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話題の〇〇を解説

カーボンナノチューブとは?

2023/12/06

#話題の〇〇を解説

カーボンナノチューブ

とは?

―LiB用の導電助剤で普及する日本発の先端高機能材料―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

カーボンナノチューブとは?

カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube : CNT)は、炭素原子(C)だけでできたチューブ状のナノ素材です。日本で発見された先端材料であり、鋼の20倍の強度、銅の10倍の熱伝導性、アルミの半分の密度、シリコンの10倍の電子移動度を持つと言われています。その特長を生かして工業製品への実用化がはじまっています。樹脂やゴムと複合化することで導電性付与や強度向上といった用途だけでなく、リチウムイオン電池(LiB)電極の電気抵抗を低減する導電助剤として、世界で年5000トン以上が使用されています。

1991年に飯島澄男博士によって発見され、世界中の研究者を驚かせた日本発の先端材料、CNT。宇宙エレベーターへの活用など宇宙産業への応用可能性に大きな期待が寄せられました。現在は、軽量で高強度、弾性力や導電性も高いなど、工業製品の材料として優位な特長を生かして、半導体やリチウムイオン電池など多彩な製品への応用が進められています。CNTの開発状況や用途開拓などについて、ナノカーボンデバイス研究センターの小久保研 総括研究主幹に聞きました。

Contents

カーボンナノチューブ(CNT)とは

 CNTは、炭素原子(C)だけでできたチューブ状の構造で、チューブの層が1層でできている単層カーボンナノチューブ(単層CNT)と、複数層重なっている多層カーボンナノチューブ(多層CNT)があり、どちらも高い熱伝導性、導電性など共通した性質を有しますが、それぞれに異なる特長があります。

 単層CNTは直径が約1~4 nm。チューブが細いことにより生み出されるしなやかさと、導電性や熱伝導性に極めて優れ、化学反応性も高いといった特長があります。このような特長を生かして、単層CNTはゴム・樹脂・金属などとの複合材料として使われるほか、エレクトロニクスデバイスとしてトランジスタ、メモリ、センサーなどのさまざまな用途へ応用が進んでいます。高品質・高機能な単層CNTは魅力的ですが製造が難しく、普及には製造コストの高さが課題となっています。

 一方、炭素のチューブが何層にも重なった多層CNTは、チューブの直径が約4~150 nmと単層CNTに比べて太くなり、高強度であることが特長です。多層CNTは、現時点では単層CNTと比べて安価に生産でき、日本や中国、韓国、欧米をはじめ世界中のメーカーが生産しています。主に携帯端末や電気自動車(EV)などに搭載されているリチウムイオン電池(LiB)の導電助剤として年5000トン以上の需要があるとされています。その他にもバドミントンやテニスのラケット、ゴルフクラブのシャフトなどのスポーツ用品、塩害などの過酷環境に強い防さび塗料、スピーカー振動板、ヒーターベストなどの発熱材料に使用されるなど、身近なところでもCNTは使われています。

  特長
単層CNTの図
単層CNT
・直径約1~4 nmと細くてしなやか
・導電性や熱伝導性に極めて優れる
・化学反応性も高い
・現状は高機能用途で使用される
多層CNTの図
多層CNT
・直径約4~150 nmと太くて高強度
・安価
・LiB導電助剤、スポーツ用品、塗料、発熱材などに広く用いられる
単層CNTと多層CNT

CNTはどのように作られる?

より長く高性能なCNTを作りたい

 CNTの機能を高めるために重要な要素が、チューブの長さです。CNT1本の長さを長くすることでCNT同士の接触抵抗の影響が小さくなり、熱伝導性や導電性が高くなります。現在市販されている単層CNTは数百µmから数mm程度のものが多く、CNTを生産する企業は、より長いCNTの開発を目指しています。

 産総研では長年さまざまな単層CNTの生産方法を開発し企業と共同で実用化してきました。2004年に開発したスーパーグロース法は、金属触媒を塗布した基板上に単層CNTを成長させる方法です。この方法では、約10分で2.5 mmほどの単層CNTを成長させることができ、従来の方法に比べて約1,000倍の成長・触媒効率を達成しています。

