私たちはパラミロン由来の材料開発を川の流れに例えて、源流、川上、川中、川下の4つに分けています。
源流:新奇なミドリムシ株の探索(自然界での野外採取や、実験室での育種、馴化など)
川上:ミドリムシの高効率培養法の開発
川中:パラミロンに機能性を持たせるための化学変性法の検討
川下:化学変性パラミロンを素材とする新規材料の開発
産総研では、これら源流から川下まで一気通貫で研究を行っていることが大きな特徴です。企業との共同研究を通じて、パラミロンのさまざまな可能性を協議できればと考えています。
パラミロンを蓄積したミドリムシ
謝辞
写真の試験片は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業「車体接着長期安定化のための界面設計技術開発」(2021~2024)において開発したレーザー表面処理技術を採用して、センシング技術研究部門 寺崎正 研究チーム長の元で作成されたものである。
“Effect of laser pre-treatment on adhesive joint performance and evaluation of interfacial strain distribution using mechanoluminescence”, N. Terasaki, Y. Fujio, Y. Sakata, K. Houjou, K. Shimamoto, H. Akiyama, K. Yase, S. Horiuchi, S. Hartwig, J. Steinberg, C. Gundlach, R. Hirakawa, The Journal of Adhesion, 2024, 1-18.