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研究職対談

融合研究も分野の研究も。
研究者たちが語り尽くす、
産総研における研究の第一線。

PROFILE

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二宮 啓
にみや ひろ地質調査総合センター
活断層・火山研究部門

修士号取得後、産総研に2019年入所。入所後は地震防災のテーマに携わりながら、在職中に博士号を取得。活断層・火山研究部門で野外調査・データ解析を基に地震防災に資する地下構造モデルの研究を行っている。

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塚崎 あゆみ
つかさき あゆみエネルギー・環境領域
環境創生研究部門

博士号取得後、大学研究員を経て産総研に2011年入所。メタンハイドレートやコバルトリッチクラストといった海底の資源開発において、海洋環境にどのような影響があるかを評価。海洋環境モニタリングによる「環境ベースラインデータ」の取得や環境影響評価手法の開発・高度化に携わる。

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植田 暁子
うえだ あきこエレクトロニクス・製造領域
新原理コンピューティング研究センター

博士号取得後、大学の助教、海外大学の博士研究員、帰国後再び大学の助教を経て、産総研に2018年入所。日常生活のあらゆる部分において利用され、AIや大規模データ処理などでますます重要性の増している、半導体研究に携わる。主に、CPUの中で、電気信号のスイッチの役割をするトランジスタを、シミュレーションを用いて研究している。

1.

研究との出会い

必然か、偶然か。
未知との出会いが、研究の扉を開けた。

今日はよろしくお願いします。まず、皆さんと研究の出会いからお伺いしたいと思います。少しさかのぼって聞いていきたいのですが、皆さん、どんなお子さんだったのですか?

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塚崎

私は、自然科学にずっと興味がありましたね。家族が研究関係の仕事をしていたこともあって、よくTVで生命の進化や深海の生物や地形に関する番組などを見ていました。家族の刷り込みかもしれません(笑)。そんな子ども時代を過ごして、高校の進路選択時に、地質や古生物か海洋かどちらが良いか考えました。海洋は、学べる大学の選択肢が限られてしまう一方で、地質や古生物はいろんな大学で学べるので、地質・古生物の方を選びました。

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植田

小学生の頃は、国際的な仕事がしたくて、活躍するなら外交官かなと思っていました。外交官になりたいなら法学部かなと漠然と考えていたのですが、中学生の時、兄が大学で生物を専攻していて、たまたま「精神と物質」という本をくれたんですが、それがすごく面白くて。ノーベル賞を獲得した利根川進さんの研究人生について書かれた本です。それまで遺伝子は変化しないと考えられていたけど、免疫細胞は抗体遺伝子を自在に組み替えて抗体を作っていることを解明し、ノーベル賞を受賞した話などが書かれていました。本を読んでいて感じたのは、研究ってやっぱり常識にとらわれないんだなっていうところ。そこから、研究もいいかなと思うようになりました。

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二宮

僕は子どもの頃、全く研究と関係なく、運動とゲームが好きな男の子だったかと思います。ミニバス、剣道、柔道、バドミントン、テニス等、様々なスポーツを転々と取り組み、アクティブに活動していました。あまり今に根付くものはないかもしれませんね……。高校時代に文理選択があり、理系を選びましたが、理系を選んだのは数学が得意で、国語が苦手だったからです。研究に触れたのは、大学の学部4年の時。地球資源工学を専攻していましたが、地震や噴火に伴う地中内部の変動をモニタリングする研究を行いました。解析や解釈など先生と議論しながら自由に進められて、研究の面白さを実感しました。

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2.

就職活動について

博士進学?修士卒就職?
心を決めた、各々のきっかけ。

皆さん、研究との出会いは様々ですね。就職活動において、産総研とはどのように出会ったのですか?

