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三端子型磁気メモリ(SOT-MRAM)に向けた新規スピン変換材料の開発

三端子型磁気メモリ(SOT-MRAM)に向けた新規スピン変換材料の開発

2026/03/27

三端子型磁気メモリ(SOT-MRAM)に向けた新規スピン変換材料の開発

研究者の写真
    KeyPoint 次世代メモリの常識を変える“無磁場書き込み”――この革新的技術において書き込み性能を飛躍的に向上させます。ハイブリッド機能集積研究部門 日比野有岐主任研究員らの研究チームは、スマートフォンやデータセンターの省電力化に直結するスピントロニクス技術で、外部磁場なしに垂直磁化を反転させる新しいメカニズムを解明。界面設計によりスピン変換効率を従来比3倍に高め、SOT-MRAMの高密度化に道を切り開きました。

    研究の背景:次世代メモリに求められる省電力化

     スマートフォンや自動車、データセンターなど、現代の情報機器は膨大な電力を消費しています。その中でも、メモリ素子の省電力化は最重要課題の一つです。従来の揮発性メモリ(Static Random Access Memory, SRAM)は高速ですが、待機時にも電力を消費します。一方、不揮発性メモリは電源を切っても情報を保持できるため、低消費電力化に直結します。

     近年注目されるのが、電流で磁化を制御するスピントロニクス技術です。特に、スピン軌道トルク(Spin Orbit Torque, SOT)を利用した不揮発性磁気メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory, MRAM)は、高速・高耐久・低消費電力を兼ね備えた次世代メモリとして期待されています。しかし、従来のSOT-MRAMは「外部磁場がないと書き込みができない」という構造的制約があり、実用化の大きな障壁となっていました。

     この課題の背景には、スピン軌道相互作用による電荷からスピンへの変換があります。非磁性金属やトポロジカル絶縁体を用いた従来技術では、生成されるスピン流の向きが垂直磁化に対して直交するため、決定論的な反転ができませんでした。従来は面内磁場を補助的に加えることで対称性を破っていましたが、磁場を必要としない高効率な反転の実現が強く望まれています。

    得られた成果:外部磁場を必要としない書き込み

     ハイブリッド機能集積研究部門 日比野有岐主任研究員らの研究チームが挑んだのは、次世代メモリの性能を大きく変える「無磁場書き込み」の実現です。従来の技術では、垂直磁化を反転させるために外部磁場が必要でしたが、これはメモリの大型化やコスト増につながり、実用化の障壁となっていました。

     研究チームは、強磁性体という素材に注目しました。この材料では、電流を流すとスピン流という“磁化を動かす力”が生まれます。特に磁化の向きに応じて変わるスピン流(σ_MD)は、垂直磁化を反転させる鍵になります。しかし、このスピン流を効率よく生み出す方法は分かっていませんでした。

     そこで、Co/Ni多層膜という構造を使い、界面の設計を工夫することでスピン流の生成効率を最大3倍に高めることに成功しました。さらに、界面と材料内部の両方が効率に影響することを初めて実験で示しました。その結果、従来の非磁性材料よりも1桁以上高い性能を達成し、外部磁場なしで垂直磁化を切り替える「フィールドフリー書き込み」が可能になったのです。

     この成果は、学術的にも産業的にも大きな意義を持ちます。次世代メモリの低消費電力化に直結する技術であり、スマートフォンや車載機器の省エネ化、データセンターの電力削減といった社会的価値にもつながります。

    今後の展望:不揮発性キャッシュメモリへの応用

     この技術は、不揮発性キャッシュメモリへの応用が期待されます。これにより、データセンターやモバイル端末の消費電力を大幅に削減し、車載メモリの高性能化・グリーン化にも貢献します。今後は、さらなる効率向上に向けて界面設計の高度化や新規磁性材料の探索を進め、デバイスレベルでの試作・評価を加速します。

     スピントロニクスは、情報処理の省電力化と高性能化を同時に実現する次世代メモリを開発するための有力候補となる技術です。今回の成果は、その未来を切り開く重要な一歩であり、産総研は引き続き、材料科学とデバイス技術の両面から次世代メモリの実用化を加速します。


    Yuki Hibino, Tomohiro Taniguchi, Kay Yakushiji, Akio Fukushima, Hitoshi Kubota & Shinji Yuasa, Giant charge-to-spin conversion in ferromagnet via spin-orbit coupling, Nature Communications volume 12, Article number: 6254 (2021)
    https://doi.org/10.1038/s41467-021-26445-y
    産総研:磁性材料におけるスピン変換の機構を解明

    ハイブリッド機能集積研究部門
    新世代高集積メモリデバイス研究グループ
    主任研究員

    日比野 有岐

    HIBINO Yuki

    日比野 有岐主任研究員の写真
    産総研
    エレクトロニクス・製造領域
    ハイブリッド機能集積研究部門
    • 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 つくばセンター 中央事業所2群
    • M-info-Hybrid-ml*aist.go.jp
      (*を@に変更して送信してください)
    • https://unit.aist.go.jp/hyfi-ri/

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