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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

単独では難しい理由、ゼロエミッション社会の実現に向けて

2022/06/08

#話題の〇〇を解説

単独では難しい理由、ゼロエミッション社会の実現に向けて

吉野彰が語る「ゼロエミッション」(Vol.2)

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

ゼロエミッションとは? Vol.2

ゼロエミッション(Zero Emissions)とは、「産業界における生産活動の結果、水圏、大気圏や地上圏などに最終的に廃棄される不用物や廃熱(エミッション)を、他の生産活動の原材料やエネルギーとして利用し、産業全体の製造工程を再編成することによって、循環型産業システムを構築しようとする試み」のこと。平成9年版の「環境白書」で、すでに定義されています。

2019年10月の「グリーンイノベーションサミット」をきっかけに設立された産総研の「ゼロエミッション国際共同研究センター」(Global Zero Emission Research Center, GZR)。Vol.1では、GZRの目指すゼロエミッション社会とは何か? そもそも、ゼロエミッションとカーボンニュートラルの違いとは? 2030年の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルは本当にできるの? といったさまざまな疑問について解説しました。Vol.2では、2019年にノーベル化学賞を受賞したGZRの吉野彰研究センター長に「ゼロエミッション社会実現へ向けての取り組み」について聞きました。
Vol.1はこちら

Contents

10の研究チームでゼロエミッション社会の実現へ

ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)の取組み

 「ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR:Global Zero Emission Research Center)」は、世界に先駆けて革新的技術を実現していくために、最先端の研究開発を担うプラットフォーム拠点として設立されました。

 2030年の温室効果ガス46%削減および2050年のカーボンニュートラルの⽬標達成には相当な困難が予想されますが、GZRではこの社会課題解決のため、次の3つのテーマを強化して取り組んでいます。

  • テーマ1:再⽣可能エネルギーの主⼒電源化
  • テーマ2:再⽣可能エネルギーの貯蔵・輸送とカーボンリサイクル
  • テーマ3:ネガティブエミッション技術

 テーマ1は、ペロブスカイト太陽電池など次世代太陽電池であり(2022/3/9プレスリリース記事)、2030年度の⽬標達成に向けて、重点的に取り組む必要があります。太陽電池は屋外暴露で使用されるため、高度な耐久性が要求されます。耐久性の課題解決が急がれます。

 テーマ2は、⼈⼯光合成や⽔素/カーボンリサイクルなどであり、経済合理性のある再エネサプライチェーンの構築が必要となります。簡単にいうと、「作ったエネルギーをどのように運ぶのか」ということです。再生可能エネルギーで生み出した低コストの電力を輸送できるようなものに変える、再エネのキャリア技術を事業化することはゼロエミッション達成に向けて大きな課題の一つです。

 テーマ3は、大気中の二酸化炭素を除去するための技術です。農業分野、⼯業分野などのうち、電化、省エネではどうしても脱炭素化できない分野があります。具体的には、直接⼤気回収・貯留(DACCS)、バイオエネルギーCCS(BECCS)、鉱物化などが挙げられます。

 テーマ2、3は、2050年の⽬標達成のため、中⻑期的に取り組む必要があります。

GZRで取り組む研究テーマイメージ
GZRで取り組む研究テーマイメージ

GZRが取り組む技術開発と研究

 GZRでは、⽔素、カーボンリサイクル、エネルギーデバイスなどの分野で基盤技術開発を実施しています。

 カーボンニュートラルの実現は、単⼀の技術だけで成し遂げられるものではなく、技術や知⾒の融合が重要です。そのためにも、現在10 ある研究チームの研究者には、「技術の深掘り」はもちろんですが、「技術の融合」に取り組むことを期待しています。

 GZRで⾏う研究について、お話しします。

 まず、「CO2フリー電⼒」の確保です。太陽電池の超効率化や軽量化地熱や都市部の未利⽤熱を使う熱電発電について取り組んでいます。

 「CO2フリー電⼒」が安定的に供給できる技術を最大限に活用するためにはこれらの再⽣可能エネルギーを容易に輸送・貯蔵できる形にすることが必要です。GZRでは「CO2フリー電⼒」を用いた水素の生成技術、その水素を貯蔵する技術などさまざまな角度からエネルギーキャリアに関する研究を行っています。

 これらの技術が確立した場合でも、それを実現するための機器や輸送手段など社会全体でみた場合CO2排出をゼロにすることは困難です。そこで、CO2を分離回収し、さらにはこれを利⽤していくための技術が必要になります。これがネガティブエミッション技術です。

