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【産総研・研究者漫画】木質流動・関雅子さんの「流れて粘る」

2026/04/17

COLUMN

木質流動・関雅子さんの「流れて粘る」

~研究者漫画 AIST RESEARCHER MANGA~

取材・構成 産総研広報、漫画 篠原 彬

    これは科学解説漫画ではない。研究者の人生の物語だ。

    すべての発明は、研究者たちが日夜手を動かし、数多の壁を乗り越えた先に生まれる。
    そばで研究者を支える職員として、成果だけではなく研究という「人の営み」を伝えたいと思いました。
    同じ研究所の職員だからこそ聞ける、純度100%の“研究にかける想い”。
    取材をもとに構成された、ノンフィクションの漫画を産総研広報・完全内製でお届けします。

     

    関雅子さんの漫画1ページ目
    関雅子さんの漫画2ページ目
    関雅子さんの漫画3ページ目
    関雅子さんの漫画4ページ目
    関雅子さんの漫画5ページ目
    関雅子さんの漫画6ページ目
    関雅子さんの漫画7ページ目
    関雅子さんの漫画8ページ目
    関雅子さんの漫画9ページ目
    関雅子さんの漫画10ページ目
    関雅子さんの漫画11ページ目

    関雅子さん・取材こぼれ話

    粘り続けた先に、研究は実る
    歴史的なものづくりの地・中部で、木材がひらく“工芸×工業”の新領域

    関雅子さんの写真

    ものづくりの地・中部と木材研究
    受け継がれる技術と産業の源流

     産総研で「木材を研究している」と聞くと、意外に感じる人も多いかもしれません。産総研の前身の一つである名古屋工業技術研究所で、コンソーシアム「持続性木質資源工業技術研究会」が発足したのは1996年のことです。木材を工芸としての価値に加え、工業技術の領域でも活用していくことを目的に結成されました。現在では、カーボンニュートラルが社会全体の課題となり、木材はバイオマス資源として注目を集めていますが、当時は「木材は社会的ニーズのある研究対象である」という認識は希薄でした。関さんが産総研に入所した2010年代に入っても、その状況は変わらず、「木材の研究者たちは、グループ存続の危機感を抱きながら研究を続けていました」と振り返ります。

     そもそも、なぜ名古屋で木材なのでしょうか。その由来はさかのぼること、安土桃山時代。豊臣秀吉が、木曽谷の豊富で良質な「木曽檜」を城郭建築に利用したことに始まります。木材は木曽川で流送され、熱田湊(現在の名古屋市熱田区)まで運ばれました。名古屋に集まった森林資源は、ものづくりの土台となり、山車だしやからくり人形、仏壇などの製造が盛んに。木工職人が集まり、加工技術にも磨きがかかりました。この土壌に、明治以降の織機開発、さらに大正以降の航空機製造などが発展。現在、モビリティやセラミックス、金属などに代表される中部地方の産業力の源流は、木材とそれを基盤とするものづくりにあるのです。

     こうした地域的な背景から、産総研 中部センターは、ものづくり産業の集積する中部地域において、“材料系ものづくりの総合的な研究拠点”を目指しています。木材も、その研究対象のひとつです。木質資源は、製造時のCO2排出量が少なく、石油資源材料を代替できる他、再生可能であるといった特長があります。長期に材料利用することで、脱炭素社会の実現に寄与できる資源です。関さんは、木材を工業技術として利活用することで、社会課題の解決につながると考えています。

    研究も人生も、人間万事塞翁が馬
    粘り、続けることで見えてくる景色がある

     「もともと、何事においてもあまりセンスがあるタイプじゃありませんでした」と振り返る、関さん。中学入学とともに、偶然勧誘されるがまま入ったバスケットボール部はなかなか楽しいと思えず、苦しかったと言います。それでも、結果的に大学まで10年間バスケットボールを続け、中学、高校、大学とキャプテンを務めました。

     「苦しいからといって辞めれば、悔しい思いをずっと引きずることになる。そう思って、歯を食いしばりました」

     当初はセンスがないとコーチに言われながらも、最終的にはキャプテンとして客観的にも認められた──このバスケットボールでの経験が、研究を続けるうえでも影響を与えたと、関さんは話します。

     「初めから木材を使ったテーマにピンと来ていたわけではありませんでした。研究の本質がなかなか見えず、指導を受けては落ち込むこともありました。ただ、自分が選んだ道だから、続けていたら何かあるかもしれない、という思いはずっとありました。“人間万事塞翁が馬”。人生は予測不可能で、何が良いかは後になってみないと分からない──バスケットボールに打ち込んでいた頃から考えていたことです。最近になってようやく勘が身につき、研究も思い通りに進むことが増えてきました。企業連携の場でも、求められていることが次第に分かるようになり、『自分の研究も役に立っているんだ』という自信がつきました。ようやく楽しいと思えるようになってきたのですが、ここまで10年かかりました。すべては積み重ねです。続けていれば、実る日が来る。今では後輩の相談に乗ることもありますが、『私だって10年かかって、ようやくだよ』と励ましています」

    マルチな視野の醸成が突破口に
    「感性」という新たな領域へも挑む

     大学時代から木材を研究テーマに据えていた関さんですが、2011年には特任助教として岐阜大学で勤務。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の研究に従事しました。

