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タンパク質、アミノ酸を 高精度に測定する

2018/11/30

タンパク質、アミノ酸を高精度に測定する医療、食品業界に新たな“標準”をもたらす

加藤グループ長の写真
    KeyPoint臨床検査の対象物を正確に測定するには、生体関連物質の高精度な計測技術が必要だ。産総研ではタンパク質の分析を高精度に行うため、新たなアミノ酸分析法(IDMS-AAA法)開発。アミノ酸分析法の基準物質である、17種類のアミノ酸の認証標準物質も整備した。
    Contents

    より高精度な新しいアミノ酸分析法を開発

     医療機関での臨床検査には、コレステロールや尿酸、血糖値など、さまざまな測定項目があり、私たちはその値に一喜一憂する。しかし、その測定値が病院ごとに異なっているとは、誰も思ってもいないだろう。

     「現状では、同じ対象を検査したとしても、必ずしも測定結果が同じになるとは限りません。そこで私たちバイオメディカル標準研究グループでは、いつ、どこで、誰がはかっても同じ結果になるように、各測定項目の標準物質や評価法を整備しています」

     臨床検査の測定項目を評価するためには、核酸や代謝物、タンパク質などの生体関連物質に対応した高精度な分析法が必要となる。中でも加藤が注力してきたのはタンパク質関連の分析法だ。これまでタンパク質の濃度や純度の測定には、光が試料溶液を通るときに吸収される割合から分析する方法が用いられてきたが、この方法では、取り扱うタンパク質の種類によって結果が左右されるという問題があった。

     「タンパク質を正確に定量するには、タンパク質をその構成単位であるアミノ酸まで分解して、化学量を正確に求める必要があります。そこで処理のプロセスを見直し、まずタンパク質の加水分解が精度よく行えるようにしたのです。それで得られたアミノ酸を定量すれば、高精度な評価が可能だと考えました」

     そうして加藤が新たに開発した分析法が、同位体希釈質量分析法を利用したアミノ酸分析法(IDMS-AAA法)だ。これにより、加水分解などの分析操作における影響を最小限に抑えた、高精度なアミノ酸分析が可能になった。このIDMS-AAA法は、これまで開発・供給を行ってきたいくつかのタンパク質・ペプチド認証標準物質の基盤技術になっている。

    17種類のアミノ酸認証標準物質を開発

     「IDMS-AAA法はもともと、タンパク質を高精度に定量したいという自分たちのニーズから開発したものです。その一方で健康志向の高まりによってアミノ酸そのものが注目され、利用されるケースが増え、アミノ酸自体の濃度をはかりたいというニーズが高いことに気づきました」

     加藤らはIDMS-AAA法の開発と同時に、アミノ酸分析の校正に用いるためのより信頼性の高い認証標準物質の開発も行った。その結果、2012年から5年間で、17種類のアミノ酸認証標準物質を開発し、供給を開始することができた。これらの標準物質は、食品、飲料、医薬品メーカー等で、アミノ酸の高精度測定に用いられている。

     アミノ酸単体の標準物質で、ここまでのラインナップを実現しているのは世界でも産総研だけだ。いずれも溶液ではなく固体(粉末)で供給しているが、これは水溶液よりもアミノ酸の安定性が高く確かな純度値を保証できることや安定供給が可能なこと、また、評価する対象の濃度に応じてユーザーが自由に濃度を設定できるようにして利便性を高めるためだという。輸送が容易なことももちろんだ。

     しかし、いくら使いやすいといっても、水溶液を正確に調製するのはハードルが高いと感じるユーザーもいる。これらの標準溶液の製造・販売についてはすでに試薬メーカーに技術移転中だが、今後、産総研では、水溶液の調製ノウハウをユーザーに広く伝えていく予定だ。さらに、実サンプル標準など、現場における実サンプルの分析により役立つツールの提供についても可能性を検討していく。

     「現在はアミノ酸の化学量は定量できても、分析の過程でタンパク質の配列情報が失われるため、直接的にタンパク質の種類そのものを見分けることはできません。将来的には配列情報を保ったまま定量する方法を確立し、タンパク質の種類の保証までできるようにしたいですね」

     さらなる構想もある。酵素の活性はタンパク質の修飾や立体構造の違いによって変化するが、加藤は、試料中酵素の活性を、タンパク質の修飾や立体構造をもとに見分ける手法を見出したいという。これができれば臨床検査の測定項目の信頼性がさらに上がり、医療の世界に大きく貢献できるだろう。

     「実現するのは数十年先かもしれませんが、そのための基礎づくりをしておきたいと思っています」と将来に目を向ける。

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    IDMS-AAA法に用いた高速液体クロマトグラフ-質量分析装置

    計量標準総合センター
    物質計測標準研究部門
    バイオメディカル標準研究グループ
    研究グループ長

    加藤 愛

    Kato Megumi

    加藤 愛グループ長の写真

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