 また、カーボンニュートラルの実現には、今はまだ存在しない新しい技術が必要になります。ある技術で社会課題を解決するためには、その技術の効果を正確に評価し、社会システムに適合できるかどうかをしっかり検討しておく必要があります。社会制度設計につながる評価ができるのがGZRの特徴とも言えるでしょう。この点において経済学的な観点からの技術の定量的評価やAI を駆使したシミュレーションなどはとても⼤切な役割を担ってきます。

 まずはGZRや産総研のなかでこういった多くの研究チームがコラボレーションし、情報共有していくこと、そして⽇本国内、さらには海外にまで広がり⼤きくなることを期待しています。競争 competition だけではなく、共創 co-creation でゼロエミッションを達成していくべきです。

吉野彰研究センター長が語る、ゼロエミッション技術の現在地

ゼロエミッション社会実現に向けた現在地

 2020年以降、中・⽇・⽶などが次々とカーボンニュートラル⽬標を表明しており、2021年11月にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26 時点では、150カ国以上が年限付きのカーボンニュートラル⽬標を掲げています。

 日本の産業界は、5〜10年前頃まで、地球環境問題に対して「そしりを受けないようにしよう」という防衛的なスタンスをとっていました。しかしここ数年、地球環境問題による産業構造の転換をビジネスチャンスとしてとらえようという積極的なものに変化しています。

 こうした流れは、さらに2050年カーボンニュートラル宣⾔、2030年の温室効果ガス46%削減という⽬標の設定によって、本格的なものになってきたことを実感しています。

 多くの企業が2030年、さらには2050年の温室効果ガスの削減⽬標を宣⾔し、⾃治体でもこうした取り組みが広がっており、産総研への期待も⾼まっています。

 2030年に向けては、現在進⾏形で進めているカーボンニュートラル関連の研究をさらに加速し、事業化していくことが必要です。⼀⽅、2050年に向けては、ロングレンジな視点での取り組みが必要です。実現に必要な基礎研究はある程度出揃っているとはいえ、CO2フリー電⼒、CO2フリー燃料、さらにはネガティブエミッションの技術開発においては事業化をするためにもう⼀段上のイノベーションが求められています。

ゼロエミッション技術開発のハブとなるGZR

 ゼロエミッション社会の実現に向けて、企業や研究機関が志を一つにして情報交換することによって、より発展的な新しい動きにつながることへの高い期待があります。ゼロエミッション社会の実現は、単独では難しい。より多くの連携が求められます。

 GZRでは、コロナ禍においても国内外のさまざまな関係主体との連携強化のため、国際会議Research and Development 20 for Clean Energy Technologies (RD20)の開催や、東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(略称:ゼロエミベイ)と連携した活動・成果発信を⾏っています。

 RD20は、G20各国のカーボンニュートラル実現に向けて取り組んでいる主要な研究関のリーダーによる会議であり、各機関の研究開発の活動・経験・アイデアを交換するとともに、新たな国際共同研究の可能性を追求しています。

 2021年度は、国際共同研究の創出に向けた活動の開始や、カーボンニュートラル社会実現を阻む⻑期的かつ横断的な問題について、成果を主導する研究機関のトップが議論した成果を取りまとめて発表するなどの進展が⾒られました。

 「東京湾岸ゼロエミッション・イノベーションエリア」構想は、東京湾岸周辺エリアにある企業や研究機関などの連携を通じて、世界に先駆けてゼロエミッション技術に係るイノベーションエリアとする取り組みです。

 「ゼロエミベイにおいてGZRは事務局および幹事機関として参画しています。東京湾岸周辺エリアにある企業や研究機関などの連携を通じて、世界に先駆けてゼロエミッション技術に係るイノベーションエリアとすることを目指しています。会員数は130を超え、いまは各社・各団体の情報交換が行われ始めたところです。

技術者、研究者、産業界にとって、絶好のチャンス

 今、ゼロエミッション技術に関わる研究機関や企業は絶好のチャンスを⼿にしています。基礎技術はある。マーケットはある。それをつなぐ新たなイノベーションを、世界が待っている状態です。

 このチャンスは、産業界が動かなければ絶対ものにできません。

 できるだけ早く、成功例を発表してください。カーボンニュートラルに貢献するような製品を出し、結果として利益が生まれたという小さな成果を発信してください。

 また、これほど大きなチャンスがある時代に研究者であること、技術者であることは非常に幸運なことです。

 世界を変える、ブレイクスルーを起こす技術を、ぜひ⼀緒に作っていきましょう。

吉野研究センター長
 

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