産総研マガジンは、企業、大学、研究機関などの皆さまと産総研をつなぎ、 時代を切り拓く先端情報を紹介するコミュニケーション・マガジンです。

話題の〇〇を解説

メタバースとは?

2022/04/06

#話題の〇〇を解説

メタバース

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #少子高齢化対策
30秒で解説すると・・・

メタバースとは?

メタバースとは、ギリシャ語で「超越した」という意味のメタ(Meta)に、世界を意味する「バース(verse)」をつなげて作られた言葉です。インターネット上の仮想空間に作られた世界で、ユーザーは好みの姿をした「アバター」を自由に動かし、他者とコミュニケーションを取ることができるサービスです。急にはやりだしたようにも感じられますが、概念としては1990年代には存在していました。

2021年後半、フェイスブックが「Meta」に社名変更すると発表したのを機に、日本でもメディアをにぎわせたワードが「メタバース」でした。情報番組などでは、既にゲームの映像として見たことがあるようなCG映像が紹介されています。しかし、「5G回線が普及することで、いろいろ便利になることのひとつらしいが、果たしてどういうこと?いままでと何が違うの?」と疑問に思う人が多いと思いました。そこで、最先端の研究をしている人間拡張研究センター持丸正明 研究センター長に「これまでのバーチャル空間とメタバースは何が違っているのか」を聞きました。

Contents

産総研が語るメタバース(仮想世界)と実社会の共存

産総研が考えるメタバースとは?その可能性を語る

 バーチャルの世界でコミュニケーションを取ることは、既にみなさん日常的に行っていますよね。電子メール、チャット、SNSでのやりとりやオンライン会議など、改めて数えるとたくさんあることに気が付きます。パソコンや専用機でオンラインゲームをされるかたであれば、仮想世界のアバター同士でおしゃべりをしたり、チームを作って怪物を倒したりすることも日常の一部になっているかもしれません。

 これまでも便利に使ってきた各種ツールやサービスとメタバースでは何が違うのでしょうか?私たちは次のように既存サービスとの線引きを行っています。

  • 現実世界によく似た形を持つデジタル空間の中に、時間の概念がある
  • ユーザーが「これは自分の身体だ」と認識できる程度に、操作がタイムリーにアバターへ反映される
  • 「会社員のわたし」「親としてのわたし」「趣味の仲間と会う時のわたし」など、その時々にフィットした姿かたちを選択できる

 社会的に見て、既存のバーチャル空間サービスが「遊園地(価値消費の場)」なのに対し、メタバースは「会議室(価値創造の場)」にもなれることが最大の違いです。

 メタバースと言うと、刺激的な映像演出に気を取られがちですが、仮想空間で生み出された「価値」を現実世界に持ち帰ることができることが、これまでのバーチャル空間からの重要な進化なのです。

メタバースのイメージ(左:パラリアル秋葉原 右:パラリアル渋谷 提供;HIKKY)
 

実装に向けた課題

 もちろん、現段階でメタバースには課題がたくさんあります。 メタバースは、あくまでバーチャルの世界でのコンタクトやコミュニケーションの技術です。実際のフィジカル(物理的な肉体)なコンタクト(接触)を伴うあらゆる事柄は、今後の課題と位置付けています。

 フィジカルなサービス、例えばマッサージのように直接肉体に触れて働きかけることに価値があるものは難しい。同じく、「一緒に食べる」こともハードルがあります。

 コロナ禍で「オンライン飲み会」が盛んに行われた時期がありました。画面に向かっておしゃべりを楽しむ、同じメニューを用意するところまではできました。しかし、「これおいしいから一口あげる」はできません。インターネット経由で味や香りを伝送する技術も研究開発が進んでいますが、「同じお皿から分け合う」には遠く及ばないのが現状です。

 また、「時差」もすぐには無くなりません。ある人にとっては昼間でも、他の人にとっては深夜の可能性もこれまで通りです。メタバースでは丸い地球上と同じ時間が流れているので、生物としての人間は実世界の太陽の影響は否めません。

 もう一つ、これは現実社会の課題ですが、会議がメタバースでできてしまうのなら、フィジカルなオフィスに皆で出勤する必要性はどこにあるのかが問われるでしょう。

メタバースが切り開く未来の可能性

 メタバースはフィジカルな世界での地理的条件を帳消しにします。これまで肉体の移動に費やされた資源や労力を限りなくゼロにすることが可能です。その上で、新しい価値を生産する場としてうまく活用できれば、メタバースが社会にとって有益なものとなるでしょう。

