船上での出会いに導かれ、
新天地に飛び込む
初めて産総研を知ったのは、海の上でした。当時私は修士課程の学生で、外洋調査のために4ヵ月の航海に出ていたんです。研究テーマは、グローバルな炭素循環解明の一環として、 海洋に蓄えられた有機物の残存メカニズムについて。調査船で、他の大学や研究機関の海洋研究者たちと乗り合わせ、そこで産総研の研究者と出会いました。正直に言うと、産総研という存在自体を知ったのも、この時が初めて。産総研という組織の話を聞いた時は「充実した環境で研究ができるところなんだな」という印象でしたね。その後、大学研究員時代に何度か同じ研究航海に乗り合わせた産総研の別の研究者から「ポスドクとして来てみませんか」と話をいただくのですが、その時提示された研究テーマは、それまでとだいぶ畑が違ったんです。
そのテーマは、製鉄会社から排出される産業副産物(製鋼スラグ)を、干潟や藻場の基盤材料として扱った場合の効果や、海の生物や環境にどのような影響があるかを評価するというもの。それまでは「自然環境の普遍的な現象を解明する」という研究でしたので、「人が海に手を加えた際の影響を確かめる」となると、考え方も変わってきます。迷いましたが、せっかくの機会。キャリアの節目として、違うフィールドに飛び込んでも面白いはずだと、産総研への入所を決めました。
民間企業との共同研究は、経験がありませんでした。最初は慣れない分野に苦労したものの、これまで試行錯誤して構築してきた評価手法が事業化にも活用されていくんだと、徐々に手応えを感じるように。自分の研究が、社会実装の形で世の中とつながる面白さをもっと感じたい。そしてなにより、海洋のフィールドワークをこの先も続けたい。その想いから、パーマネント型研究員に応募して今に至ります。あの海での出会いがなかったら、ここにはいないでしょうね。