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パーソナルモビリティとは?
2023/10/04
パーソナルモビリティ
とは?
―電動化から自動運転へ進む技術開発―
科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由
パーソナルモビリティとは、一般的に街中での近距離の移動を想定した電動のコンセプトカーを指します。また、ハンドル型電動車いすや電動車いす、電動アシスト付き自転車、電動キックボードなど、1~2名で使用し、電動で楽に移動する手段は広くこの概念に含まれると考えられています。自分の好きなときに好きな場所へ、安全に移動したいというニーズを満たす移動手段はQOLの向上のために必要です。本当に使ってもらえるモビリティはどのようなものか、社会全体で移動のインフラを支える仕組みまで考慮したパーソナルモビリティの開発が求められています。
街中で、電動アシスト付き自転車や電動キックボードをみかけることが多くなりました。他にも、身体が思うように動かなくなった方ように、開発されたハンドル型電動車いすに乗って買い物している方を見かけることがあります。このような「パーソナルモビリティ」は自分で操作する乗り物というイメージがありますが、操作ミスなどを防止するなど、安全な移動の実現を目的に自動運転技術の導入も試みられています。ユーザーが「乗りたい」と思えるパーソナルモビリティの開発について、社会全体の仕組みづくりの課題も含めて、デジタルアーキテクチャ研究センター スマートモビリティ研究チームの横塚将志研究チーム長に聞きました。
パーソナルモビリティは、個人が使用する移動手段のことを指します。特に、ハンドル型電動いすや電動車いす、電動アシスト付き自転車、電動キックボードなど、電動の移動手段が注目されています。高齢者や障害者がパーソナルモビリティを利用する理由の一つに、自分の意思で誰の補助も受けずに自分の好きなときに好きな場所へ移動したい、という思いがあります。そのための道具としてパーソナルモビリティは有用です。また、自動運転技術を応用することで、自身で操作が難しい方にもその利用範囲を広げられることから、自動車での自動運転技術の応用が行われています。
自動運転には、障害物を認識し、自分が環境の中でどこにいるかを把握することが必要です。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれるこの技術は、カメラやレーダーを使用して自分自身がいる場所と周囲の環境の形状を同時に認識することができます。カメラを使うものはVisual SLAM、レーザーを使うものはLiDAR SLAMと呼ばれ、目的に合わせて使い分けます。GPSでも位置を知ることはできますが、パーソナルモビリティなどの高精度な地図を必要とする状況では、GPSでは精度と信頼性が不足するため、カメラやLiDARなどのセンシング機器を使用します。
既存の高精度な地図がない場所では、地図をつくる技術が必要です。SLAM技術では自己位置を推定し、周囲の環境の地図をつくることができます。しかし、周辺環境の情報から、それが歩行者か信号かなど物体をする環境認識の技術も必要です。(関連記事:LiDARとは?)
自動運転車両だけでなく、自動運転パーソナルモビリティも、いきなり公道で走らせて事故につながることは許されません。仮想空間上のシミュレーションで車両やパーソナルモビリティを走らせることで、事前に起こりうるトラブルを想定した対処を考え、事故防止の対策を打つことができます。仮想環境の構築は、パーソナルモビリティの技術開発を進めるうえで鍵になると考えています。
また、人々がどの方向に向かって歩いていくかを予測するといった、行動解析も必要な要素技術です。人間はお互いに相手の顔や視線などの情報から相手の動きを判断することで、駅の構内などで多くの人が行き交うなかでもぶつからないように歩くことができます。パーソナルモビリティでも、道路でお互いに鉢合わせたときに車両同士がぶつからないように、お互いにどちらに行くかを予測する技術開発や、メガネ型デバイスを用いて人の視線を計測し、空間中の何を注視しているかを推定する「4D Attention」の技術開発も進んでいます。
パーソナルモビリティは、限定された環境の実証実験は進んでおり、長距離を走ることも可能です。自動運転技術の搭載に関しても、毎日のように変化する全国津々浦々の高精細な地図をどのように更新していくのかといった課題もありますが、要素技術は確立しています。パーソナルモビリティの社会実装・普及に向けた技術的な課題は、すでにある技術のブラッシュアップになります。
一方で、社会的な課題はいくつかあります。その中でもコストがかかることは最大の課題です。単価400万円の自動車に100万円の機能を搭載して500万円する場合にくらべて、20万円のモビリティに100万円の機能を搭載して120万円にするのでは、ユーザーの立場からすると、コストが掛かりすぎ、オーバースペックに感じることもあるでしょう。
また、さまざまな地域でMaaS(Mobility as a Service)実用化への取り組みがなされていますが、有人のバスであれば100円で乗れるものが、自動運転になることで500円になってしまうと、乗る人が減るかもしれません。例えば、茨城県境町ではふるさと納税と補助金を活用して、運賃を取らずに運用できる仕組みをつくり、モノではなくサービスとして移動インフラを提供しています。産総研は公的研究機関として、このように社会全体で移動のインフラを支える仕組みまでを考える使命があると考えています。
まずは、パーソナルモビリティを開発している企業と組んで技術開発を進めることが必要ですが、それだけでは簡単には普及していかないと考えています。産総研が研究成果の社会実装を加速するために2023年4月に立ち上げた100%出資会社の株式会社AIST Solutions(アイストソリューションズ)でも、実用化に向けての議論を進めています。
パーソナルモビリティは、基本的には車いすの延長線上の乗り物なので、ユーザーに新たなコストを負担させることはできません。製品化なり、サービスによる提供であったとしても、境町の例のように、新たなコストを社会全体として負担する仕組みがないと、普及していかないと考えています。パーソナルモビリティをサービスとして運用する新しい事業者やスタートアップ企業が出てきて、行政や産総研のような公的機関も連携して、新しい事業体とその事業体が新たなコストを負担できる仕組みをつくることが重要です。パーソナルモビリティを必要とする方のもとへ届けるために、まずは社会の仕組みづくりから考えていきたいと思います。
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