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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

AIとロボット技術を駆使した介護支援とは?

2023/07/12

#話題の〇〇を解説

AIとロボット技術を駆使した介護支援

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #少子高齢化対策
30秒で解説すると・・・

AIとロボット技術を駆使した介護支援とは?

AIとロボット技術を駆使した介護支援とは、AIやロボットやセンサの技術を活用した介護機器をもちいた介護関連サービス全体のこと、とここでは定義します。近年はネットワークでつながり、IoTロボット化した介護機器が増えており、実際の介護の現場でも多く使われるようになってきました。活用されているのは、高齢者などの歩行支援を行う機器や、介護者の負担軽減のためのパワーアシストを行う機器といったロボット技術だけではありません。介護業務に伴う情報を介護機器を利用して取得し、生活を支援したりしながら生活の状態をセンシングすることで、個人の状態にあわせた支援機器をレコメンデーションするなどの、あらたなサービスの確立が期待されています。

全国における要介護(要支援)認定者数は、2023年2月末現在で700万人近くに上るなど増加の一途をたどり、2040年に必要な介護人材は現状よりも約69万人増やす必要があると推計されています。高齢化に伴い介護保険給付費や医療費も増大しています。これらの問題解決のため、高齢者の自立支援と介護者の負担軽減を目指して、ロボット技術からAIやセンサ技術までを組み合わせた介護機器の開発が積極的に行われています。今回は、AIとロボット技術を駆使した介護サービスの開発の現状について、人間拡張研究センターの松本吉央に話を聞きました。

Contents

AIとロボット技術を駆使した介護支援技術の現在

 厚生労働省と経済産業省が策定した「ロボット技術の介護利用における重点分野」は2023年現在では、6分野13項目に重点を置いて介護ロボットの開発を支援しています。重点6分野における13種類の介護ロボットとは、移乗介助(装着型、非装着型)、移動支援(屋外、屋内、装着)、排泄支援(排泄物処理、トイレ誘導、動作支援)、見守り・コミュニケーション(施設、在宅、生活支援)、入浴支援、介護業務支援のことを指します。

 ベッドから車イス、車イスからトイレなどへの移乗や移動の支援、また入浴支援では、立ったり座ったりする動作や移動においてロボット技術を使って物理的にサポートする機器が主流となっています。

 見守り・コミュニケーションでは、センサ技術を使って高齢者の転倒や認知症の高齢者の行動を察知し、外部通信機器を通じてそれらの情報を知らせるような機器や、高齢者の認知機能向上やストレス軽減のためにロボットとコミュニケーションをとることができる機器が開発されています。

 さらに、介護業務支援では、介護者の負担を軽減するためのロボット技術だけでなく、移動支援の機器や見守りのセンサから得られるデータの活用が始まっています。日常の行動についてのデータ収集や記録の自動化はその一例です。こうして収集したデータを蓄積・解析し今後の支援の方向性を推定することも期待されています。

 障がいのある方を対象とした福祉の分野では、対象者の個人差が大きく、人それぞれの身体などの状況にあわせた技術のフィッティングが難しいため、比較的に対象者の数が多く一般化して考えやすい介護分野から商業化が進んできています。「ロボット技術の介護利用における重点分野」が策定されて以降、10年間で100社以上の企業が開発プロジェクトに参加し、多くの製品が開発されてきました。開発された製品のうち、約3割が実際に市場に出て商品化されています。

「計測」「分析・評価」「システム化」「介入」の段階をつなげて進む技術開発

 産総研では、高齢者や障がい者の身体機能をアシストし生活を支援する介護ロボットや、それらの技術の性能や効果、安全性を評価・分析する技術の開発に取り組んでいます。人間拡張研究センターでは、「計測」「分析・評価」「システム化」「介入」を通して、人々の生活機能の拡張および高齢化社会によるQOL向上やサービスの効率化を目指し、日常生活において人の支援を行うロボット技術の研究開発を行っています。個々の技術ではなく、介護行為に必要となる情報をつなげることで、高齢者へより良いサービスが提供できる仕組みづくりに貢献できると考えています。

 例えば、ウェアラブルセンサ・デバイスや高精度のマーカを使って「計測」し、デジタルヒューマンモデルを用いたシミュレーションによる解析や模擬生活実験室を用いて「分析・評価」を行います。そして、歩行支援用パワーウェアや介護ロボットのIoT(Internet of Things)化や「システム化」を経て、高齢者の自立支援のためのコーチングや運動スキル獲得を支援する「介入」を行うというようにつなげていくのです。

AIとロボット技術を駆使した介護支援:技術活用の未来

 人間のからだの状態は常に変化しており、それは個人によっても、時によっても、場所によっても違います。はじめは杖を使って歩いていた方も、あるときからは歩行器を使うようになり、また場所に寄っては車いすを使うこともあるでしょう。身体の状態を継続的にモニタリングし、どのような状態の人でもより快適に暮らせるような環境を科学技術で実現していくことが求められています。

 社会全体で高齢化が進むにつれて在宅介護が増えることが予想され、医療や行政などとのデータの連携もますます重要になっていくでしょう。さらに、病院や介護施設と異なり段差が多くスペースが限られている自宅において快適に自立した生活を送るためにも、状態にあった機器を選択することが必要です。そのためにもAI技術を使ったデータ収集と分析が重要になっていくと考えています。

 しかし、介護現場のデータを収集しようという取り組みが本格的にはじまってから5年ほど、そのデータを活用しようという取り組みも始まってまだ数年のことにすぎません。今は個別に取られているデータがつながっていくのが理想ですが、プライバシーの問題もあり解決しなければならない課題は山積みです。

 産総研は日本と欧州が共同で行う共同仮想コーチングシステム「e-VITAプロジェクト」*1に参画しています。これは、高齢者が自立して快適かつ健康に生活を送れるようにするためのプロジェクトです。どのデータをどこまで共有するかなどのデータの取り扱いの面、特にプライバシーの問題などについても議論しながら進めています。

 また、私たち産総研も「柏リビングラボ」として全国8箇所に整備されている厚生労働省のリビングラボネットワークに参画しています。「リビングラボ」には、テクノロジーを開発・評価するための機器や、実際の生活空間を再現した環境が整備されています。この事業の中では、介護ロボットやサービスを開発する企業のさまざまなご相談に無償で対応しています。

 実験室で得られるデータは小規模なものですが、実際に使われるデータの量が増えていくことで情報の価値は上がっていきます。介護分野でのAIの活用にご興味をお持ちの方は、ぜひご相談ください。


*1: 総務省「スマートエイジングを目指す日欧共同仮想コーチングシステム(e-VITA)」(JPJ00059) [参照元へ戻る]

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