 現在普及しているテレワークでも、それぞれの人の肉体は集合せずに業務を遂行しています。しかしオンライン会議では、画面上に参加者の顔は表示されていても、「同じテーブルについている」という実感は得られません。メタバースでは仮想空間上の会議室に参加者のアバターたちが集合します。そこには椅子やテーブルといった会議室には当たり前にあったものが用意され「席につく」ことができます。座席が決まると、隣の人や向かいの席の人といった「配置」も再現され、誰が、どちらの方を見ているかまでリアルに再現されます。そうなると、会議への没入感や集中力が増し、共感や一体感が得られて、より創造的で生産性の高い会議室になる可能性があります。

 オフィス空間そのものをメタバースの中に構築し、そこへアバターで出社するように取り組みを行っている企業も出てきました。アバターに「自分のデスク」があり、自由に仮想オフィス出勤中の同僚と立ち話ができる。オフィスの中でアバターがすれ違う時にあいさつを交わすこともできる。これは拡張テレワークと呼んでいます。

 教育分野もメタバースが真価を発揮できる分野だと考えています。すべてをバーチャルで済ませるということではありません。小学校からパソコンやタブレットを活用した授業が推進される時代ですから、教科や単元に合わせて、メタバースが有効な部分へは積極的に取り入れられるべきだと思います。利用者の裾野が広がることはそのままさらなるメタバースの発展につながります。

 物理的に会えないことが価値になる場面もあります。遠隔診療技術の向上は二次感染のリスクを減らすことができます。技術、法律の共にハードルがありますが、バーチャルに適した部分から導入が進んでいくでしょう。

 観光もメタバースと相性がよい産業コンテンツの一つです。行き先は辺境の地や宇宙など、これまでは観光地として訪れることができなかった場所も安全に体験できるようになります。従来型の観光業にプラスして、メタバースの世界での観光業が新しい産業になるでしょう。高性能なカメラやマイクを搭載したドローンで撮影した映像や音声をメタバースで再現すれば、肉体を危険にさらすことなく、スリリングな体験を楽しむことができるのですから。

産総研がいま研究する、メタバースの実用化

リアルなサービスのOJTを仮想空間で

 サービス業と言っても、コンタクトの観点で分けると、複数のグループになります。

 例えば介護や看護、マッサージのように直接肉体に触れる必要性が高い分野は、現時点で対象ではありませんが、接客業、特に窓口案内業務やレストランのサービスで、OJT(職場内訓練)にメタバースを取り入れる試みがなされています。

 メタバース内のアバターは、その人がどこを見ているか、視線が判別できるほど作り込まれます。人間そっくりのアバターに対して、言葉遣いやアイコンタクトなど、身体に触れずに行うサービスのトレーニングに活用できます。ロールプレイによるトレーニングです。お客さん役のアバターが担当する場合は、あらゆるタイプのシチュエーションを用意し、より実践的なトレーニングを実施も可能となります。

レストランサービスのトレーニング用ロールプレイングシステム
 

仮想リハビリが理学療法の世界を変える

 フィジカルなコンタクトが苦手とはいえ、全くできないわけではありません。実現はこれからですが、理学療法のような「一時的に専門家の手を借りる必要性」を満たすための技術も研究されています。

 例えばこうです。

 あなたは右足の膝を痛め、理学療法士の元でリハビリを受けることになりました。 あなたが通うのは、最寄りのリハビリ施設(仮想空間)です。画面越しに理学療法士が見えています。指示に従って脚にセンサーをつけると、その情報が理学療法士の元にある人型のロボットに伝わります。理学療法士はロボットの脚をデバイスとして、あなたのリハビリを指導します。遠隔に居る理学療法士がロボットの脚を動かした手応えが、振動や温熱としてあなたの脚に伝えられ、理学療法士が寄り添って身体を支えてくれることを感じながらリハビリができます。

 現在でも日本全国さまざまな病院や移動検診車で撮影されたレントゲン画像のデータが、専門の読映センターへ送られ、専門医が異常をチェックするシステムがありますが、これの肉体版です

 今回は例として理学療法士をあげていますが、専門性があり、高い需要が見込まれる分野には多少高価でも必要な機材が配置され、システムが導入されてしかるべきです。

 これまでは時間と距離が壁となっていった山間部や離島でも、外出が困難な人のリハビリテーションを行うことができ、それによりQOLの向上に貢献することを目指しています。
 

この記事へのリアクション

  •  

  •  

  •  

この記事をシェア

  • Xでシェア
  • facebookでシェア
  • LINEでシェア

掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果など にご興味をお持ちの方へ

産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、下記の連絡先へお気軽にご連絡ください。

産総研マガジン総合問い合わせ窓口

メール:M-aist_magazine-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信してください)

※すべてのメッセージには返信できない場合があります。ご了承ください。

国立研究開発法人産業技術総合研究所

Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
(Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.