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話題の〇〇を解説

エネルギーキャリアとは?

2024/01/24

#話題の〇〇を解説

エネルギーキャリア

とは?

―水素を効率的・安全に輸送する技術―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

エネルギーキャリアとは?

エネルギーキャリアとは、エネルギーを運搬する物質(媒体)や方法(システム)のことです。例えば、再生可能エネルギーを電力以外のエネルギー物質として長距離輸送し、中長期かつ大規模に貯蔵する媒体、すなわちエネルギーキャリアとして水素の利用が期待されています。水素は、カーボンニュートラル社会実現のためのキーテクノロジーとして期待されていますが、水素を利用する社会を実現するためには、「製造」「貯蔵・輸送」「利用」という一連のサプライチェーンの構築が不可欠となります。この中で、エネルギーキャリアは「貯蔵・輸送」を担います。現在、エネルギーキャリアとして、液化水素や有機ハイドライド(MCH)、アンモニア、メタネーション(合成メタン)などについて、社会実装に向けた取り組みが進められています。

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、安全で経済的な水素社会へ移行するためには、水素の「製造」「貯蔵・輸送」「利用」というサプライチェーンの構築とその高効率化、低コスト化が不可欠です。人間が生活しつづけていくために、エネルギー需要がゼロになることはなく、カーボンニュートラルを実現するためには、化石燃料の代わりに水素を活用しなければなりません。また、国土が狭い日本においては引き続き国外からエネルギーを運搬することも考えなければなりません。このような状況で水素を次世代エネルギーとして活用するためには、大量の水素を、効率よく、安全に輸送するエネルギーキャリアの技術が求められます。日本のエネルギーキャリアの現状と未来について、ゼロエミッション国際共同研究センター水素製造・貯蔵基盤研究チームの高木英行研究チーム長、再生可能エネルギー研究センターの難波哲哉副研究センター長に話を聞きました。

Contents

エネルギーキャリアとは?

水素エネルギーに対する期待

 カーボンニュートラル社会実現のためのキーテクノロジーとして期待される水素(H2)。水からつくることができ、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーです。気体、液体、固体などさまざまな状態で貯蔵・輸送が可能で、高いエネルギー効率、低い環境負荷、非常時の利活用が見込まれます(産総研マガジン:水素エネルギーとは?)。

 エネルギーを可能な限り長期保管し、必要な場所へ運搬する、そのための“時間と空間を超えられる”エネルギーとして、水素への期待が高まっています。

エネルギーキャリアの課題

 水素は常温常圧では気体の状態にあり、そのままでは体積が大きく、貯蔵・輸送に必要となるコストも大きくなります。また、水素は燃えやすいため、安全上の対策も課題となります。したがって、大量の水素を長距離運搬するためには、運搬しやすい形に変換することが必要です。

エネルギーキャリアの特徴

 2017年に、日本が世界に先駆けて策定した「水素基本戦略」では、エネルギーキャリアとして、液化水素、有機ハイドライド(MCH)、アンモニア、メタネーション(合成メタン)が示されています。各々のエネルギーキャリアには、優れた点や技術的課題、適した場面があり、技術的課題の克服に向けた取り組みとともに、総合的な評価が求められています。

表
各エネルギーキャリアの特徴
水素社会実現に向けた社会実装モデルについて(2021年経済産業省)の図を引用 ※産総研外のWEBサイトにリンクします)

液化水素

 水素を液体にすると、その体積はガス状態の約800分の1になり、高密度での運搬ができるようになります。また、利用時に高純度の水素が得られやすく、燃料電池自動車などでの直接利用において便利です。日本は液化天然ガス(LNG)の技術を持っており、これらを活かしながら液化水素の技術開発が進められています。

 大きな課題は、-253 ℃という極低温に対応するインフラ(船、港の設備、タンクなど)構築のための技術開発・実証です。これらの課題を克服することが、液化水素の利用拡大に向けた重要なステップとなります。

有機ハイドライド

 有機ハイドライトのひとつであるメチルシクロヘキサン(MCH)は、常温常圧で液体であり、長期貯蔵が可能です。消防法上はガソリンと同じ扱いであるため、既存の石油類と同様にケミカルタンカーで運搬することができます。

