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話題の〇〇を解説

レドックスフロー電池とは?

2024/03/27

#話題の〇〇を解説

レドックスフロー電池

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    レドックスフロー電池とは?

    レドックスフロー電池とは、電解液を循環させて充電、放電するしくみの蓄電池のことです。電気を貯める物質の還元(reduction)と酸化(oxidation)、そして循環(flow)にちなんで、レドックスフロー電池(Redox Flow Battery、RFB)と名付けられました。基本的にはセル、正極と負極とタンク、電解液、電解液を循環させるポンプなどから構成されます。安全性が高い、寿命が長い、大容量化しやすい、周期変動に強い、といった点が特徴です。発電量の変動が大きい再生可能エネルギーの普及に伴い、発電量の変動を吸収する役割などが期待されています。

    レドックスフロー電池(RFB)は構造上、極めて安全で、長寿命、大容量化しやすく、長期的に電気を貯めることに適しています。近年、こうした長所を活かし、再生可能エネルギーの発電量の変動を調整する電池として注目され、電力会社などでの利用が進んでいます。しかし、現在普及しているRFBに用いられるバナジウムは産出地域が限られ、高価格であるといった課題もあります。次世代RFB開発に向けた研究はどのように進められているのか、省エネルギー研究部門エネルギー貯蔵システムグループの大平昭博研究グループ長に聞きました。

    Contents

    レドックスフロー電池とは~液体中のイオンの酸化還元により充放電

     レドックスフロー電池(RFB)は、液体に電気を貯める方式の二次電池です。セルと2つのタンク、電解液(イオンの酸化還元反応を起こす活物質を液体に溶かしたもの)、ポンプなどから構成され、セルにあるイオン交換膜が、イオン価数の異なる2種類の電解液を隔てる境界となっています。正極、負極はそれぞれの電解液に接触していて、電解液をポンプで循環させ、イオンの酸化還元反応を利用して充電、放電を行うしくみです。

     このしくみは1974年に米国航空宇宙局で発案されました。ほぼ同時期に電子技術総合研究所(電総研、産総研の前身のひとつ)も、この原理に基づいた電池の基礎研究を開始しています。

     当時、電総研では活物質に鉄とクロムを用いたのですが、これらはイオン交換膜を抜けやすく、さらに部材が腐食するなど、機能が長保ちしないという問題があり、実用化には至りませんでした。その後、オーストラリアの大学研究者がバナジウムを用いる方法を開発し、一気に実用化が進みました。

    図
    レドックスフロー電池の仕組み

    高い安全性、長い寿命が利点。一方で課題も

     他の電池と比較したときのRFBの長所としては、高い安全性があげられます。例えば、リチウムイオン二次電池では火災のリスクがありますが、RFBの電解液は水溶液であるため、その心配がありません。また、寿命が長いことも長所のひとつで、バナジウム水溶液を電解液として用いる場合、その寿命は20年以上と言われています。さらに、大規模化にも対応できるという長所もあります。長期だけでなく、リチウムイオン電池のように短時間で切り替えられるという点で周期変動(周波数の変動)にも強いのが特徴です。リチウムイオン電池と違い、RFBはセルとタンクを分離して設計できるため、電池の容量を大きくするには、タンクを大きくするだけで済みますし、使用中でも電解液の電圧を測定すれば充電状態がわかります。こうした特徴から、電力会社などの定置型大規模電力貯蔵施設に適していると考えられています。

     一方、課題としてはエネルギー密度の低さが挙げられます。溶液に溶かせる活物質の量には限界があり、エネルギー密度はリチウムイオン電池に比べて1桁ほど低くなります。また、液漏れへの対応も課題として挙げられます。バナジウムを使った電解液は、硫酸バナジウム水溶液という強酸性溶液であるため、液漏れを防ぐ工夫が必要です。さらに、資源的な制約も大きな課題です。活物質に使われるバナジウムは産出国が少なく、中国、ロシア、南アフリカの3カ国で世界の産出量の約95 %を占めるため安定的な供給に課題があり、価格が乱高下する危険もあります。このようなリスクへ対応できるような、バナジウムの代替物質の探索は現在も行われています。