     「研究テーマが木材からCFRPになったときは、知らないことばかりで戸惑いました。しかし、この約1年半の経験が、研究者としての視野を広げてくれたと、今になって感じています。界面特性をはじめとした複合材料の考え方は、装置選びや研究の進め方の面で、現在も役に立っています」 産総研には、さまざまな専門分野がグラデーションのように配置されています。これまでの研究が生きる分野もあれば、他分野での経験が自らの専門に還元されることもあります。領域横断的な研究活動が武器になる点も、産総研の強みです。

     関さんは今、心理学の専門家と一緒に、感性工学的アプローチによる材料開発の研究を進めようとしています。

     産業とは一見縁遠く思える「感性」ですが、関さんは、社会的課題の解決にも重要な要素だと考えていると言います。

     「感性材料とは、感性という人を中心にした特性を持つ材料のことです。心地良さを与え、ストレスを緩和し、人が愛着を持って長く使える──そんな材料を指します。それらを産業的に創出するには、まず人の感性を評価する技術や、感性に関わる“モノ”の物性を評価する技術などが必要になります」

     触り心地、見た目、音、香り、温かみなど、「人の感じ方」に工学的にアプローチする感性材料は、こうした特性を多く備える木材と、親和性の高い材料分野です。これまで機能だけでは解けなかった社会課題に対し、感性という切り口で挑もうとしているのが、関さんの新たな試みです。

     「『社会を良くする』ために、企業連携を通じて新しい価値や新しい枠組みを生み出し、他ではやっていない研究に挑む。そうして、新しい世の中で貢献できる枠組みをつくることが、今の私の仕事です」

     私たちにも身近な材料である木材。工業材料としても、無限の可能性を秘めています。その可能性を最大限に引き出すため、今日も関さんの挑戦は続いています。


    木質流動成形に欠かせない企業連携
    技術を社会実装まで、ともに育む

     研究グループのシーズ技術「木質流動成形」に関しては、中部センターのマルチマテリアル研究部門が中核となり、中小企業との共同研究や技術相談を通じて社会実装を目指しています。椅子や印鑑ケースといったインテリア・日用品にとどまらず、自動車用の木質パネルなどの自動車部材、キーボードなどの家電周辺機器、スピーカーなどの音響部材に至るまで、協力企業それぞれの専門分野を生かした研究開発が進められてきました。

    木質流動成形技術を用いたサンプルの数々、おちょこやスプーン、将棋の駒など

     愛知県に拠点を置くチヨダ工業株式会社も、そうした協力企業の一つです。同社はプレス金型のパイオニアとして、主に自動車部品の試作品製作を手がけてきました。共同研究のきっかけは、「おちょこ」の金型を対象とした公募。産総研の金型では摩耗や腐食、破損といった課題が生じていましたが、チヨダ工業が提供した金型では、こうした不具合が発生せず、極めて品質の高い成形が可能となりました。自動車部品向けに培われた高硬度の金型技術や表面コーティングのノウハウが、成形性や離型性の向上、金型の腐食防止に寄与したのです。

     その後も約10年にわたり共同研究が続けられ、スピーカーや将棋駒などの製品化にも成功してきました。現在では、木質流動成形の技術の一部がチヨダ工業に技術移転されており、「木質流動成形技術を用いて製品を作りたい」といった相談に対しては、産総研が実施許諾をしている特許を活用し、チヨダ工業が製作を担う体制が構築されています。

     近年、資源循環型社会の実現やカーボンニュートラルの推進、脱プラスチック素材への関心の高まりを背景に、木材バイオマス資源への注目が一層高まっています。従来、木質流動成形では木材に含浸させる添加剤として石油由来樹脂が用いられてきましたが、近年では天然由来樹脂への代替が進められています。関さんらの最新の研究では、バイオマス由来樹脂との複合化や、化学修飾などによる新たな手法により、耐水性に優れ、再成形も可能な「脱プラスチック木質流動成形」の実現に向けた取り組みが進展しています。

    左から、チヨダ工業株式会社の山田哲也さん、山田満雄さん、関さん(産総研)、牧野伸志さん。チヨダ工業と産総研は、2012年から木質流動成形の分野で協力関係にあります。
    座面に木質流動成形品を使用した、鼈甲のような模様が美しいスツール
    鼈甲べっこうのような模様が美しいスツール。座面に木質流動成形品を使用しています。サステナブル素材を活用できるといった環境配慮の観点に加え、「思い出の校舎の木材を使って」など付加価値をつけ、インテリアとしてのたたずまいを実現。記憶や物語を宿す素材活用も可能にしています。/株式会社SANKEI
    振動板に木質流動成形技術を用いたスピーカーの写真
    スピーカーの振動板(コーン)に、竹を用いた木質流動成形技術を採用。強靭な竹の繊維細胞を生かし、0.5 mm未満の薄肉化に成功しました。振動板ユニットとキャビネットも独自に開発しています。/チヨダ工業株式会社

    木質流動成形技術についてもっと知りたい方はこちら!

    木が粘土のようにぐにゃりと変形⁉︎木質流動成形のしくみはこちらから:産総研マガジン「木質流動成形とは?」

    共同研究で新たな事業領域を開拓!木質流動成形で資源循環社会に貢献できる企業へ。

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