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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

セルロースナノファイバー(CNF)とは?

2022/07/06

#話題の〇〇を解説

セルロースナノファイバー(CNF)

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

セルロースナノファイバー(CNF)とは?

人類の生活を豊かにするために、機能性の高い材料の探索や開発は永遠につづく研究テーマです。最近では地球温暖化抑制のために、「脱炭素」も高機能材料開発のポイントとなっています。セルロースナノファイバーは、セルロースを主成分とする植物繊維を、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまでほぐして微細化した素材です。環境にやさしい天然物ながら、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持つ、熱で膨張しにくい、吸水性が高いなど、さまざまな特徴があります。また植物を原料としているため、再生型資源として気軽に身近なものから手にいれることができます。

セルロースナノファイバーには、主に軽量で強度が高いという特徴を生かして、炭素繊維などに代わる樹脂の高性能補強材といった用途が期待されています。しかし樹脂補強材としては製造コストが高いのが最大の課題です。セルロースナノファイバー強化樹脂の、構造材としての実用化を目指した研究開発が進む一方で、機能の多様さを生かした自動車タイヤ、ボールペン、シャンプー、化粧品といった衛生用品や日用品への利用、天然素材であることを生かした食品分野での応用がすでに進んでいます。今後、そうした分野だけでなく透明性を生かした電子材料分野なども応用分野のひとつとして期待されています。セルロースナノファイバーの未来について、機能化学研究部門セルロース材料グループの遠藤貴士研究グループ長に聞きました。

Contents

セルロースナノファイバーの現状

構造材・補強材としての期待と課題

 セルロースナノファイバー(以下、CNF)は、木材や草などどこにでもある植物の主要成分であるセルロースが原料です。植物を形作る植物細胞は、動物細胞とは異なりセルロースを主成分とする細胞壁で囲まれているのは多くの方がすでに知っていることです。植物や木材を原料として、セルロース繊維を機械的に破砕・せん断処理することでナノスケールまで微細化したものがナノセルロースで、繊維状のCNFと結晶状のナノクリスタル(CNC)があります。CNFはプラスチックの補強材など、構造材として期待されています。

 砂漠や雪と氷で覆われた極地を除いて、地球の陸上にはどこにでも木や草などが茂っています。CNFの原料はどこにでも存在しているのがメリット。しかもCO2を固定化しているため環境にやさしい天然資源であり、脱炭素という現代社会のニーズにも合致する、石油系原料を使用しない植物由来の資源です。

 CNFは物性面では鋼鉄の5倍の強度を持ち、しかも重さは鋼鉄の5分の1と軽量。さらに高弾性、低熱膨張、高い透明性、吸水性が高く粘度を保ちやすいといった特徴も備えています。そうした物性を生かして、構造材料や補強材料のほかにも透明性を生かしたディスプレイをはじめとする光学材料、メモリー素子はじめ各種の電子材料、太陽電池、包装材料、吸水性を生かした増粘剤など幅広い用途が期待されてきました。

セルロースナノファイバーの高分解能走査型電子顕微鏡写真
セルロースナノファイバーの高分解能走査型電子顕微鏡写真

高コストをクリアして構造材としての普及はこれから

 CNFが構造材として注目されながら普及が進まない理由として、大量の水に分散させてナノスケールまで繰り返して細かく繊維をほぐすための機械処理が必要であり、そのためのコストの高さが挙げられます。

 自動車や航空機のボディなどの骨組みとなる構造材にとって、強度と軽さは燃費改善、航続距離の延長に不可欠な要素です。その点、CNFで強化したプラスチック材料はうってつけと言えますが、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)など、繊維で強化するCNFの類似材料は、すでに自動車のボディ材料などに使用され、実用化されているものが多いのが実情です。あえてコストが高いCNFを使わなくても他の素材を使えば同様の性能は実現できているのです。

 とはいえ、CNFのもうひとつの強みとして100%天然素材という点は見逃せません。自動車部品ではほとんどのタイヤが、天然ゴムを主材に合成ゴムを配合していますが、CNFを補強材に採用した製品も登場しました。今後、合成ゴムを使わず100%天然ゴムを原料にし、補強材にCNFを用いれば100%天然素材のタイヤも夢ではありません。自動車産業のテーマは「脱炭素・脱石油」。CNFは植物由来の材料であることから、CNFの持つ多くの特徴を生かして、これからも構造材をはじめとして応用分野の開発が進むでしょう。