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塚崎

私、船の中で産総研を知ったんですよ。修士論文のためのサンプリングで、 11月から3月まで4ヵ月ずっと船に乗っていた時に、同じ船に産総研の人が乗っていました。
当時、修士課程で卒業する場合の本格的な就職活動は、修士1年の12月頃から始まっていて、私が下船したタイミングには、周りの人たちは就職活動がほとんど終了していました。下船後、まだ募集していた企業等にエントリーし、選考も受けてはいたんですが、ちょうどその頃4ヵ月かけてサンプリングした試料を試行錯誤して分析し、データが出始めました。元々、博士課程に進学しようとは思っていたんですが、データの解析や実験を続けたいし、新たな課題や疑問もでてきて、やはりこれはもうドクター行くしかないと。博士課程在学時は、ポスドク含めて色々な大学教員の公募に応募をしていました。そんな時、研究航海で再び産総研の人と知り合い、「こういうポスドクがあるから来ないか」と誘いを受けて、産総研ポスドクとして産総研に就職しました。

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二宮

私は博士課程に進もうと思って出願準備を進めていたら、先生から「産総研、公募あるよ」と教えてもらって。博士課程進学のための願書に記載する内容と、産総研の修士卒研究職採用のエントリーシートに記載する内容が結構一緒だったので、産総研も併せて受けちゃおうと。

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植田

私は、産総研に来る前様々なポストを経験してきました。最初は大学の任期付き助教に就き、その後海外でポスドクを2年程度経験しました。その後、筑波大で助教の経験を経て、産総研は4職場目です。産総研に来たきっかけは、筑波大に移った時に、今のチーム長とは学会でもお会いして知り合いだったこともあり、同じつくば地区ということで共同研究を始めたこと。共同研究を行っているうちに産総研のチームの人たちと仲良くなって、産総研研究職で募集中のポストがあることを教えてもらいました。

二宮さんの写真
二宮さんの写真

二宮

産総研を選んだのは、修士卒の採用があったからですね。産総研は地質の研究をやっていますし、自分の場合は、たまたまこれまでやってきた研究テーマを、産総研で引き続き行うことができたので良かったです。

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塚崎

私は、産総研のポスドクポストの話をいただいた時、提示された研究テーマが、これまで自身が行ってきた研究テーマとだいぶ畑が違ったんですけど、違うフィールドに飛び込むことも面白いのかなあと。就職となると、少し綺麗に言えば、社会貢献というのが身近に感じられるといいかなと思って。私が大学院で行っていたような自然の現象を理解する基礎研究ももちろん、長期的には環境課題の解決や将来予測に活用されていく重要な研究だとは思いますが、もう少し社会課題解決に直接的に活用される研究をしてみたいと思って、産総研で新たな研究テーマに取り組むことを決めました。

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植田

私は、産総研研究職のポストを教えてもらった頃、ちょうどもう少し実用化に近い研究をしてみたいと考えていたところだったので、産総研研究職に応募し、今に至ります。私も海外機関のポスドク時代まではナノメートルオーダーの領域(量子ドット)に電子を閉じ込めた時の電子の挙動などを調べる基礎的な研究を行なっていたのですが、今は、コンピュータに応用されるトランジスタの研究なので、基礎研究から応用に近い研究という意味でだいぶ違う研究になっているかなと思います。

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3.

産総研での研究内容について

学生時代とは異なる研究テーマでも、
プロジェクトを通して、新たな知見を広げていく。

ありがとうございます。そんな出会いを経て、産総研では主にどんな研究をされていますか?

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植田

私は主に半導体、特にコンピュータやスマートフォンのCPUに使われるような最先端のトランジスタの理論研究をしています。10年後ぐらいに実用化されるようなトランジスタについて、どんな構造が良いか、どんな課題があるかなどをシミュレーションや解析計算を利用して研究しています。大学院・ポスドク時代は、量子ドットの研究をしていました。直径が数十から数百ナノメートルほどの領域(量子ドット)に、電子を閉じ込めた時の電子の性質を調べる研究です。目に見える大きさのものは、どういう原理で動くのかがわかりやすいのですが、ナノメートルといった大きさになると電子が粒子的な性質だけではなく、波動的な性質も示すようになり、大きなサイズでは成り立っていた法則が成り立たなくなるんです。これを量子力学的な性質と言います。量子ドットでは、電子がどんな挙動をするのかを研究していました。トランジスタも性能の向上とともにどんどん小さくなっていて、数十ナノメートルのサイズになってきています。なので、トランジスタにおいても今まであまり考えられてこなかった量子力学的な性質を考える必要が出てきています。大学、大学院時代はナノオーダーの半導体中の電子の性質を知るための基礎的な研究でしたが、産総研ではその知見をトランジスタの研究に生かしています。

