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#産総研特別公開2025 講演会 「語り合おうぜ、[研究]愛。」

2025/10/29

COLUMN

#産総研特別公開2025 講演会 「語り合おうぜ、[研究]愛。」

2025.9.23(火・祝)13:00-14:00 @産総研つくばセンター共用講堂

    PROFILE
    ●SPECIALGUEST
    ヨビノリたくみ/YouTuber、予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」主宰
    ●産総研 
    生長幸之助/触媒化学研究部門 環境・生体調和化学研究グループ 研究グループ長
    古藤日子/細胞分子工学研究部門 多細胞システム制御研究グループ 研究グループ長
    秋田一平/先端半導体研究センター 集積回路設計研究チーム 主任研究員

     

    科学の最前線を走る研究者は、どんな日常を送り、どんな思いで研究を続けているのでしょうか。2025年9月23日に行われた産総研・特別講演会「語り合おうぜ、[研究]愛。」では、YouTubeチャンネル「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」で人気を集めるヨビノリたくみさんを進行役に迎え、3人の研究者がざっくばらんに語り合いました。各者の最先端かつマニアックな研究内容はもちろんのこと、研究に没頭するきっかけや研究のターニングポイント、ちょっとオカシな研究者の日常生活など、ユニークなエピソードが次々に飛び出し、笑いと発見に満ちた時間となりました。

    講演会の写真

     登壇した研究者は、生物学の視点から「アリの社会性と健康」を研究する古藤日子さん、化学と薬学の橋渡しを担う生長幸之助さん、そして集積回路(IC)チップの設計を専門とする秋田一平さん。いずれも専門分野は異なりますが、「なぜその道を選んだのか」「研究に魅了される瞬間はいつか」といった問いに対して、それぞれの言葉で語り合う姿は、研究の多様な魅力を浮かび上がらせました。なお、本講演に集まった多数の大学生や大学院生にとっては、“研究者としての生き方・生きざま”について考える機会にもなったようです。

     講演のなかで古藤さんは、「アリの社会は、人間社会に驚くほど似ている」ということを教えてくれました。アリの行動や他のアリとの交流頻度をQRコードで個体識別して調べる実験や、「1匹で暮らすと弱ってしまう」という研究成果は、人間社会における“人と人とのつながりの大切さ”を考えさせられるものです。また、生き物への愛着が研究の原点かと思いきや、「アリ以外の虫は苦手」と笑いながら語る場面も。むしろ「社会の仕組みを知りたい」という探究心が、古藤さんを研究に駆り立てていることが伝わってきます。

     生長さんは、「新しい分子をつくり、未来に役立てる」研究を専門にしています。薬の候補物質を合成し、人々の健康にどう貢献できるかを考え続ける日々は、地道で試行錯誤の連続であることを教えてくれました。数十回の失敗を経て、ようやく成果にたどり着くこともめずらしくありませんが、それでも「自分がつくったものが未来を変えるかもしれない」という希望が、研究への情熱を支えているとアツく語りました。趣味の登山では“スマホの電波が届かない世界”に身を置き、研究から距離をとる時間を大切にしているという一面も話してくれました。

     そして秋田さんが手がけるのは、「集積回路(IC)チップの“設計”」です。世間では、新素材や製造技術に注目が集まりがちですが、実際には「既存の部品をどう組み合わせ、性能を最大化するか」がカギになるといいます。「ひらめきが勝負」と語るその姿は、まるで知的なパズルに挑むかのよう。寝る直前にアイデアが浮かび、眠れなくなったというエピソードには会場で笑いが起こりました。そうした最新技術を扱いながらも、「スマホは数年買い替えていない」というエピソードに、ヨビノリたくみさんも「“研究者あるある”ですね」と、会場の共感を誘っていました。

     3人に共通していたのは、「研究対象への過度な執着ではなく、一歩引いた視点を大切にしている」という点です。アリを“かわいい”と思うよりも社会性のモデルとして捉えること、分子の美しさに没頭しすぎず薬としての実用性を意識すること、回路設計に没頭しながらも「美しい回路かどうか」より「役立つかどうか」を優先することなど──研究対象・内容と距離を保ちながら見つめ続けるからこそ、新たな発見や応用につながるという各研究者の言葉は、多くの人に響いたようです。また、[研究]愛を感じる瞬間を語ったシーンも必見です。誰も知らない現象を初めて見つけた時、未来を変える可能性を感じた時、仲間との対話で道がひらけた時──研究者たちが心から嬉しそうに語る姿は、“研究の魅力”をこれ以上ないほど伝えてくれます。

     さらに会場から寄せられた「研究者の健康管理や趣味」に関する質問では、それぞれの人柄がにじみ出ました。[登山]愛や[クラフトビール]愛など、意外と身近な趣味を通して心身を整えている様子は、研究者を身近に感じさせてくれます。科学の最先端で活躍する研究者も、日常では私たちと同じように悩み、楽しみ、工夫を重ねているのだと実感できるひとときでした。

    講演会の写真

     科学分野を専門に学ぶ学生はもちろん、「研究者ってどんな仕事をしているの?」と気になっている方、進路に悩む生徒・学生にとっても、きっと刺激的な時間になるはず。講演会に参加できなかった方は、ぜひアーカイブ動画をご覧ください。ヨビノリたくみさんの“巧みなファシリテーション”で引き出される研究現場に流れる熱気とユーモアが、本動画でたっぷり味わえます。

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