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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

遠隔医療とは?

2023/11/08

#話題の〇〇を解説

遠隔医療

とは?

―技術を生かして持続可能な医療を実現―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #少子高齢化対策
30秒で解説すると・・・

遠隔医療とは?

遠隔医療とは、遠く離れた拠点と拠点をオンラインでつないで医療を実現することです。「患者が医師の診察を受ける」といった医療従事者と患者の間のコミュニケーションと、「看護師が医師の指示を受ける」「若手の医師が経験豊富な医師のアドバイスや指導を受ける」といった医療従事者間のコミュニケーションの形があります。 いずれも、時間と空間の制約を越えて、優れた医療を持続的に広く提供するために行われ、画像撮影技術や通信技術を中心にセンシングやロボットなどの技術が応用されています。

日本の人口減少が進むにつれ、都市に人口が集中し地方の過疎化が進み、医師や医療機関が人口分布に応じて偏在していくことが予測されています。そうした環境のもとで、医療を安定的に提供する手段の一つが遠隔医療です。より優れた、使いやすい遠隔医療をめざして関連技術の研究開発が進んでいます。遠隔医療の現状について、産総研で最先端の医療機器や診断支援システムの研究開発に携わる健康医工学研究部門医療機器研究グループの葭仲潔(よしなかきよし)研究グループ長が解説します。

Contents

将来の人口や社会の状況に対応する遠隔医療

 遠隔医療が求められる理由のひとつが少子高齢化です。2040年には100歳以上の高齢者が30万人を越え 、65歳以上の世帯の4割が単独世帯になると予想されています。さらに都市部に人口が集中し、地方からは医療機関が撤退するといった問題が起こり得ます。一方、医療や介護を担う人材は一朝一夕に増やすことはできません。そうした状況の中で、医療を継続して安定的に提供する手段の一つとして遠隔医療が期待されています。

 遠隔医療には、医師と患者をつなぐ場合(Doctor to Patient、DtoP)や、医師と患者さんや高齢者のそばにいる看護士や介護士をつなぐ場合(Doctor to Patient with Nurse)があります。それだけでなく、医師と医師をつなぐこと(Doctor to Doctor、DtoD)も遠隔医療の一つの形です。

 遠隔医療の内容は多岐に渡ります。医師と患者をつなぐDtoPの場合は、患者自らが遠方にいる医師の診察や治療を受けるオンライン診療だけでなく、患者さんや高齢者の施設にいる看護師や介護士が遠方の医師の指示やアドバイスを受けて、可能な範囲の検査や処置を行うことが考えられます。特に慢性期の治療では月に1回程度、医師の診察を受け薬を服用すれば済む場合も少なくないので、遠隔医療が有効です。ただ、患者が医師のいるところに足を運び、直接医師と話すことが健康に効果をもたらすこともあります。そこを勘案して利用することが大切でしょう。

 このほか、急に熱が出た人が病院に行くべきか自宅で一晩休めば済むのか、あるいは流行性疾患なのかわからず迷ったとき、遠隔で医師に診断してもらい、判断を仰ぐといった利用も考えられます。

 DtoDの例としては、遠方からベテラン医師が若手の医師の相談にのる遠隔コンサルテーション、遠方にいる医療スタッフが打ち合わせに参加する遠隔カンファレンス、臨床医が遠方にいる放射線診断医や病理医の診断を仰ぐ遠隔放射線診断や遠隔病理診断などがあげられます。DtoDには遠隔での若手の医師の教育、トレーニングなども含まれますが、これは地方の医師確保にも役立つでしょう。若手の医師が地方で就労したがらない理由の一つに、都市部には大病院が多く高いスキルを学ぶ機会により恵まれているという点がありますが、もし遠隔で同じように学べるなら、地域間の機会の差異は解消されます。

図
医師-患者間と医師―医師間の遠隔医療の種類。(「総務省遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-」より産総研にて抜粋。産総研外のWEBサイトへリンクします。)

