ケミカルタン・冨田峻介さんの「ありのままを楽しむ」
~研究者漫画 AIST RESEARCHER MANGA~ #科学技術週間
取材・構成 産総研広報 、漫画 篠原 彬
これは科学解説漫画ではない。研究者の人生の物語だ。
すべての発明は、研究者たちが日夜手を動かし、数多の壁を乗り越えた先に生まれる。
そばで研究者を支える職員として、成果だけではなく研究という「人の営み」を伝えたいと思いました。
同じ研究所の職員だからこそ聞ける、純度100%の“研究にかける想い”。
取材をもとに構成された、ノンフィクションの漫画を産総研広報・完全内製でお届けします。
冨田さん・取材こぼれ話
Curiosity Driven:産業界にも求められる、興味から始まる尖った研究
取材冒頭、伏し目がちに「研究者になるつもりはなかったし、学園祭に夢中で勉強もしてなくって……」と語りだす冨田さん。事前の下調べで企業共同研究も複数、助成金も多数獲得しているのを知っていた取材班は驚くばかりでした。ここでは、漫画で紹介しきれなかった冨田さんの研究の内容を一部だけ紹介します。根底にあるのは“Curiosity Driven”、興味関心から生まれた熱意でなんでも吸収する好奇心と、分野や業界を超えて何にでも挑戦する柔軟さにあるようです。
ネーミングが連携拡大のカギ!?「ケミカルタン」
修士2年ではじめて「タンパク質とまともに会話ができた」冨田さん。博士号を取得した後、10年かけて研究してきたのがケミカルタン(Chemical Tongue)。蛍光ポリマーとAIを使って、タンパク質や細胞、微生物、血液、食品などのバイオ試料の特徴を判別できる新しい技術で、注目している応用先の一つが微生物だそうです。従来のセンシング技術に比べて、簡便でありつつも高精度、あらゆる環境中の微生物に使えるのがポイントです。(詳しくはこちらの記事で)
この研究を始めた当時、冨田さん自身は基礎的な研究だと思っていて、「一人で実験して、タンパク質と向きあって、ニヤニヤしながら論文書いてました。もっと新しいことがわかるかもしれないという瞬間が好きで」と振り返ります。ところがこの技術を「ケミカルタン」と呼びだしたことをきっかけに、多くの方々に親しみを持ってもらえるようになり、いろいろな分野から注目されるようになって、企業プロジェクトも走り出しました。その一部を紹介します。
◯ケミカルタンで難病をターゲットにした治療薬開発:モルミル株式会社*1
モルミル株式会社は、冨田さんが産総研の兼業制度を使って科学技術顧問を務めるスタートアップ企業。ケミカルタンの低コストで候補物質をスクリーニングできる機能を難病治療薬の開発につなげようとしています。治療薬開発の世界では、複数の技術を使用して正確に試料を分析することに重点が置かれてきたのに対し、サンプルの特徴を“味”としておおまかに認識するという、ケミカルタンの尖った特徴が注目されて連携につながりました。(詳しくはこちらの記事で)
◯ケミカルタンでユニークな日本酒製造を支える:希JAPAN株式会社*2
希JAPAN株式会社は、醸造蔵を持たない日本酒メーカー。酒蔵の生産ラインを借りて、オリジナルブランドの日本酒を製造販売しています。冨田さんが協力するのは、どんな蔵でつくっても同じ味と品質になるようにするための日本酒製造のデジタル化。ケミカルタンを使ってデータをもとに調合することで、環境が変わっても同じ酒質の日本酒を製造できるようになると期待されています。日本酒製造をDXしようという社長の尖った思いと、ケミカルタンの特徴がぴったりマッチし、ユニークな連携につながりました。
元々は興味から生まれた研究をして、タンパク質が好きで実験が好きで、論文を書くのが好き。そんな冨田さんのところに舞い込んだ企業連携でしたが、来るもの拒まずでやってみようというのが基本姿勢。
「スタートアップ企業に参画してわかりましたが、尖った技術が求められるのは、学術界でも産業界でも同じだったんです。そんな尖った技術開発は、既存の知見の積み重ねだけではなかなか見つからない。自分の興味や好奇心、そして偶発的な連携から生み出される思いも寄らない結果を大切にしつつ……研究を楽しんでいきたいですね!」
産総研は、あなたが一番興奮する好奇心から始まる研究を、社会とつなげる仕組みが整っています。冨田さんのように、基礎研究にも企業連携にも自分らしい興味とやり方で向き合う研究者と一緒に働いてみませんか?
<もっと知りたい方へ>
Q 産総研にはどんな採用があるんだろう?:産総研 採用情報
Q 冨田さんが産総研で働く理由はなんだろう?:#科学技術週間 特設サイト:なんであなたは研究者に?ーー他者を通じて、世界の可能性を広げたいから
*1: モルミル株式会社[参照元に戻る]
*2: 希JAPAN株式会社[参照元に戻る]