貴社のその研究、産総研と一歩進めてみませんか?
貴社のその研究、産総研と一歩進めてみませんか?

2016/09/30
貴社のその研究、産総研と一歩進めてみませんか? パートナー企業とともに価値を創造し実用化につなげる「連携研究室」
❶ パートナー企業のニーズに特化した研究開発を行う。
❷ 企業の課題を解決するために人・技術・データを集結。
❸ 基礎研究から実用化までシームレスな連携体制をつくる。
2016年6月、産総研の人工知能研究センター内に「NEC-産総研人工知能連携研究室」が発足した。産総研が取り組みを始めた新たな研究組織、「連携研究室」の第1号だ。
日本電気株式会社(NEC)からの資金提供を受け、同社の抱える課題を解決するためにNEC、産総研、大学の研究者が集結。企業ニーズに応える研究開発の一つの形としてつくられた、この研究室の取り組みの意義や方向性について、関係者間で議論を交わした。
日本の強い技術にAIを組み合わせる産総研人工知能研究センター
関口人工知能(AI)が注目されている中、2015年、産総研は人工知能研究センターを立ち上げました。まず、ここでの研究の目的や開発の方向性を辻井研究センター長からご説明ください。
辻井過去、AIには何度かブームがありましたが、これまでの“AIのためのAI研究”といった段階は終わり、この10年ほどはビッグデータにAIをどう使うかなど、具体的な社会的課題や技術的課題を解決するためのAI研究という方向に向かっています。それに伴い、これまでの技術とこれからの新しい技術を組み合わせることで、人間だけでは解けない現実の課題を解くAIを作り出そうという展開になっており、この研究センターでも、さまざまな分野の資源を集結させて新しい融合技術を生むことを目指しています。
関口具体的には、どのような現実的な課題をターゲットにしているのですか。
辻井AIは国際間競争の激しい分野でもあり、特徴的なAIをつくっていくには、日本が強みをもつ技術にAIを組み合わせ、さらに強い技術とすることが重要だと考えています。具体的には、製造業の技術とAIをかけ合わせる「AI for manufacturing」、医療や福祉、サービス業などにおいて個々の要求に適切に応えていく「AI for society」、世界トップクラスである日本の科学技術を支える「AI for science」という3つの出口を重視しています。
人・技術・データの集約でAIの研究開発を加速する
関口今回、そんな人工知能研究センターに、パートナー企業とともに研究開発を進める「連携研究室」の第1号として、「NEC-産総研人工知能連携研究室」を立ち上げました。NECの森永さんとしては、どのような期待をしていますか。
森永私たちはまず、産総研の人工知能研究センターの設立理念である「人・技術・データを集める」に共感しました。この分野はいろいろなものを集約させてこそ価値が生まれる分野で、その拠点ともなれば、とても大きな成果が出るはずです。ですから、この研究センターにNECの名を冠した研究室を置くことで、当社の社会ソリューション系事業の研究開発が加速されると期待しています。
また、NECはものづくりやインフラのオペレーションなどの分野に強みがありますが、この方向性も産総研と合致しました。例えば、職人が経験的・直感的に行っているものづくりをAIに行わせることで、人間では不可能な領域まで作業を最適化、効率化できると考えています。関口 NECには、連携研究室に多額の研究資金を投資していただきましたが、経営の観点でのご判断はどのようなものだったのでしょうか。
森永NECには、AIの研究課題の一つである機械学習の研究を約30年続けてきた歴史があります。この分野には逆風が吹いている時期もありましたが、近年はビッグデータで追い風が吹き、現在は爆風ともいえる勢いになっています。経営陣もこれを好機ととらえ、一気に上昇気流に乗りたいと考えていたところでした。知的財産の取り決めが合意しやすい内容だったこともあり、短期間で今回の連携をまとめることができました。
社会的課題を想定して先端技術を実用化につなげる
関口鷲尾先生には、クロスアポイントメント制度を活用し、大阪大学、産総研の両方に籍を置くかたちで連携研究室長を引き受けていただきました。
鷲尾私は大阪大学の産業科学研究所で、AIの機械学習やデータマイニングといった基礎と、企業と進める応用の二本立てで研究を行っています。NECとは共同研究の経験もあり、産総研でもNECでもない第三者であり、かつバックグラウンドを共有できる立場ということで、この連携研究室長の依頼をいただきました。
大阪から東京まで距離はありますが、機械学習やデータマイニング、応用研究という過去の研究開発の経験や知見が生かせますし、大きな社会的課題を想定して検討を進めるという、大学の一研究室レベルではできないスケールの大きな研究ができるわけですから、これは大変な魅力です。
関口大学における産学連携とは、企業との距離感は異なりますか。
鷲尾大学で行うのはあくまで応用研究のレベルです。しかし、ここでは基礎研究から実用化の一歩手前まで、すべてつなげていけます。ここが重要なのです。もともと日本の強みは技術の実用化にありましたが、最近では、以前よりも先端技術を実用化までもっていける研究者の層が薄くなっています。そこを強化していく上でも、今回の試みはよいモデルケースになるでしょう。その期待や責任を感じています。
連携研究室の課題を明確にし、研究の方向性を示す