二宮さんの写真

二宮

僕は実は、学生時代の研究テーマと現在の研究テーマは大きく変わっていません。地震防災に貢献する地下構造モデルの研究を行っています。学生時代から変わったことと言えば野外調査が増えたことくらいでしょうか。学生時代はオープンデータを使って解析していたのですが、現在は現地に行き、自らの手でデータを取得して解析することが増えました。実際に現地に行ってデータを取得することは大変ですが、事前準備の重要さや現地を見ないと分からないことなど学ぶことが多いです。また、オープンデータのありがたさも身をもって実感できました。

二宮さんの写真
塚崎さんの写真

塚崎

私も産総研に入所してから、これまでとはガラッと違う研究テーマになりました。産総研に入って最初に取り組んだのは、産業副産物を干潟や藻場の土壌に使って、沿岸環境を修復・創生するというテーマ。修士・博士課程在学時は、外洋域を対象として海洋における炭素や窒素といった親生物元素の循環に関する研究をしていました。それまで人為的な影響はほとんど受けない外洋域の普遍的な現象を調べていたのが、沿岸域の研究に変わったのですから、当然人為的な変動も考慮していかなければなりません。外洋域と沿岸域での研究の進め方の違いもありますし、これまで扱ったことのない試料を相手に、海藻と海草の違いって何?というレベルから始めたので、当時は大学1年生になった気分で大変でした。
ここ数年は、海底に賦存する天然ガスの主成分であるメタンが氷状に固まったメタンハイドレート鉱物資源を採掘する際、海洋環境にどのような影響があるのかを評価する研究を行っています。CCSという、CO₂を分離・回収して、海底下に貯留する技術の環境影響評価にも携わっています。こうした研究プロジェクトには、私の所属しているユニットだけでなく他のユニットや異なる領域の研究者も参画しています。メタンハイドレートや鉱物資源開発に関する環境影響評価研究については地質調査総合センター(GSJ)と融合研究を進めています。

なるほど。融合研究は、産総研では結構盛んなのでしょうか?

塚崎さんの写真

塚崎

そうですね。融合研究は、プロジェクトを担当する領域がかなり横断的なんです。私は、地質調査総合センター(GSJ)を代表研究領域として、産総研の6領域が参画する「環境調和型産業技術研究ラボ」に入っています。産総研では融合研究が推奨されていて、他の研究分野との関わりが多く持てることは、この研究所ならではですね。

植田さんの写真

植田

融合研究ではないですが、産総研ではNEDOなどの国の予算のプロジェクトが走っていて、そういったプロジェクトに入れることも、産総研の良いところですね。また、スーパークリーンルームを必要とするような装置を使った研究など、半導体も突き詰めるとお金のかかる分野なので、産総研ではそういう環境が整っていて、大学だけではなかなかできない新しい研究ができるという意味ですごくメリットがあります。

語り合う職員たちの写真
4.

若手が活躍できる研究環境

働きながら博士号取得も、融合研究も。
若手こそ、産総研という環境を生かせる。

二宮さんの写真

二宮

若手のうちに領域融合研究ができるのは、産総研の推しポイントのひとつですね。大学だと所属の研究室で教授と議論することがほとんどだと思いますが、産総研だと所内の学会はもちろん、異分野の方々と接する機会がとても多いんですよ。様々な分野の研究を知って、自分の中で俯瞰的に融合しておくことで、新しい研究のヒントも生まれ、非常に良い職場だと思います。

植田さんの写真

植田

上司がしっかり若手を指導する時間もありますよね。私は大学で教員をしてから産総研にきていますが、大学では卒業したての若手であっても、学生がいるため、自分が指導側に回ります。でも、産総研では修士課程や博士課程を卒業してすぐ就職したら、チームで一番若いのは自分になるわけです。なので、上の人にもわからないことを聞きやすい。大学院時代と分野を変える場合でも、上司や他の同僚に教えてもらいながら、研究を進められます。研究テーマもバラエティに富んでいて、研究テーマも広げやすいです。