セルロースナノファイバーを主な材料にした自動車部品等の試作・開発の写真
セルロースナノファイバーを主な材料にした自動車部品等の試作・開発が進む

日用品や食品で実用化が進む

 競合の多い構造材分野で高コストがネックとなっているのに対して、より身近には、CNFの保水性の高さや天然素材という特徴を生かし、シャンプーやコンディショナー、化粧品などの増粘剤や機能性物質の分散剤としても実用化されています。柑橘類が特産品の愛媛県では、従来はジュースなどの製造後に廃棄していた柑橘類の皮を材料の一部に使い、保湿性に富んだ化粧品などに応用した製品も実現しています。

 さらに食品添加剤としての用途の開発も進んできました。セルロースは基本的にブドウ糖が結合してできているので、人が摂取しても安全です。これまでにもCNFを添加して食感を変化させたお菓子などが商品化されているほか、ジュースなど飲料に配合した高機能食品・飲料も開発されています。温暖化対策の観点から世界的に注目が高まっている、大豆たんぱくを使った人工肉にも、CNFを添加することでさらに本物の肉のような食感をもたせることが期待されています。

さまざまな素材からつくられるセルロースナノファイバー
さまざまな素材からつくられるセルロースナノファイバー

これから期待される用途は

 SDGsが求められる現代社会では、CNFは天然素材というアピールポイントを生かした用途開拓が進んでいます。植物ならば木や草でも基本的に同じようにCNFの原料として使用できます。間伐材や食用や飼料用の植物の刈り取った後の茎など未利用のバイオマス資源を原料とすることも可能です。石油系の資源をつかわずに、今まで利用されてこなかった植物、すなわちバイオマスを資源に使えるCNFは、廃棄物削減や地球温暖化防止という現代のニーズにマッチする素材だと言えます。天然素材であることで人体に触れる用途にも安心して使えるなど、応用分野はこれからも広がっていくことでしょう。

 日本でも自然志向・健康志向の社会ニーズがさらに強まれば、天然素材という点がより注目され日用品や食品、雑貨の開発・実用化が進むだけでなく、CNFの製造法の改良が進み低コスト化が実現されるでしょう。製造コストが下がることで、CNFの機械的強度の高さを生かした自動車や航空機などの構造材や建材分野などより機能性を重視する分野での応用が進むことが期待されています。

産総研のナノセルロースへの取り組み

セルロースナノファイバー(CNF)の普及に向けて

 CNFは多くの機能を持つことから、強化プラスチック用や、人体にも安全な天然素材として製品化が進められたりするなど、幅広い可能性を秘めています。従来は強度や軽量性といった機能が注目されていましたが、むしろ今ではその他の機能を生かしたさまざまな用途に期待が集まっています。突き抜けた強度を追求するだけでなく、より市場の求める機能向上に役立つ素材としての研究開発が注目されるでしょう。

 それだけにCNFの持つ価値を正しく評価して、その機能を存分に生かした用途を見いだす必要があります。原料の100%をナノスケールに微細化しなくても、1割から3割程度をナノ化した材料を用いることで機能が最も向上するケースがあることがわかっています。素材全体が完全なCNFでなくても、求める機能が十分に発揮できるように調製することはコスト削減にもつながります。

材料探索から実用化まで一貫して取り組む

 CNFは構造材料や高強度材料だけでなく透明材料や光学材料、食品や化粧品など幅広い産業分野で注目される素材です。業界・業種を問わず、さまざまな企業からの問い合わせも増えており、これからも応用分野は広がっていくでしょう。

 産総研ではCNFについて、材料の探索から製造方法の検討、用途開発から実用化まで一貫して研究開発に取り組み、情報発信や豊富なデータの提供も行っています。次なる応用分野を切り開くべく、実用化を狙う幅広い産業分野で企業との共同研究も積極的に取り組んで行きます。

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