関口この連携研究室の研究課題として①シミュレーションと機械学習技術の融合、②シミュレーションと自動推論技術の融合、③自律型人工知能間の挙動の調整、という3点をあげていますが、このようなテーマをあげた経緯はどのようなものですか。
森永NECではビッグデータ分析に基づき、インフラの通常機能を極限まで効率化するオペレーション系AIを開発しています。そこから、ビッグデータが集まりにくいケース、例えば災害発生時などにもAIのオペレーション手法を導入することで、人が判断を行う支援ができないかと考え始めました。
また、データ量の不足を補うにはシミュレーションの手法が有効です。AIの技術とシミュレーションの技術を融合させることで、ビッグデータ依存ではない知的な推論が可能になるはずだと考えました。
そのようなビジョンのもと、まず①②のテーマを設定しました。大規模災害や異常事態など、過去のデータを集めるのが難しいケースに対して、シミュレータ内で観測したい現象を集中的に観測する手法を確立し、効率的な機械学習を進めていけるようにすること、そして、仮想世界と自動推論技術を融合させ、未知の事象に対して、安定状態に行きつく手順をできる限り速く見つけて、人間の意思決定を支援することを目的としています。
関口テーマ③の自律型人工知能間の挙動を調整するというのは、具体的にはどのような研究ですか。
森永これは2017年度からのテーマになりますが、社会インフラや交通システムなどがAIで自律的に制御されるようになったとき、複数の制御システムが実空間で出会うことになりますね。そのとき、システム同士が競合して全体として正しく機能しなくなる可能性があるため、システム同士で譲る、分担するなどの挙動調整を行えるようにしていくものです。
関口これらのテーマは、技術のトレンド的にはどのような位置づけにあるのでしょうか。
辻井ビッグデータ以降の流れと既存のAI技術を融合させて、新しい形のAIを生み出していこうというトレンドに合っていますね。次は、そこにどの要素を加えるかが検討されていますが、まさにその方向性を、3つのテーマそれぞれが示していると思います。
鷲尾シミュレーションベースで科学を進める方法論を「第3の科学」、現在のビッグデータベースの技術を「第4の科学」と呼びます。この連携研究室のテーマは、AIを核に第3、第4の科学を統合して進めようとするもので、応用志向の研究室でありながら、科学、工学の核心をついたテーマを掲げていると言えます。だからこそ社会、科学、工学に還元できる方法論を発信しつつ、民間に役立つ技術につなげていけるのではないでしょうか。難しいのは確かですが、新しい科学の先端になり得る成果を出せると期待しています。
スムーズな技術移転こそ企業にとって大きな魅力
関口産総研とNECの研究者が一つの研究室に在籍する体制については、どのようにお考えですか。
森永NECでは、この分野の研究者の多くは事業部門も兼任しており、高速かつシームレスにアウトプットにまでつなげていけるのが最大の利点だと考えています。外部に研究委託し、どんなに詳細に報告を受けても、一緒に研究を進めていくことにはかないません。この研究室では実際の問題をそのまま日々の研究活動として展開でき、ソリューションを得て、確実に成果を自社のものにできます。技術移転という点でも素晴らしい体制ですね。
関口知的財産の取り扱いは、これまでの共同研究より一歩踏み込んでいますね。
森永今回、一定規模の投資ができたのも、知的財産面の条件が受け入れやすかったためです。権利の取り扱いについて実用化を見通した配慮があり、企業としてあらかじめリスクヘッジできていたことが、投資を決断できた大きなポイントでした。
鷲尾私もさまざまなプロジェクトに関わってきましたが、知的財産の取り扱いについて折り合いがつかず、成果を企業に引き継げない事例もありました。今回のスキームは私たちの成果を企業が直接生かせる仕組みになっています。これをぜひ成功させて実用化までもっていき、今後の産学官連携の成功例として示したいですね。
関口これまでの企業との共同研究が、技術のニーズとシーズのマッチングを主とした“小さな技術交流”だったとすれば、連携研究室は、大きな枠組みの中で、大きな塊をどのようにつくっていくかを一緒に考えていくものだと言えます。3年という投資期間を企業にコミットいただくことは、ダイナミックな研究計画を設定し、一つの組織だけでは難しい研究を確実に進め、成果を生むためのよい強制力となるでしょう。
今後、ほかの企業の皆さまにも、広く連携研究室に関心をもっていただき、新たな研究開発の形として具体的な課題の解決に活用していただきたいと考えています。
ぜひ、産総研にお声がけください。
人工知能研究センター
研究センター長
辻井 潤一
Tsujii Jun'ichi
日本電気株式会社 中央研究所
データサイエンス研究所
主席研究員
人工知能研究センター
NEC-産総研人工知能連携研究室
副連携研究室長(特定集中研究専門員)
森永 聡
Morinaga Satoshi
情報・人間工学領域
領域長
関口 智嗣
Sekiguchi Satoshi
大阪大学 産業科学研究所
教授
人工知能研究センター
NEC-産総研人工知能連携研究室
連携研究室長(クロスアポイントメントフェロー)
鷲尾 隆
Washio Takshi
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