基本となるのは情報量の多い画像と通信回線の技術

 遠隔医療に欠かせない技術としてはまず、より情報量の多い画像撮影技術と通信回線があげられます。画像は高精細である方が良く、既に8Kで撮影できる内視鏡などが登場しています。また、医師は患部だけを見るのではなく、患者の表情や歩行の様子なども見て総合的に判断するので、患部以外の情報も含めて撮影できることが望ましいと言えます。その際、プライバシーなどへの配慮も必要になると考えます。また、高精細な画像や動画など大量のデータをやりとりするためには、スムーズに通信できる回線は極めて重要です。回線の混雑時の対処も課題です。通信環境を安定させるために地域の介護施設などにローカル5G設備を設置するなど、さまざまな方法が検討されています。

 技術面以外では、診断キットなどのデリバリーの仕組みも必要です。特に医者と患者をつなぐDtoPの場合、看護師や患者が診断キットを受け取り、検体(血液、尿、唾液など)を採取、発送できる仕組みがないと、遠隔での診療を完了することができません。そのほか、遠隔医療と診療報酬や健康保険とを連動させる会計関連のシステムも用意する必要があります。

遠隔医療につながる技術の高度化、自動化、簡便化

 産総研の医療機器研究グループでは、医療機器の高度化、自動化、簡便化につながる研究を進めています。具体的には、超音波やMRIなどをつかった「非侵襲診断」や、ロボット技術や生体力学を駆使した「低侵襲治療」、さらに技術の有効性や安全性を担保しながら使いやすく提供するための「評価技術・標準化」につながる技術を中心に開発を行っています。誰もがいつでも、どこでも、どんな状況でも不安無く質の高い医療・介護にアクセスできる環境の実現を目指しています。例えば超音波撮像の「自動化」技術では、ロボットアームを使った自動スキャニングで臓器の状態をセンシングできる技術の開発を進めています。

写真
臓器のスキャニングを自動で行うシステムを開発

 さまざまな専門領域のメンバーが参加して研究を行う次世代治療・診断技術研究ラボには、細胞解析チップ、マイクロ流路PCRなどの診断迅速化につながる技術があります。また衣服に各種のセンサを取り付けたバイタル計測ウェアも開発してきました。

 高度化、自動化、簡便化とそれを駆使した遠隔医療は、医療従事者の業務分担の見直しや改革にも役立ちます。厚生労働省でも賛否両論の中で議論されているタスクシフティングの考え方によれば、従来医師が行わなければいけなかったことを看護師や他の専門職の方が出来るようになる事によって、医師の労働負担を減らすことができます。このような技術を最大限活用した働き方改革によって、医師や専門職の人がより高水準の医療の実現に集中できるようになるでしょう。

必要十分な医療をあまねく提供するために

 今後、遠隔医療のレベルを高める技術として重要なのは「半自動化」です。現在の通信を利用した医療技術でできることは、一方的にこちらの操作に従って作動する自律性のない操作に限られています。しかし、通信回線が常に接続されているとは限りません。常時通信する必要なく、シンプルな手技などを半自動化して実現することが期待されています。例えば、医師が手術後の縫合をコマンドで送ると、それを受けたロボットが自律的に動いてステープラー縫合してくれるといったことができれば、遠隔も含め医療はさらに進むでしょう。

 私たちの最終的な目的は、どこにいても必要十分な医療が受けられるようにすること。経験の浅い医師でも、高齢の医師でも、僻地の小さな医院でもできる医療の水準を引き上げ、また医師以外ができる範囲を増すために必要な、技術やシステムを生み出していくことです。これらは緊急時やパンデミックを含む災害時にも非常に有用であると考えています。産総研は、これまでもベンチャーを含む多くの企業と協力し、各地の病院とも連携して医療・健康分野の研究を進めています。これからも関連企業や病院などと連携しながら、医療の恩恵をひろく偏りなく提供できる環境作りに貢献していきます。

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