INTERVIEWインタビュー

宇宙発
「巨大なレントゲン」で、
地球内部を明らかに。

  • 修士卒
  • 新卒
  • パーマネント型研究員
  • 研究職 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門
  • 児玉 匡史こだま まさし修士卒
児玉 匡史さんの写真

周りから学ぶべきことを学び、
追いつく努力をするしかない。
共同研究をしながら博士課程に進んだのも、
その「努力」のひとつ。

児玉 匡史さんの写真

大学院在籍時から宇宙線を使った物理探査手法(ミュオグラフィ)を専攻し、修士卒研究職員として産総研に2021年入所。ミュオグラフィについて大学との共同研究を進めるかたわら、野外調査業務もこなす。
(取材日:2024年4月)

児玉 匡史さんの写真

宇宙からの「手がかり」で
地下構造を明らかに

直接目にすることができない地下の様子を、様々な物理現象を手がかりに明らかにする。そんな「物理探査」という研究分野を初めて知ったのは、大学3年生で受けた講義がきっかけでした。見えないものが“見える”という不思議に興味をひかれ、4年生で物理探査の研究室を選択。今思えばこの選択が、今の産総研のキャリアまでつながることになります。
大学院在籍時に専攻していたのは、「ミュオグラフィ」と呼ばれる探査手法。例えるなら、巨大なレントゲン写真みたいなものですね。探査に使うのはX線ではなく、ミュオンという、宇宙から常に降り注いでいる素粒子(宇宙線)。ミュオンには物を通り抜ける性質があるのですが、密度が高いものほど通り抜けにくい。ということは、ミュオンがどれくらい通過できたのか測れば、その物体の密度が推定できるわけです。レントゲンで骨の位置がわかるように。
レントゲン写真と違うのは、X線を出すような装置を用意しなくてもよいこと。ミュオンは宇宙から常に降り注いでいるので、検出器だけ置けば計測が可能です。近年は火山や遺跡、原子炉内部の調査などに利用されるケースも。ただ、比較的新しい手法なので、私はこの手法の分解能や精度の評価をテーマとして研究をしていました。

本を捲る手の画像

修士卒で
産総研の研究職になる道へ

産総研との出会いは、修士1年生の時。学会の懇親会で、現在所属しているグループの研究者と話す機会がありました。修士課程を修了したあとは、資源やエネルギー関連の企業で働くつもりで就職活動をしていたのですが、そんな中、産総研では「修士卒研究職」の採用を行っていると知りました。現在、産総研では修士卒研究職採用が拡大していますが、当時は博士号取得者を対象とした研究職員の募集が中心で、修士卒研究職の募集は一部の領域のみ。その一部の領域の一つが、現在所属しているグループが置かれている地質調査総合センター(GSJ)でした。
また、修士卒研究職の採用審査と並行して、修士2年生から産総研リサーチアシスタント(RA)として働き始めました。RA制度とは、優れた研究開発能力を持つ大学院生を契約職員として雇用する制度です。RAは産総研が実施している社会ニーズの高い研究開発プロジェクトに参画すると共に、その研究成果を学位論文に活用できます。しかし、当時はコロナ禍真っただ中。本来は現場でデータ測定や実験などを手伝う仕事があるのですが、それもできません。そこで、上司と相談して研究テーマを策定し、テレワークで上司とディスカッションをしながら、研究を進めていきました。
私自身にとって、「どんな仕事をするか」と同じくらい、「どんな人と働くか」も大事なことでした。RAとして産総研の研究者と関わる中で、皆さんそれぞれに個性があり、すごく良い印象を受けました。その印象は産総研に入所してから現在まで変わることはなく、日々刺激を受けながら研究に取り組んでいます。

児玉 匡史さんの写真

データの向こうには
「人」がいる

現在はミュオグラフィと弾性波探査について、大学と共同研究を進めています。共同研究先の大学の博士課程に籍を置いて、学位の取得も目指しているところです。ミュオグラフィの研究に加えて、GSJでは野外調査の業務も担当しており、野外調査の一つにメタンハイドレートの研究があります。
初めて野外調査に立ち会ったのは、春の日本海。海底にメタンハイドレートが眠るとされる海域で、1ヵ月にわたり行われた「地震探査」でした。調査船の後方に設置された発震器から音波を発生させ、海底面や地層境界面で反射した音波を曳航している受振器で受振。その信号から、海底の形状や地下構造を三次元で推定するというもの。
当時、私はまだ入所して2ヵ月で、こんなに大掛かりな野外調査は初めて。右も左も分からず、荒波に揺れる船内で、先輩に質問をするのが精一杯。そんな中、野外調査を依頼した外注先の方々は、天候や機器のトラブルに臨機応変に対応しながら作業を進めていきます。現場でデータを取ることが、こんなにも大変なことだったとは。学生時代は研究室での数値計算がメインだったので、改めて野外調査の難しさや、準備の大切さを身に染みて学びました。
その後も何度か野外調査に立ち会い、3年目の時は地球深部探査船「ちきゅう」に乗船。海底で取得したサンプルの分析や、地盤の状態を把握する調査である「検層」に携わりました。測定をされている方に話を聞いたり、作業現場を見せてもらったり、貴重な体験をさせてもらいましたね。こうした機会をもらえるのは、実際の現場で起きていることを学ばせる意図もあるのだと思います。データの向こうに人がいることを、忘れてはいけませんね。

児玉 匡史さんの写真

物理探査の
プロフェッショナルとして

入所した当時は、周りが博士卒の研究職の人たちばかりで、「ここでやっていけるのかな」という不安も大きかったですね。少しずつ慣れてきたものの、未だに不安が胸をよぎることもあります。ただ、気にしてばかりいてもしょうがありません。実力差は認めたうえで、周りから学ぶべきことを学び、追いつく努力をするしかない。共同研究をしながら博士課程に進んだのも、その「努力」の一つですから。また、GSJでは先輩たちのフォローにも助けられています。物理探査の手法それぞれにプロフェッショナルがいて、質問すればなんでも丁寧に教えてくださいますし、最近はお互いの知見を共有して新しいことができないかという動きもあって、私自身もワクワクしています。
入所してから、ミュオンの測定実験、調査船による現地調査、学会での発表、所内でのプロジェクト……と、新しい景色をたくさん見ることができました。ここまで多くの研究者と関わる機会を持てるのは、貴重なことなのではないか、また、産総研修士卒研究職の魅力の一つではないかと思うんです。今はまだ、時間の使い方がうまくいかず苦労する場面もありますが、いずれ自分のものにしていけたら。物理探査の分野で、ミュオグラフィという手法がより有用な選択肢の一つとなるように、その可能性を追求できればと思います。

児玉 匡史さんの写真

ほかの職員を見る