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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

AIマーケティングとは?

2023/05/31

#話題の〇〇を解説

AIマーケティング

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    AIマーケティングとは?

    マーケティングとは、売る側の視点からみたときの、売る対象の商品やサービスそのもの以外のすべての営みを指します。AIマーケティングとは、この営みにAI技術を活用することをいいます。マーケティングは、商品やサービスにかかわる多くのデータを取り扱うことからAI技術との親和性も高く、売買の履歴や顧客情報は古くから使われてきたデータです。現在は、どのような場面で商品やサービスを購入したのか、何をきっかけに購買行動をとったのかなど、物を買うまでのプロセスをデータ化できるようになり、データ量の増加に伴ってAI技術が活躍する場面が増えてきました。また、購買活動だけでなく、生活者を深く理解するためにデータを有効に活用するという観点でも、新たにAIマーケティングの技術が期待されています。

    複雑化・多様化する現在の市場では、取り扱うデータ量が膨大になってきています。そのような中、マーケティング分野において競争力を高めるためにも、AIを導入する企業が増えています。マーケティングのあり方は、従来のマスマーケティングから、マスではない特定セグメントや個人向けのマーケティングへと変化し、時代によって形を変えています。AI技術を用いたマーケティングという狭義の「AIマーケティング」について、進化し続けるAI技術が今後の日本のマーケットにどのように影響を与えるのかなど現状と展望を、人工知能研究センターの本村陽一首席研究員に聞きました。

    Contents

    マーケティングにAIを導入する意義

     日常生活のデジタル化の進展と産業の構造変化により、マーケティングのあり方は大きく変化しました。従来の大量生産・大量販売・大量プロモーションのマスマーケティングでは、テレビや雑誌の広告を使って、消費者を年齢と性別によってカテゴライズしたターゲット設定を行っていました。しかし、「30代女性」を例にとっても、その実態は非常に多様化していますし、そもそも性別で分けること自体も現代の価値観に沿わなくなっています。従来のマスマーケティングの枠組みが時代に合わなくなり、ターゲット・マーケティングがされるようになってきました。また、インターネットの拡大によって、電子マネーや共通ポイント、クレジット決済などの利用が急増し、サービス提供者側が消費者個人のIDを入手できるようになりました。その結果、パーソナライズされたデータが蓄積され、その量も膨大になっていったのです。

     例えば、インターネット通販の場合は、購買データからAIが分析を行い、商品をレコメンドしたり、値段を最適化したりします。個別に提示されるクーポンによるディスカウントや商品の推薦も、人間が考えるよりAIで自動的にするほうが合理的です。こうしたビッグデータに基づいて個人に最適化していくマーケティングは、AIなしには実現できないと思います。

     一方で、技術の面では日々進化していますが、いくら道具であるAIが変わっても、データを使用する側の意識が変わらなければ、実際のマーケティング活動は変わりません。ここ5年で確実にデータの量は増加し、詳細なデータも獲得できるようになっています。本来、高度な分析ツールなどで良い分析や結果が出せるのにも関わらず、いままでと同じように表計算ソフトなどで処理しているだけでは、良い結果は出せません。また、マーケティング部署だけが進化してもそれを生かす機能が組織としてない場合、せっかくのデータも分析した結果も、なにも生かされずに終わってしまいます。もっとデータを有効に活用するための組織全体の意識の変化や最適化が求められていると思います。

    AI技術の広まりがもたらす行動変容の加速

     マーケティングは売る側の視点からみたときの、対象とする商品やサービスそのもの以外の関連するすべての営みです。つまり、購買という結果に関連するプロセス全体です。そのため、人間の心理状態の変化や顧客の行動、意識の変容が大きく影響します。産総研では、「行動変容」をひとつの大きなテーマとして取り組んでいます。

     質、量ともに豊かなマーケティングのデータを集約し解析していくことで、人々のニーズを浮かび上がらせることができます。データから可視化されることで、自らの言動や行動を振り返ること、「リフレクション」ができるようになります。その結果、今までよかれと思ってきたことに、実は問題点や改善点があると気がつくことができます。その気づきによって、既存の常識を自ら変える「リフレーム」という現象が起こり、意識と行動が変容していきます。

     サービス提供者の行動が変容すれば、サービス自体の改善につながります。サービスの利用者と生活者側の行動が変容すれば、生活の質が向上します。さらに、変化した行動の結果をフィードバックができるようになると、企業や生活者の価値向上にも貢献できます。産総研では、マーケティングに限らず、幅広い分野でサービス利用者、提供者、それをマネジメントする立場の三者間をつなげる「デジタルツイン」をつくるプロジェクトを始める準備をしており、組織や地域社会を活性化できるようなしくみをつくろうとしています。

     こういったプロジェクトは、技術開発にかぎらない多様な活動の中からうまれています。私自身の研究活動も、国や地方の政策立案への助言から民間企業のDX化への協力、学生へのデータ活用のための指導もすれば、地域の健康イベントのデータ計測や科学イベントなどへの出展まで、多岐にわたります。これほど多様な活動をする理由は、実際の現場でAIが使われるユースケースがなければ質・量の豊かなデータを集めてAIを学習できないからです。そして、良質なデータ収集とAI活用を進めるためには、現場に使ってもらえるシナリオ作りも必要です。アプリ普及やデータ処理効率化のためには現場の方や利用者に日常的に最新の技術を使ってもらわなければなりません。このように、マーケティングや生活分野でAIを活用するために幅広い活動が必要となります。

    AIマーケティングの新しい未来像

     AIマーケティングの進化には、3段階のフェーズがあると考えます。

     第1段階は、目の前の目的や課題解決のためにデジタル技術を導入することです。このことを意識している企業は増えてきているはずです。

     第2段階は、集まったデータに基づき、本来の目的に関する何らかの気づきを得て、その気づきによって既存の常識を自分で変える「リフレーム」を起こせるようになることです。「リフレーム」が起こせると、例えば最初は目の前の売り上げだけに着目していた意識が、本来の目的にとって重要な顧客満足度にも着目できるようになります。

     第3段階では、誰かが気づいた本来の目的や指標を全員で共有できるように、プラットフォームをつくる流れが生まれます。この段階で、組織として日常的に問題意識を持って本来の目的や目指すべき指標を自分たちで考えられるようになります。

     企業のデジタルトランスフォーメーションは、まず生産する側のデジタル化とデータ管理から進んでいるのが現状です。しかし、AIマーケティングを進展させるのに必要なのは消費者側で生まれるデータ、生活現場で相互作用した結果のデータです。

     今後、日本社会は全体として高齢化がすすみ、地域の中で日常的な買い物の機会を通じた健康維持増進やコミュニティ活性化などの社会課題解決の機会も増えていくと予想されます。そういった場所では、購買データだけでなく、健康・医療データなどとも連携させたAIマーケティングのプラットフォームが構築できるのではないかと考えています。インターネットの世界では、すでにAIマーケティングを実践しているプラットフォームがありますが、リアルな店舗や自治体、商店街といった単位でのプラットフォームは未発達です。日本なりのAIマーケティングや、生活や社会のデジタル変革(DX)の形を提案していきたいと考えています。

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