熱電変換
\研究者にきいてみた!/
手が触れると、小さなファンが動き始める—「熱電変換」という、体温ほどの熱でも電気に変える技術です。電池のように化学反応を起こす必要はなく、太陽光も使いません。温度差がある限り発電でき、動く部品もないため、長い時間安定して使えるのが特徴です。
この熱電変換技術で、宇宙探査のための半永久電源を開発するプロジェクトが、本格始動しました。プロジェクトに参加する産総研の研究者 太田道広さん、山本淳さん、佐分利禎さんに、どんな研究に取り組んでいくのかくわしく聞きました!
熱電変換の仕組みは、実はとてもシンプルです。材料の片側が温かく、もう片側が冷たいという状態をつくると、温度の高い側から低い側へと電子や正孔が移動します。この電子・正孔の流れを電気として取り出すことで、熱を直接電気に変えることができます。この現象は「ゼーベック効果」と呼ばれ、19世紀初頭に発見された、熱電変換技術の基となるものです。
熱電発電の原理
電池は内部の化学反応によって電気を生み出すため、反応が終われば使えなくなります。また、太陽電池は光がなければ発電できません。その点、熱電変換は温度差さえあれば発電できるため、太陽光が届かない場所や、長期間のメンテナンスが難しい環境でも使えるという強みがあります。
2025年、この熱電変換技術を用いて宇宙探査のための半永久電源を開発するプロジェクトがスタートし、産総研からも複数の研究ユニットがタッグを組んで臨んでいます。
半永久電源に用いる熱電変換デバイスの作製を担当しているのが、ゼロエミッション国際共同研究センターの太田道広さんと山本淳さん。太田さんは、「宇宙では場所によって太陽光が届かず、さらに熱電変換材料に損傷を与える宇宙線・中性子が絶えず降り注いでいます。そんな過酷な環境でもきちんと発電できるよう、従来の熱電変換技術からさらに耐久性や変換効率を高める必要があります」と話します。
熱電変換材料の開発について話す太田さん
熱を電気に変えるためには、電気はよく流れる一方で、熱はできるだけ流れにくいという、少し矛盾した性質が求められます。「電気は通しやすいけれど、熱は通しにくい。そのような性質を実現するために、材料の中にナノメートルサイズの微細な構造をつくっています」と太田さんは説明します。こうした微細構造によって、電子の流れは妨げず、熱の流れだけを散乱させることが可能になるのです。
電子顕微鏡で観察した材料中のナノ構造
山本さん「熱電技術は、宇宙探査とともに発展してきたと言っても過言ではありません。一方、我が国の宇宙探査においては、熱電技術を用いた半永久電源の開発は長年の悲願でもありました。これまで米国をはじめとする国々が先行してきた分野に、我が国が本格的に取り組むことは、日本の宇宙探査能力を飛躍的に高める重要な一歩となるでしょう。」
デモ装置の熱電変換デバイス部分に手を当て温めながら、説明する山本さん
進行しているプロジェクトでは、日本原子力研究開発機構と協力して、熱電変換デバイスを用いて実際に使われる熱源を利用し、LEDを点灯させることが確認できています。
長期安定発熱体を用いた国内初の熱電発電によるLED点灯の様子(写真中央部のLEDが発光)
写真提供:日本原子力研究開発機構
一方、作製した電源を実際にロケットに載せるためには、安全性の検証が欠かせません。その役割を担うのが、安全科学研究部門の佐分利禎さんです。
「ロケットで打ち上げる宇宙探査機には、今回開発する半永久電源のほかに、探査機が推進力を得るための、"推進薬"と呼ばれる燃料や酸化剤なども搭載されます。ロケット打ち上げが失敗した時など、条件によっては推進薬が爆発的反応を引き起こして想定外の事象につながる可能性もあるので、万が一の爆発事象に対する影響評価とリスク低減対策が不可欠です」
半永久電源と推進薬がどのように宇宙探査機、そしてロケットに搭載されるかによって構造設計も変わってきます。設計段階から、爆発発生時に半永久電源が受ける衝撃荷重など安全性をシミュレーションし、その結果に基づいて設計を最適化していきます。さらに、爆発実験により設計通りの性能となっているかの検証を重ね、より安全で信頼性の高い設計に改良していきます。
――佐分利さんの研究は、こうしたフィードバックにおいて重要な役割を果たしています。
爆発実験について説明する佐分利さん
熱電変換と安全性評価という、一見すると異なる分野の研究が結びつき、日本の宇宙開発を支える技術が育てられています。「熱電変換は、宇宙用途だけでなく、自動車や工場の廃熱を電気に変えることで、環境負荷を減らせる技術としての展開も期待できる」とプロジェクトの先を見据えた意気込みも語ってくれた太田さん。
佐分利さんからは、「熱電変換に爆発のエネルギーを利活用した新しい技術展開にも挑戦してみたい」と、二つの研究分野のさらなる融合も視野に入れた熱意も。
これからの研究開発の進展と、その先に広がる応用に、期待が高まります。