 MCHは、触媒と一緒に加熱すると水素を放出しトルエンに戻るので、この反応を利用してエネルギーキャリアとして使おうというものです。この過程で熱エネルギーが必要となるので、変換にかかるエネルギーの低減が課題となっています。現在のところ、石油化学のプラントがあるようなコンビナートや大型の発電所などでの利用が想定されています。

アンモニア

 アンモニアはエネルギーキャリアの中で最も水素の含有量、密度が高く、液化温度も-33 ℃と液化水素に比べて高いことが特長です。電力会社や発電所では、既にアンモニアを使った設備があり、窒素酸化物(NOx)と反応させてNOxを無害化する脱硝用途として利用されています。

 課題は、臭いと毒性です。取り扱いに注意を要するとともに、安全対策が必要となります。他にも、アンモニアをどのように製造するかということも課題になります。アンモニアを分解せずにそのまま燃やして燃料として利用できるようになりましたが、一方、アンモニアの製造は一般的に高温高圧条件が必要となり、燃料アンモニアをどのように製造するのかということを考えていかなければいけません。

メタネーション(合成メタン)

 メタネーションにより、水素と二酸化炭素(CO2)から合成されるメタン(CH4)は、都市ガス導管などの既存のインフラや設備を利用できることが利点としてあげられます。

 合成メタンは、「e-methane」とも呼ばれますが、原料として水素だけではなく、CO2が必要になるため、CO2の供給源の確保がメタネーションの利用拡大に向けた重要なステップとなります。また、海外で合成されたメタンを日本国内で利用する場合、CO2排出に関する取り扱いについての国際的な制度も必要となります。

そのほかの水素貯蔵技術

 水素はそのままでは体積が大きいので、高圧水素にして体積を小さくし、貯蔵する方法があります。しかし、高圧の水素は、金属の中に入り込んで金属材料をもろくしてしまうことがあり、対応すべき課題となっています。これに対し、産総研では、水素ステーションなどで利用する材料の評価や標準化について長年にわたり研究を行っています。

 ほかにも、水素を金属にためるという方法もあります。産総研では、再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変えて水素吸蔵合金に蓄えたのち、必要に応じて水素を取り出して発電できる、建物付帯型水素エネルギー利用システムの導入と実証実験を行っています。(産総研マガジン:CO2フリー水素を街で安全に使いこなす

 これらの貯蔵技術は長距離輸送することがあまり想定されないので、水素基本戦略においてもサプライチェーン構築におけるエネルギーキャリアとしては示されていませんが、水素を利用していくためには重要な技術です。

エネルギーキャリア研究の未来

 エネルギーキャリアに関する技術は、水素社会実現にとって欠かせません。日本は国土が狭いので、限られた再生可能エネルギーをより有効に利用する必要がありますし、一定程度は国外からエネルギーを運搬してくる必要もあります。エネルギーは今後も使い続けていくものなので、エネルギーキャリアの必要性もなくなることはないでしょう。

 エネルギーキャリア技術は、すでに実証段階に入ってきており、今後は導入段階に移行していくことが求められています。水素に関する技術の研究開発は、社会システムや社会実装について目指す姿があり、それに向けて研究を進めていく、バックキャストの視点を持ちながら取り組む必要があると考えています。また、サプライチェーンの構築が不可欠となりますので、関連する企業との1対1の関係とともに、複数の企業や国などと連携しながら取り組みを進めることも大切になります。

 カーボンニュートラル関連の動きは非常に早いこともあり、国内外ともに、多くのニーズに対し、研究者・技術者の数が足りていない状況だと思います。産総研では、水素に関するサプライチェーン構築に必要な技術開発について、製造から貯蔵・輸送、利用、評価まですべての研究を行っています。産総研においても、リソースは限られているところがありますが、皆さんとともに、カーボンニュートラル社会実現の鍵となる水素、エネルギーキャリア技術が少しでも早く安全に普及するための取り組みを続けていきたいと考えています。

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