バイオミメティクスとは?
バイオミメティクスとは?
2024/11/27
バイオミメティクス
とは?
―生物の特徴をものづくりに生かす―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
バイオミメティクスとは?
バイオミメティクスとは、生物がもっている性質や特徴を分析・模倣し、製品づくりに役立てることです。例えば、水を弾くハスの葉の構造に着想を得て、ヨーグルトのふたを加工してヨーグルトが付かないようにした例が有名です。これまでのバイオミメティクスは生物の構造に注目することが多かったのですが、今後は温度などの環境の変化に応じて性質が変化するといった、より「生物らしい」バイオミメティクス素材や材料の開発が期待されています。
生物は、長い進化の歴史の中でさまざまな機能をもつようになりました。自然界に存在する生物の機能からヒントを得て工業製品に応用し、より性能の高い材料づくりに活かす試みのことをバイオミメティクス(生物模倣技術)といいます。バイオミメティクスの研究例や今後の展望について、極限機能材料研究部門 光熱制御材料グループの浦田千尋研究グループ長に聞きました。
バイオミメティクスとは
バイオミメティクスとは
バイオミメティクスとは、生物の機能や構造などを模倣したり、それらから着想を得たりして、新しい技術の開発やものづくりに活かすことです。英語で生物を意味するバイオ(bio)と、模倣を意味するミメティック(mimetic)を合わせた言葉で、日本語では生物模倣技術と訳されます。
バイオミメティクスの例
バイオミメティクスのよく知られている例が、ハスの葉の撥水性を利用したヨーグルトのふたです。ハスの葉の表面には細かい凹凸構造があり、これによって水を弾くことができます。これに似た構造をヨーグルトのふたに加工することで、ふたにヨーグルトがつかなくなります。他には、オナモミの実のトゲが服にくっつくことから着想を得た面ファスナーも有名です。
バイオミメティクスが活用される主な分野には、表面機能、流体力学、強靭性、光などがあります。ハスの葉やオナモミの実の例では表面機能に活用され、蛾の複眼は表面機能と光の低反射に活用されています。
実用化に向けた課題と融合分野ならではの挑戦
バイオミメティクスでは、生物がもつ優れた機能を人類が利用可能な技術として体系化することが重要です。しかし、体系化するにあたっていくつかの課題があります。
実用化に向けては、生物がもつ機能や現象を解明することに加え、その機能や現象をいかに生産プロセスに落とし込み、社会に有益なものにするかを考える必要があります。特殊な素材や加工が必要な場合にはコストが跳ね上がり、企業としては手が出しにくくなるでしょう。さらに、耐久性も求められます。
また、バイオミメティクスは生物学と工学の融合領域であるため、双方の研究者の協力が欠かせません。工学を専門とする私も、生物学の研究者とのコミュニケーションを深めるために、いろいろな動植物を飼育してきました。工学と生物学の専門家が協力することで、生物の特徴を工学の視点から解き明かすことにも貢献できると考えています。
産総研の取り組みと未来のバイオミメティクス
ナメクジの体表を模倣した着氷雪防止フィルム
これまで紹介したバイオミメティクス材料は、生物の持つ「構造」をヒントにしたものです。今後は構造のみでなく、温度変化への対応や構造の維持といった、より動的で「生物らしい」機能を工学的に再現することが期待されています。
産総研で開発し、実証実験を進めているバイオミメティクス材料の一つに、ナメクジが粘液をつかって体表面の汚れを落とす仕組みを模倣した「自己潤滑性ゲル(SLUG : Self-LUbricating Gel)」があります。SLUGはシリコーン樹脂とシリコーンオイルから構成されたゲル状物質であり、低温環境下で表面にオイルがにじみでることで、液体や固体の汚れが付きにくくなることが実証されています。さらに工業的なフィルム製造方法であるロールtoロール法によって大面積のフィルム生産に成功し、SLUGフィルム実用化への道筋が見えてきました。(産総研マガジン「傷を自分で直す、生物のようなコーティング新素材」)
豪雪地帯でおこなった実証実験では、SLUGフィルムを貼り付けた場所では雪が滑落しやすくなり、着雪を防止できることがわかりました。標識や反射材、信号機、太陽光パネルの着氷、着雪を防止することで雪害の軽減につながる材料です。関心をお持ちの企業の方々と連携して、SLUGの製品化に取り組みたいと考えていますので、気軽にお問い合せください。
静的から動的なバイオミメティクスへ
これまでのバイオミメティクスは、生物の特殊な機能や構造を工学的に再現できたとしても、その機能を維持することは極めて困難でした。しかし実際には、生物は環境の変化に耐え、その特殊機能を維持するために代謝を行っています。
これからは、生物の代謝のような機能をもち、環境変化に応じながら長期にわたって機能を維持できる素材・材料が求められると考えています。これまでのように生物の構造や機能に注目するものを「静的バイオミメティクス」、経時変化にも注目し、生物が代謝して機能を維持するように自己修復したり、温度に応答したりするものを「動的バイオミメティクス」と私たちは呼んでいます。
私たちの開発した自己潤滑性ゲルSLUGは、温度に応じて少しずつ油が浸み出たり、油がゲル内部に戻るという点では、動的バイオミメティクスの性質をもつものです。「動的バイオミメティクス」に着目することで、これまで想像もつかなかったような新しい素材が生まれてくるのではないかと考えています。産総研では、バイオミメティクス材料の実用化を進めながら、あらたなバイオミメティクス材料の研究開発に取り組んでいきます。