植田さんの写真
塚崎さんの写真

塚崎

修士課程修了後に、就職するか、博士課程に進学するか悩んでいる修士課程在学中の方にも産総研研究職員をおすすめしたいです。

二宮さんの写真

二宮

働きながら博士号を取得できますしね。僕はまさにそうです。産総研入所半年後に大学院博士課程に入学して、入所4年目の途中で博士号を取得しました。産総研の研究テーマをベースに大学で論文を出せたので、比較的スムーズに博士号を取得できました。2024年度から修士卒研究職員として入所した場合は、博士号取得が業務の一環になっていて、博士号取得にかかる費用も、産総研が全額負担してくれます。

植田さんの写真

植田

博士号取得者に対しても、パーマネント型研究職員の採用があることも魅力的ですよね。基本的にアカデミックでは、博士号を取得した後、任期付き雇用である程度の経験を積み、パーマネントのポストに就くことが多いと思います。最初からパーマネント型で採用されると、思い切った、チャレンジングな研究や、中長期的な研究に取り組めますよね。

塚崎さんの写真

塚崎

産総研では、かつてテニュアトラック型(博士型)任期付研究員制度がありました。そして、パーマネント化審査通過のために、短期間で成果を出せる研究に取り組むことは必須でした。パーマネント型研究員では、最初から自由度高く研究テーマを設定できていいですよね。ちなみに、テニュアトラック型任期付研究員制度は2022年度より廃止されています。

植田さんの写真

植田

周りで「結婚を考えているけど、博士課程に進学したら結婚の時期が難しくなる、タイミングを逸する」という理由で、博士課程進学を諦めて就職する後輩がいたんです。ライフプランとキャリアの両立を考え、博士課程への進学をためらう人もいると思います。修士卒研究職員として産総研に就職して、産総研で働きながら博士号を取得できるのは、安心感がありますよね。

二宮さんの写真
5.

産総研の未来と今後の挑戦について

産総研の研究者だからこそ、
社会に実用性ある研究を。

産総研ならではの役割を踏まえ、皆さんが取り組んでいく社会課題や、未来の話について、お伺いしたいです。

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二宮

産総研には、国の研究所ならではの研究があると思います。活断層・火山研究部門では知的基盤整備の一環として活断層データベースを整備していますが、国研ならではの業務と思っています。たとえ直接的な利益が出なくても、社会的に重要であれば、やはり国研である産総研が行うべきだと考えています。

塚崎さんの写真

塚崎

商業的な海底資源の開発を目指すにあたって、十分な環境影響評価を行うことは必要ですが、それにかかるコストの検討も必須となります。民間企業がはじめの影響評価手法の検討からコストをかけていくことはなかなかに難しいことだと思うんですよ。環境影響評価手法の検討や実海域への適用、その結果を受けた手法の最適化、影響評価ガイドラインの策定など、国研だからこそできる仕事だと思います。

二宮さんの写真

二宮

産総研で研究するということは、社会に必要とされる研究であるべきですよね。せっかく産総研の研究者なので、社会的ニーズが高くて、みんなに必要だと思ってもらえる成果を出したい。調査にはお金がかかっているので、学術的な研究をこなすだけではなく、自治体の人や社会にとって価値のあるものにしないといけない。

植田さんの写真

植田

世の中に使われるものを作りたいというのは、私も似ていて。いつか誰かに使ってもらえるような、画期的で新しい原理で動くようなデバイスを作りたい。産総研って基礎研究から始まって、応用研究、社会実装研究、実用化まで様々なステージの研究に取り組んでいるんです。画期的なデバイスを思いつくところから始めて、基礎的な研究から実用化まで進んでいきたい。産総研ではそのどのステージにおいても、アドバイスをしてくれるプロフェッショナルな人が揃っていて、自分のアイディアを社会実装までつなげたい人にはとても良い環境だと思っています。

笑顔の職員たちの写真

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