 また、化学気相成長(CVD)法の一種であるeDIPS法は、2種類以上の炭素源の供給をうまく制御し、流動する気相中で基板を用いずに単層CNTを成長させる方法です。空中で成長するので、長めで真っすぐな高品質の単層CNTを作れるというのがメリットです。

 しかし、現行の手法でさらにCNTを長くしようとすると、品質が落ちたり、製造コストが増えたりすることが課題です。宇宙エレベーターの実現や、CNTがもっと普及するにはこれらの課題を克服し、用途に応じて最適な長さのCNTをより安価に選べる環境が必要になるでしょう。

リチウムイオン電池の導電助剤として普及

 CNTの用途としてもっとも市場規模が大きいのがLiBの導電性を高める電極用の導電助剤です。LiBは、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することにより電子を移動させ、正極側と負極側に電位差を作ることで充電・放電を行います。導電助剤はこの電子の移動を助ける材料です。LiBの正極に導電助剤を分散させることで、電子の移動がスムーズになり、電気抵抗が低減します。

図
LiB正極の構造と導電助剤としてのCNT

 現在、EV用や携帯端末用電池の性能を向上させるための導電助剤として、CNTの分散液が用いられています。今後、EVの普及が進むのにあわせて、LiBの需要も、導電助剤としてのCNTの需要も高まることが予測されています。

 EV化が進む中国では、LiBの導電助剤として一般的に用いられるカーボンブラックに比べて、導電性の高い多層CNTをLiB導電助剤に使う割合が増加しており、CNT製造に参入する企業も増えています。日本でも、インクや筆記用具のメーカーがそれらの開発で培った技術でCNT分散液を開発するなど、業界内では大きな話題となっています。

 現在の多層CNTの世界市場規模は年間5000トン以上と言われており、2025年には市場規模がさらに成長し、1万トンを超えると予測されています。

図
CNT分散液

 単層CNTの製造方法が改良され、価格が大きく下がることが普及に向けて目指すべき方向です。まずは宇宙産業や医療業界など、高性能なものが求められ、高価格であることがある程度許容される用途において普及させていき、LiBの要求性能が向上し、導電助剤にもさらにコストがかけられるようになれば、多層CNTから単層CNTへの置き換えが進むと見ています。

CNTビジネスの課題と産総研の取り組み

 産総研は、CNTについての研究を長年にわたって行い、基礎から実用化に必要な製造技術から、安全に利用するために必要な評価技術などまで一貫して取り組んできました。

 前述のスーパーグロース法を応用した研究開発から企業との共同研究を経て、2015年には、日本ゼオン株式会社がCNT量産工場を竣工し、2018年にはこのスーパーグロース法で生産した単層CNTを使ったゴム製Oリングをサンアロー株式会社が商品化しています。CNTとフッ素ゴムを複合化することで高導電、高耐久、高強度を実現しており、強靭で安全なのが特長です。その後も高導電性なのに丈夫で柔らかいシリコーンゴムとの複合材や、耐熱性や耐衝撃性が高く、帯電防止特性の均一性が高い樹脂複合材などの開発を続けています。

 業界全体としては、他にも、医療分野におけるウエアラブルデバイスや防さび塗料、スポーツ用品などCNTを用いた応用製品は続々と開発され実用化されており、今後はRFIDタグや不揮発性メモリといった電子デバイスなどへの応用展開が期待されています。

 今後、さまざまな用途でCNTが利用されるようになると、生産性向上に向けた量産技術の開発だけではなく、CNTの分散評価技術の向上が重要になります。CNTは導電助剤や複合材料が主な用途になりますが、機能を高めるためにはそうした溶液や基材に対して、CNTがどのように分散して配合されているかを評価し、分散状態を改善することが、性能を向上させるポイントになります。

 産総研には長年のCNT関連研究の蓄積があり、合成や量産化技術に関する研究だけでなく、さまざまな評価方法や安全にナノ材料を使う方法についても多彩な知見や技術があります。ナノカーボンデバイス研究センターにあつまる多様な研究チームが関連企業と連携しながら、CNTのさらなる普及に向けて研究開発を進めていきます。

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