    定置型蓄電池の種類と特徴
    蓄電池の種類 時間容量 特徴 国内の系統用蓄電池の導入事例(出力/容量)
    リチウムイオン電池(LiB) ~4時間程度 ・EVなど用途が幅広い
    ・エネルギー密度が大きく小型化に対応
    ・短周期変動に適用
    240 MW/720 MWh
    (北海道天塩郡豊富町)
    40 MW/40 MWh
    (福島県南相馬市)など
    ナトリウム-硫黄(NAS)電池 6時間程度 ・レアメタルフリー
    ・300 ℃の温度で運転
    ・大容量かつ高出力
    50 MW/300 MWh
    (福岡県豊前市)
    4.2 MW/25.2 MWh
    (島根県隠岐郡西ノ島町)
    レドックスフロー電池(RFB) 3~10時間以上 ・難燃性で安全性が高い
    ・20年以上の長寿命
    ・大容量化が容易
    15 MW/60 MWh
    17 MW/51 MWh
    (北海道勇払郡安平町)

    再生可能エネルギー台頭に伴い、再び脚光

     リチウムイオン電池や全固体電池の台頭によって、一時は研究開発が下火になっていたRFBが、再生可能エネルギーの普及とともに再び注目を集めるようになっています。風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーでは電力の変動が大きく、長期的に余剰電力を蓄電して変動を吸収する必要があります。この変動幅を吸収するのに、安全性が高い、大容量にしやすい、低コストで長時間使えるなどの長所があるRFBが適しています。

     特に、長時間対応できることは大きな利点です。アメリカでは電力会社に対して、再生可能エネルギーとともに蓄電池の導入施策が進められており、中でもカリフォルニア州では8時間以上の長時間充放電が可能な蓄電池の導入が推進されています。日本では従来は4時間しか想定していませんでしたが、現在は見直され始めています。RFB普及への追い風となっていると言えるでしょう。

    新しい活物質や部材の研究から普及に向けた連携まで

     産総研ではRFBについて、電解液、セル、部材などの材料開発だけでなく、性能評価などの応用面に至るまで研究を進めています。

     まずはバナジウムに代わる、安全でエネルギー密度の高い(=溶媒によく溶ける)活物質の探索や合成です。近年は、有機材料の活物質を食塩水に溶かした電解液が、理論的にはバナジウム水溶液の2倍の電力容量を出せることを実証しました。それに伴い、電極やセルの研究も進めています。また、バナジウム水溶液は強酸性であるため、イオン交換膜などにフッ素系物質を使う必要がありますが、これも有機系や希少元素を含まない電解液なら、より一般的な物質を使えるようになるでしょう。用途によって求められる機能を確保しながら、資源制約に対応できる二次電池の開発を進めています。(産総研マガジン「次世代二次電池とは?」 )

     さらに新しい技術の一つとして、還元や酸化が困難な材料でも利用できるRFBの研究も行われています。電解液に触媒を少量加えることで、こうした材料においても充放電が可能な仕組みを確立しました。モデルとして、非常に安定した物質で還元が起きにくいCO2を活物質に選び、RFBが動作することを実証しました。

     RFBは水電解や水素製造・輸送などと極めて親和性が高い技術で、将来的にはそうした分野へ応用、発展できる可能性もあります。(産総研マガジン「エネルギーキャリアとは?」 )エネルギーの地産地消という視点からも、RFBなどの安全なエネルギー貯蔵技術の開発と普及が今後も求められるでしょう。

     RFBの開発にはさまざまな側面からのアプローチが必要になることから、産総研は研究の発展に伴って、化学メーカー、材料メーカー、イオン交換膜のメーカーなどと協力しながら、技術の普及につながる研究開発を進めていきます。

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