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人工光合成とは?

2022/04/27

#話題の〇〇を解説

人工光合成

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

人工光合成とは?

人工光合成とは、植物の葉緑体で行われている太陽エネルギーを変換する仕組みの一部を模した技術のことです。第4の太陽エネルギー活用法とも言われ、水と光を原料にエネルギーや有用化学物を生み出す技術として期待されています。産総研は世界で初めて可視光での水分解や世界最高水準の光触媒・光電極のエネルギー変換技術を開発してきました。

植物の光合成の仕組みをまねるところから始まったこの技術は、太陽光発電とは異なるエネルギー生産方法として期待されています。30年にわたり第一線で研究を続ける ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)首席研究員で人工光合成研究チームの佐山和弘研究チーム長 に「人工光合成の現在と課題」を聞きました。

Contents

人工光合成の現在地

太陽エネルギーを活用したい

 人工光合成を一言で表すと、太陽エネルギーを化学エネルギーに直接変換し蓄積する技術です。植物の葉緑体が行う、水と二酸化炭素を材料に酸素と糖を生産する働きと同じことをしています。植物が行うことを天然の光合成とすると、人が道具を使って行うので、人工光合成と呼ばれます。

 太陽エネルギーを直接利用できる技術は非常に限られています。これまでは太陽電池、バイオマス、太陽熱利用の3種類とされてきました。

  • 太陽電池…光起電力効果を利用した発電方法。太陽光を電気に変換する
  • バイオマス…動植物から生まれた生物資源。直接燃やしたり、これを材料として作った燃料を用いたりして発電する
  • 太陽熱利用…太陽光で温めた水や溶媒を発電や給湯に利用することなどで、燃料の消費量を減らす

 人工光合成は太陽光を直接水素などのエネルギーに変換し、これまでの方法では難しかったエネルギーの貯蔵も可能にする技術として非常に有望です。

 研究は1970年代前半、オイルショックの頃から行われており、1980年頃にはやっと4種類くらいの水分解用の光触媒が報告されていました。光合成といえば漠然と日光での反応をイメージしますが、当時はいずれも紫外線を用いるものでした。可視光線での人工光合成は2001年に産総研が発表したものが世界初 となりました。(2001/12/6プレスリリース記事

 それまでの研究では、1種類の光触媒プロセスで光合成反応を完結する方法が模索されていました。しかし、天然の光合成は2段階の光吸収プロセスで構成されています。そこで、産総研ではこの仕組みをまねすることで、世界で初めて可視光による人工光合成を可能にしたのです。この分野では現在も日本の研究が世界をリードしています。

人工光合成の実験風景
人工光合成の実験風景
 

エネルギー変換効率は植物レベルに到達

 太陽エネルギーの利用方法で最も普及しているのは太陽電池(太陽光発電)でしょう。時計や街灯、電卓の電源として、また、アウトドアや災害時の補助バッテリーとして暮らしの中に浸透しています。大規模な太陽光発電システムを目にする機会も増えました。これらの一般的な太陽電池では光を電気に変換する割合(エネルギー変換効率)が15~20%程度と言われています。対して、人工光合成では変換効率3%以上を目標に研究が進められています。小さい数字に見えますが、植物の中でも変換効率が高いサトウキビでも2.2%程度です。藍藻類のスピルリナで0.5%程度、トウモロコシでも0.8%程度です。

 産総研では、ビスマス系の光触媒を用いることで天然の植物と肩を並べるところまで技術が進歩しています。現在発表しているエネルギー変換効率の値は0.65%。いまは少ない数値に見えると思いますが理論上、鉄イオンでの限界効率は24%であり、実用化目標の3%も決して夢ではありません。

社会実装に向けた課題

 現段階ではまだ「使い勝手の良いシステム」には到達していませんが、人工光合成はエネルギー問題を解決できる可能性を持つ数少ない選択肢と考えています。

 安全で、安価で安定的に供給できること。この全てを満たすシステムをなるだけ早く実用化することが求められます。広く普及・活用されるためには、太陽エネルギー変換システムは「芸術品」ではなく「日用品」にならなくてはいけません。 そのために、よりエネルギー変換効率を高める触媒の探索や、工業的に利益も見込めるシステムづくりが急務となります。普及に向けて、この2つが大きな課題と考えています。

人工光合成の今後

新テクノロジーで研究開発をスピードアップ

 光触媒の研究開発では膨大な数の試料調査を行います。さまざまな金属塩溶液の比率を変えて混合・塗布し光触媒膜のサンプルをライブラリ化します。たとえば、それぞれに光を当てた際の光電流応答を計測し、性能指標とします。 この一連の作業を正確かつ高速に行うため、「高速自動探索装置」も開発し材料探索を加速化しました。2本のロボットアームが正確に試料作製や測定機へのセッティングを行い、収集したデータは機械学習の活用で、従来の人手より一桁以上早い探索を可能としています。

産総研オリジナルのハイブリッドシステムで「いいとこ取り」

 人工光合成の研究分野は幅広いですが、産総研では粉末の光触媒を用いて水を水素と酸素に分解する研究や、光触媒と電気分解を組み合わせたハイブリッドの研究を行っています。また、導電性基板に光触媒を塗布した光電極を用いて水を分解する研究を行っています。水素という燃料をいかに安く作るかということとともに、光電極の素材や原料を工夫することで、過酸化水素や次亜塩素酸などのもっと高い付加価値のあるものを作ることを研究しています。

 水素をつくるだけでは達成できないシステム全体のコストダウンを、商品価値の高い化合物を選択的に生成することで達成しようとしています。

目標はやはり植物

 人工光合成システムを日用品として扱えるようにするとは、「植物のように扱えるもの」をイメージしています。

 太陽光、海水・空気は地球上どこにでもある材料です。現在、エネルギーは1カ所で作り、濃縮して輸送し、消費地で薄めて使うのが常識です。これは電力でも化学物質でも同じです。今後、家庭菜園のように必要な場所で必要な分だけエネルギーを作ることができたら、輸送や貯蔵管理、濃縮や希釈が不要になります。システムが小型になり少々単価が上がったとしても、管理コストと合わせると決して高くはないということになるでしょう。エネルギーも地産地消の時代になるのです。

 場所を選ばず、誰でも手軽に利用できるシステムの早期開発を目指しています。

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